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赤と紅


 身につけた憶えのない、凄絶な剣技。

 これを得た切っ掛けは、恐らく魔物の捕食だろう。

 あの月夜に、死にかけだった俺は一匹の魔物を捕食した。

 その結果がいまなのだとすれば、ならもう一度同じことをすれば、あるいは。

 この胸に穴が空いたような喪失感が埋まるかも知れない。

 しかし、図書室で証拠隠滅のために捕食した際には、なにも起こらなかった。

 相変わらず、喪失感は拭えない。

 あの月夜の魔物でなければならなかったのか。

 それとも単純に量が足りないのか。

 答えの出ない自問自答を繰り返し、そして俺は休日に行動に出た。

 魔物狩り、である。


「これで全部か」


 ゲートはこの街の至るところに、四六時中開いている。

 街を歩けば、出くわす魔物には事欠かない。

 治安維持部隊がひっきりなしに駆け回るくらいだ。

 俺は魔物を探して街を練り歩き、見つけては狩って捕食するを繰り返した。

 けれど、結果は振るわない。

 どれだけ捕食しても、喪失感が薄れることはなかった。


「これじゃあダメなのか? やっぱり、あの魔物じゃないと」


 人気のない路地に、多数の魔物の死体が横たわる。

 血の池のようになった地面を、水音を鳴らしながら進み。

 十一体目の魔物を捕食する。

 やはりというべきか、変化は起こらない。


「もっと別の方法が? でも、どうやって」


 考えても答えはでないとわかっていても、思考は巡る。

 考えごとをしながら、足は次ぎの魔物の死体へと向かっていた。

 その時。


「――ん?」


 ふと気配がして、次の瞬間には、魔術で得物を構築していた。

 瞬時に柄を握り、刀身を振るう。

 空を斬った太刀筋は、同時に突如として飛来した何かを弾く。

 音を立てて転がったそれは、真っ赤な短剣だった。


「誰だ? あんた」


 奇襲してきた人物は、俺の背後にいた。

 人型の異形種のようで、その肌は浅黒い青をしている。

 黒いローブを羽織り、怪しげな風貌をしていた。


「なぁ、お前だろう? お前なんだろう? 俺の相棒を殺したのは」

「相棒?」


 相棒を殺した。

 それを聞いて脳裏を過ぎるのは、月夜に遭遇した斬り裂き魔だった。

 奴はたしか今際の際にこう言っていた。

 先にいく、と。

 なら、奴は斬り裂き魔の仲間か。


「……どうして俺だとわかった」


 惚けることはしなかった。

 無駄だと思ったからだ。

 奴はすでに殺す気だった。

 たしかめようとすらしていない。

 それだけ俺が斬り裂き魔を殺したと、確信を持っているからだ。


「見ればわかる」


 そう奴が告げた瞬間、周囲に赤い壁が迫り上がる。

 いや、違う。

 壁じゃあない。

 これは魔物の血液だ。


「そうか、俺の血を」


 あの現場には俺の血が大量に残っていた。

 その血を使えば、実行犯の特定は容易。

 とくに血液を操る奴にとっては。


「敵討ちだっ、くたばれ!」


 血液は一瞬にして凝固し、それぞれが形を成して鋭い刃物と化す。

 そして中心にいる俺へと、次々に血の得物が迫る。


「やるしかないか」


 血だまりの地面を蹴って奴から距離を取る。

 同時に血の得物のいくつかを斬り裂いて退路を拓く。

 この時、破片を一つ握りしめ、それから血だまりから脱出した。


「……捕食できない」


 凝固した血の得物が捕食できない。

 元は魔物の血液で死体の一部のはずなのに。

 血液が奴の支配下にあるからだろうか。

 厄介なことだ。

 もし捕食できていれば勝負は決まっていたようなものなのに。


「距離を取るか。だが、逃がしはしないぞ」


 奴は血だまりから幾つもの得物を形作っている。

 魔物狩りが仇になってしまった。

 けれど、今ので奴の性質がすこしだけだが掴めた。

 血だまりの上にいたにも関わらず、奴は俺の足下から攻撃をしなかった。

 出来なかったんだ。

 血を凝固させ得物を造るには、すこしばかりの時がかかる。

 だからわざわざ派手に血を浮かせ、俺の判断を鈍らせようとした。


「逃げるか? いや」


 逃げても奴は追ってくる。

 奴には俺を追うに十分な手段を持っていた。

 逃げても無駄だ。いずれ、必ず追い詰められる。

 なら、ここで奴を殺すしかない。


「逃げないか。好都合だ」


 刀を構え、応戦の形をとった。

 この狭い路地で、奴の攻撃は限られている。

 勝機は十二分にあるはずだ。


「ここで死ね」


 奴は形作った血の得物を放つ。

 視界を塗り潰すかのような赤をまえに、速やかな迎撃に入る。

 血の得物の硬度はそれほどない。

 正確な角度から的確に力を入れれば、たやすく断ち切れた。

 断ち切れたあとは血液に戻り、血だまりに再び同化する。

 それを横目に最小限の動きで、最低限の処理をし、今度は進路を斬り拓く。

 再び血だまりに足を踏み入れ、派手に飛沫を散らしながら肉薄した。

 しかし。


「俺に近づくなっ!」


 凝固した血で造る四本の槍。

 それはまるで狐の尾であるかのように、奴の背後から回り込むように現れた。

 一斉に襲い掛かられ、迫るそれらに対し、こちらも刀を振るう。


「――かったっ」


 けれど、この尾はほかのものよりずっと強固だ。

 力加減を間違え、斬れはせずに弾く形となる。

 だが、次からは大丈夫。もうなれた。

 すぐに刀身を翻し、次ぎの尾に刃を振るう。

 太刀筋は綺麗な弧を描き、赤い尾を切断する。


「これで――」


 残りの尾もすべて断ち斬り、奴本体へと踏み込もうとする。

 けれど、その直後に気がつく。

 切断したはずの尾の先が、どれも地に落ちていないことに。

 たしかに斬った。

 だが、この尾はすぐにつなぎ合わされる。

 再結合し、再び襲い掛かってきた。


「くそっ」


 悪態をついて、その場から退避する。

 再び血の池を脱して、奴から距離を取った。


「くははっ、為す術なしか」


 どうする。

 どう攻める。

 奴にこの剣技に比肩するほどの技量はない。

 だが、それを補ってあまりあるほど、血液の再結合が早い。

 斬っても、その端から繋がれてしまう。

 あれでは幾ら斬ったところで、奴までは届かない。

 考えろ。

 どうすればあの尾を突破できる。


「――」


 それは俺の意思に答えるかのように現れる。

 煌々と揺れる紅蓮。燃えさかる刀身。

 またしても身に憶えのないことが起こる。

 この刀は焔を宿していた。


「なんだ? 剣を燃やしてどうする」


 血だまりから得物が浮かぶ。


「……さてな」


 焔を纏う刀。

 これにどんな意味があるのか、定かじゃあない。

 けれど、振るってみる価値はある。


「見ればわかるさ」


 地面を蹴る。

 再度、血だまりへと踏み込み、血の得物を斬り捨てた。

 刃は普段と変わらず、硬度のない得物を両断する。

 しかし、それだけに終わらない。


「――これは」


 斬り裂いた得物が燃えた。

 燃えて、煤けて、灰となる。

 血に戻ることも許さず、斬ったものを灰燼に帰した。


「なるほど」


 この焔は、こう使うべきものか。

 これならあの尾も突破できる。


「――くっ」


 肉薄し、間合いに踏み込み、焔刀を振るう。

 四本の尾は再び一斉に迫りくるが、もはやそれは脅威にならない。

 再結合など、もうさせない。

 四本すべての尾を両断し、瞬く間に燃やして灰燼に帰す。

 奴に身を守る術は、もうない。


「ここで――退けるかっ!」


 奴はそれでも血の剣を握る。

 交差するは血の赤と焔の紅。

 その軍配は、そして紅に上がる。

 血剣は燃えて灰となり、奴の頭は首から落ちた。

 そして血だまりに沈むこともなく、灰となる。


「まったく……どうして……こうも……」


 息を整えながら、灰となっていく奴の身体を見やる。


「想定外のことばかり……起こるんだ」


 あの月夜から、ずっとそうだ。

 予想だにしないことが起こりすぎている。

 本当にどうしてしまったのだろうか。

 どうして、こんなことに。


「――お見事」


 そして、またしても想定外は起こる。

 この場に、新たなる第三者が現れた。

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