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俺は一旦自分の来た世界へ帰る事にした。
帰る前に長老の幕へもう一度訪ねることにした。理由は決まっている、奥さんのことだ。
奥さんは間違い無く日本人だろう。あちらの世界に知っている人がいるはずだ。両親はいないかもしれないけど、兄弟や友達はきっといる。俺は帰ったらそのことを調べたいと思う。
幕を訪れると、長老夫妻は仲良くお茶していた。この歳になっても仲がいいのは微笑ましい。この夫婦にとって俺がしようとすることはいい事だろうか、ここは慎重に考えよう。
俺がお願いすると、奥さんは快くペンダントを見せてくれた。それをスマホで何枚か撮影して奥さんに返して、当時の服の事を聞くと残念ながらもうないと言われた。奥さんは奥さんなりにケジメをつけたかったのかもしれない。それでもペンダントを持っているのは、完全には断ち切れないのかも……。お節介かもしれないが、やっぱり調べてみようと思う。
俺は長老の幕を出て土手を登ると、ミーアも黙ってついて来た。テントを張っていたところへ着くと、バイクを出し元いた世界へ向かった。俺が振り向くとミーアは手を振っていて、きっと俺が見えなくなるまで振っているのだろう、そう思うと早く戻ろうと心に誓う。
俺がアパートに帰って来て最初にやった事。
目の前にあったベットが消えた。俺は興奮して、色々試してみた。それでわかった事だが、収納した物は収納前と同じ状態で出るという事。つまり温かい物は温かい物、凍った物は凍った物に、ストップウォッチ状態であるという事だ。氷を作ったり、冷やしたり出来ないのが残念だが、永久保存だってできるし、賞味期限無しは最強だ。アイテムボックス最高!。
翌朝、父が具合悪いという事にして、数日休む理由を会社に連絡した。田舎の親父ゴメン!!。
今日やる事はいっぱいある。
銀行で資金を下ろしアウトドアショップへ、大きめのシェルタータイプやドーム型テントを購入。何時もなら躊躇するところを今日は衝動買い。欲しいと思ったものはどんどん買う。支払いが100万超えたら女性の店員が、天使のような笑顔をくれた。あの笑顔が見れるなら、大人買いもいいかもな。
どんどん買うぞ!、気合いを入れて商店街をハシゴする。それでも、空手で歩いているのは、アイテムボックスのおかげだ。やっぱええわ、アイテムボックス。
商店街を歩いていると、例の看板が目に入った。
(あ!、そうだ)と、思い出して看板に従う。
風格があるが古い建物。大丈夫かなと中を覗くと、奥にいる老人と目が合った。釣られて中に入ると、要件を聞いて来た。仕方なく袋を出すと、メガネを掛け中身を確認する。もっと調べていいかと聞いてきたので、どうぞと言って腰掛けて待つ事にした。
待つ間暇なので店内を眺めていると、目が止まった商品があった。立って近づくと色んなペンダントが飾ってあった。それらを見ていると、声が掛けられ、店主のところへ、
「買取なら450万で買うよ」と、飴玉でも買うような言い方に俺は驚いて「大丈夫ですか」と、失言してしまった。
「何を言っとる。こちとら信用が第一、即決現金払いの真っ当な商売じゃなきゃやっていけないよ」と、怒り気味に言う。
その時車が店の前に止まる音がして振り向くと、顔に切り傷のような痕があるスーツ姿の男が駆け込んできた。
「店主、これ頼む」と、懐から拳銃を出す。
「使ったか」と、手に持ち色んな角度から眺める。
「ああ、2発ほどな」と、スーツ姿の男が、イライラしながら当たり前のように言う。
「20万じゃな」と、店主も骨董品でも買うような口ぶりだ。
「それでいい、頼む」と、言って、金を掴み出て行った。
(え!、真っ当な商売とか言ってなかったか。信用第一って、あの手の人たちに信用されても駄目だろう。これ絶対やばいよな、どうしよう)などと考えていると、
「で、お客さん。どうするんだい」と、こちらを見る。
「お願いします」と、金を受け取りそそくさと店を出ていった。