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村は一段低い湖岸近くの平坦な土地にあり、家では無くテントで生活しているようだ。
俺が連れられて行った先は長老の幕で、長老は俺を見るなりちょっと驚いたようだが、この村で住むことを許可してくれた。
用事が済みみんなが出て行った時、俺は残り、なぜ驚いたのかを聞いてみた。
「ああ、その事か。尻尾無しを見るのは久しぶりだったのでな」
その返答に今度はこちらが驚いた。
「見たことあるんですか?」驚きで、声のトーンが高くなる。
「儂が子供の頃だ。湖に筏が浮かんでいて、そこに人が一人乗っていた。
その筏が岸に着くと、乗っていたのが尻尾なしじゃった」長老はそこまで言うと夫人が差し出した水を口に含んだ。
「それで、その人はどうなりました」「生きているんですか」と、立て続けに質問した。
「ああ、生きているよ。うちの婆さんだ」と、長老は紹介した。
あっけない返答に俺はこけそうになったが、よくみると確かに尻尾は無いようだ。耳は帽子を被っているのでわからない。
夫人は察したのか帽子を脱いで見せた。
(本当だ、耳が無い)
ついでに横の髪の毛を分けるとそこに耳があった。
(人間だ、この人は人間なんだ)
俺は興奮して矢継ぎ早に質問した。
「あなたの他に人間はいるの」
「記憶が無いのです。私の記憶はここに来てからのものだけです」
「どこから来たかわかる」
「わかりません。気がついたらこの村にいたのです」
「魔法は使える」
「いいえ、使えません」
俺は少し考えてから最後にお願いした。
奥さんの首に下げているもの見せてくれませんか。
俺が受け取って見るとハート型のペンダントで色はゴールド、裏には『Made in Japan』と小さな文字があった。