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1-3

先程スマホに視線を向け外したイヤホンを付けようとした津田さんに俺は話し掛けた。


「今日の合コン楽しみですね?」


「まぁ」


「俺、もう数年彼女いなくて」


「そうですか」


「津田さんは彼女いますか?」


「いたら来ませんよ」


「で、ですよね……」


「……」


「……」


相変わらず怪訝そうな津田さん。


少しだけ続いた会話に一安心。だがまた流れる沈黙に気まずい空気。



俺は別に人見知りという訳じゃないが、この空気の中では軽やかに話し掛ける事は出来ない。


間を埋める為に津田さんに何か質問をしようとしたが、初対面の人に対してあれこれと聞くのも馴れ馴れしくて失礼かも知れないと躊躇った。でも何か聞かないと何もわからない。


津田さんにウザがられても良いから、と言うか、まずはこの気まずい空気をどうにかしたい。


気まずい空気を感じているのは多分津田さんも同じだだろうと、思いながら以前高橋から貰ったメールで、『高橋と津田さんは専門学校の同級生』という事を思い出した。



「そう言えば津田さんは高橋と同じ動物系の専門学校だったんですよね?」


「そうですが」と彼はスマホに目を向けたまま答える。


「じゃあやっぱり動物好きですか?何の動物が一ですか?」


「動物は全般に好きですが」とスマホから顔を上げ俺を見て言う津田さん。



彼のオーラが和らいだ気がする。



「特には」と続ける津田さん。


「ヨッシャー!!何か嬉しそう?動物ネタで掴んだ!?」と俺は本日、二度目のガッツポーズを心の中でして、津田さんの言葉の続きを待つ。




「あー良かった。いたいた。おーい、悠」と言いこっちにやって来る男。その男に津田さんは「来たか?透」と言いながらスマホを仕舞った。



俺達の側にその男が来た時、津田さんとその男は人はパチン!とハイタッチをした。


「何か津田さん動物ネタ振った時よりも嬉しそうじゃねえ?ってか、名前で呼び合うってどんだけ仲良いの?俺と高橋も仲は良い方だが、互いに名字だぜ?ってか、誰?」と、その光景を見た俺はった。


「あ〜の?津田さん。そちらの方は?」と聞く俺。


「あっ俺?俺、木下透。今日の合コンメンバー」とその男が自ら答え、続き様に「悠と一緒にいるって事は、猫田さんだろ?宜しく!」と右手を出し握手を求めて来た。


いきなり握手を求められたので、俺も握手をして自己紹介をしようと右手を出す。俺が木下さんの手を握る前に木下さんは俺の右手を握り、左手で俺の右手をバチン!と叩き「うっすっ!」と言った。そして俺の右手を包み込んだまま手を上下に振る。


されるがままの俺は叩かれた手の甲と上下する肩と二の腕が痛む中「何処の挨拶だよ?」と心の中で呟く。



俺の右手を振るのを止めて手を離した木下さんは「何か話の途中ぽかったけど何話してたの?でもこいつ人見知りするから、会話弾まないっしょ?」と言う。



今までの津田さんの素っ気ない態度は人見知りのせいで、別に初対面で嫌われていた訳じゃないと知り、一安心な俺。


「仕方ないじゃん」と小声で照れくさそうに呟く津田さん。


「ゴメンな。まぁ、気長にかまってやってよ。その内なつくから」と木下さん。


「なつくってペットかよっ!」俺はつい声に出して突っ込んでしまった。


「ペット?そうそうペット。何か小動物的な警戒心が。あ〜でも小動物と言うより、コイツは蛇だな」と木下さんは言い、一人で「うんうん」と頷き、そして更に一人で「種類で言うなら……」と悩んでいるようだった。


「蛇?」と俺。


「そう似てない?コイツひょろいし、あと粒羅な瞳とかが」と津田さんを指差しながら言う木下さん。


「あぁ〜言われてみれば」と津田さんを見た俺は言う。


「でしょ?俺、蛇結構好きなの」と笑いながら津田の肩をバンバン!と叩く木下さん。


第三者の俺から見ればその音に結構痛そうだ。


叩かれている当人の津田さんは「止めて」とその手をあしらう。


唐突に肩を叩かれた割には、津田さんの顔は満更でもなさそうで、木下さんと津田さんの二人の友情もしくは信頼を感じた俺だった。


そんな二人を見ていると木下さんが「悠とは家が近所で親が仲良かったから、小さい時からの幼馴な染み。ちなみに高橋とは悠を通して知り合った」と馴れ初めを話してくれた。


「へぇ~幼馴染みですか。ちなみにさっきの『幼馴な染み』って『な』が一個多いですよ」と俺。


「え?そう?ちゃんと言ったよ。『幼馴な染み』って」と木下さん。


「いや、言えてないし」と津田さん。


「じゃあ真似してみて下さいね。幼馴染み」と言う俺に「幼馴な染み」と返す木下さん。


「おさな」


「おさな」


「なじみ」


「なじみ」


「幼馴染み」


「幼馴な染み」



「ほら言えてないし」と俺。


「そうか?」と木下さんは言い、「幼馴な染み。幼馴な染み。幼馴な染み。幼馴な染み。幼馴なな染み」と少し早口で繰り返す。


「ほら全然言えてない上に最後増えてるし。最早わざとですか?」と俺。


初対面の俺と木下さん。その二人がテンポ良く話す姿に「初対面だよね?」とクスクス笑う津田さん。




「お待たせ」と高橋が戻って来た。そして木下さんが来ている事に高橋は「おっ、木下も来たって事は俺が最後になるな。悪い」と言う。


「『最後』って言ってもどうせ一番最初に来て、猫缶持参で野良猫と遊んでたんだろう?」と木下さんは言いながら、今度は高橋の肩をバンバン!と叩く。


この時も第三者の俺から見ればその音は結構痛そうだが、高橋も顔は満更でもなかった。


「待ち合わせるといつもの事だし」と津田さん。


「まぁな。ここの子達は人懐っ子が多いから」と嬉しそうな高橋。



流石、高橋の友達。わかってらっしゃる。



「そういや、さっき女性の幹事から『待ち合わせ送れる』ってメール来たんだけど、どうする?」と手にしていたスマホのメール画面を俺達に見せる高橋。


スマホの画面を見たら丁度時刻も一緒に見えた。待ち合わせ時間を少し過ぎた午後六時三十二分だった。



合コン場所はこの広場から徒歩約十分の所にある居酒屋で、予約した時間は午後七時。



俺達はその場で少し話し合い『六時五十分まで広場で待ってる』という事にして、そしてその事を高橋は相手の幹事にメールを送った。

五十分までのあと約十分ある。津田さんと木下さんとは初対面だが、もう挨拶は済ませたし、どのように時間を潰そうかと思っていたら『ニャー!ニャー!』と突然猫の鳴き声がした。


「あっ、返事来た」と高橋はスマホの画面を触り、メール画面をまた俺達に見せてくれた。



『一人の子がまだ仕事中なの。仕事終わるのが七時になりそうみたい。だから広場に着くのは七時十五頃ぐらいかな?だから時間になったら先に行っててくれる?ゴメンね』



そう書かれたメールは短いのか長いのかはわからないけど、その文中にビル、時計、焦る顔や泣いている顔などの絵文字が、多様に使われていた。


俺は普段から絵文字は使わない。というか、イマイチ使うタイミング(種類)がわからない。それは俺に限らず大概の男性がそうだと思う。


なのでそのメールを見た時、多様な絵文字は赤と青の絵ばかりで、メール文の黒と合わせて三色しかないのに、何故かとても鮮やかな物に見え、流石、女子だなと、感心した。



俺が鮮やかなメールに感心している内に、高橋は『了解』とメールを返したみたいだった。



それから数分その場で俺達は他愛もない話をしつつ時間を潰す。そして五十分になったので、居酒屋へ向かう為に広場を出る。



居酒屋へ行くには広場を出たらまず右に五分ぐらい歩く。すると大通り商店街が見えて来る。その商店街を三分ぐらい歩くと別の商店街が交わる十字路に差し掛かる。その差し掛かった十字路を右に曲がり、二分ぐらい歩くと居酒屋に着く。



広場を出て更に他愛もない話をしながら高橋と津田さんが前を歩く。その二、三歩後を俺は木下さんと並んで、こちらも他愛もない話をしながら歩く。


隣を歩く木下さんは何故か俺の肩を抱いている。そして時より(やっぱり?)肩をバシバシ!と叩いて来る。


津田さんと高橋で見聞きした木下さんが肩を叩くバンバン!という音は『結局痛そう』じゃなく、『かなり痛い』物だった。


痛いが初対面の俺は先程の津田さんみたいにあしらったり、二人のように満更の顔は出来ない。


普段、男と言うか男に限らず他人に肩を抱かれる事などはない。なので気恥ずかしさにあと痛さに自分の足下を見ながら歩く。



そんな俺に木下さんは心配そうに「大丈夫か?」と言う。だが心配そうな言葉とは逆に手は相変わらずバシバシ!と肩を叩く。


気恥ずかしさと痛さに耐えながら「大丈夫ですよ」と木下さんの方を見て答えた俺はきっと愛想笑いを浮かべていたと思う。なので最早『答えた』より『堪えた』の方が正しいのかも知れない。


気恥ずかしさと痛さに耐える俺が、再び足下に目を向けると履いているスニーカーの右紐が解けかかっている事に気が付いた。


「ちょっと紐が……。結び直すんで先に行って下さい」と言いその場にしゃがむ俺。


「おぉ」と木下さんが先に歩き出すのをしゃがみながら視界の端に捕らえた。しゃがんだ後に何気に前を歩く三人を見たら今自分が道のど真ん中にいる事に気が付いた。


「俺邪魔だよな?」と呟き立ち上がり道の端に寄って再びしゃがみ、解けかかる右足の紐を一旦解いた。


解いた紐をきつめに蝶々結びで結び直したら、何故か縦よりだった。もう一度解き結び直してみたが、また少し傾いた蝶々結びになってしまった。更にもう一度結び直そうかと思ったが、こんな事にあまり時間を取りたくない。


時間を取りたくないが、何となく解けていない左の紐も解き結び直してみら、やっぱり少し傾いた蝶々結びになった。俺、不器用だ。



左右の紐を結び直した後、しゃがんだまま前を歩く三人を見たら、もう既に十メートルぐらい先を歩いていて、あと少しで角を曲がりそうだった。



俺は急いで立ち上がり三人に追い付く為に駆け出した。駆け出して七歩目ぐらいで蹴躓き危うく転びそうになったが、何とか前のめりで耐えた。



蹴躓いた足下を見たが蹴躓くような段差や小石などの障害物は特になかった。


今度は顔を上げて辺りを見たが前から向かって来る人はいないし、俺の後にいた数人は各々が道の左右にある様々な店を見ていた。


あとは少し離れた場所にいた五匹の猫達が十個の目で俺を見ていたが、猫なのでカウントしない。



誰にも蹴躓く所を見られずにすんだとホッとするが、それでも何もない所で蹴躓いた事に、新たな恥ずかしさを胸に俺は蹴躓いた所を二、三度見してから、前を向く。


丁度三人は角を曲がる所だった。


「ちょい、待って!!」と心で叫び、本日、二度目のダッシュ。


良く『一度あるは二度ある』と言うが、それを一日に(それぞれが違う事だが)二度も体験するなんてと思いながら、俺は再び駆け出した。



再び駆け出した男を先程の五匹の猫達が見送る。そして男の背中が遠退いて行き角を曲がり見えなくなった所で、黒猫が欠伸をした。それを合図に残りの四匹の猫は各々の方向へ歩き去って行った。


残された黒猫は「ニャオニャオ」と鳴きつつ喉をゴロゴロと鳴らす。


いつの間にか黒猫の横に立っていた黒ずくめの長身の男が黒猫に答えるように「彼だよ」と言う。



黒猫は駆け去った男の方を一瞥してから、今度は横にいる黒ずくめの男を見上げて、哀れっぽい声で鳴いた。

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