依頼
第9話投稿しました。
カイラス団長に指定されていた陽が頂点に差し掛かる頃に、シュウリス学園都市の内側の壁の門へ到着していた。
一緒に来たのは、自分、コトネ、ミィの3人だ。
身なりを整えておこうと、3人はアメリカ陸軍の礼服を着こなしていた。 自分で言うのもなんだが、中々のものである。
コトネとミィに「似合っている」と言うと、顔を赤くしていた。 熱でもあるのかと思って聞いてみたが大丈夫と言う。
それで、そのまま連れてきた。 護身用にベレッタM92とその替えの弾倉も持つ事を忘れていない。
今日はこれから、カイラス団長に誘われて会食に来ていた。
ちゃんとした交流も初めてだから、緊張している。 ミハイルの事もあるし、正直に言えば辞退したいところだが断りきれなかったのだ。
そして、自分はもう1つ確認するのが必要だと考えていた。
カイラス団長達を助けた際に襲ってきた魔物使いの人相を確認してもらいたいのだ。
いつまでも兵舎の空き部屋に置いていたくはないのだ。
門番をしている兵士に近付いて、冒険者証を見せてカイラス団長への取次ぎをお願いする。
確認すると言って、兵士は中へと入っていった。
しばらく、待つことになるかもしれない。
「おぉ、来ておったか。 なんじゃ、態々兵士にワシに確認させにいったのか?」
不意に後ろから声を掛けられ振り返ると、カイラス団長だった。
今日は、鎧を纏っており昨日の怪我はどこへったのだろうか。
そんな不思議そうにしていた視線を感じ取ったのか、カイラス団長は、自身の胸を叩いて笑っていた。
「街には、怪我をした時に治療してくれる魔法使いもおるからのぉ。 もう少し遅れていたら間に合わなかったと言われたわ」
「間に合って良かったです」
やはり、傷を癒す魔法も存在しているようだ。
現状では自分自身が魔法を使える気はしない。
タブレットと妖精達がいてくれる時点で、魔法を使っているようなものだから多少の憧れはあっても使いたいとも思っていないのだが。
「ほぅ、この前会った別嬪さんと新しい娘がおるの。 猫又族じゃな」
「はい。 もしかするとミハイルさんから伺っているかと思いますが」
「そうじゃな。 お主がしたことは別に違法でもないからの。 まぁ、ミハイルがしようとした事も違法ではないんじゃが」
その言葉にビクリとミィが反応するが、頭をポンポンと撫でてやると落ち着いたようだ。
一瞬、刺すような視線を感じた為、振り返るとコトネがそこにはいた。
しかし、何事かと自分を見つめ返すだけで特に変わった事はない。
そんな自分達の事を見て、カイラス団長は優しい瞳で見つめてきていた。
「良い主人に会えた様でなによりじゃ」
「はいですにゃ!」
ミィ、嬉しい事を言ってくれる。
カイラス団長は、マジマジと自分達を頭から爪先まで吟味しているようだ。
1度、「うん」と頷くと、笑顔になった。
「前会った時とは服が違うのぉ? しかも、同じような服を着ておる」
「招待されましたし、いつもの服ではと思いまして」
「なんじゃ、気を使わせたの?」
「いいえ」
さすがに、招待されていつもの装備で行くわけにはいかないだろう。
さて、先にあの男の事を報告しておくべきだと思い、早速カイラス団長へ頼まなければ。
「カイラス団長、まだお時間はありますか?」
「ん? なんだね?」
「出来れば、あまり人が居ない方がよいのですが?」
「分かった。 ワシだけでも良いのならかまわんか?」
内壁の門をカイラス団長の案内で中へと入る。 自分とコトネ、ミィがその後に続いていた。
進む先へ道を馬車が通っていったりと、自分達以外にも呼ばれているようだ。
すると、教会のような建物がありその裏の方へとカイラス団長は案内された。
中へと入ると、司祭がおりカイラス団長が一言二言と話すと、奥の部屋に案内された。
「それで、ナオトよ。 いったい何用かな?」
「見ていただきたいものがあるんです」
タブレットのカメラアプリを使用して、魔物使い撮っていた写真をカイラス団長へと見せる。
初めて見た写真に驚いていたが、映し出された男の写真を見て驚いていた。
「こやつは……。 どこでこの男を?」
「説明します」
森で魔物の群に襲われた原因だと言う事を説明する。
この男を倒す事で、あの時襲い掛かってきた魔物がその場から消えてしまった。
魔物を操っていた男だと説明する。 誰かに指示されてきたような事も独り言を言っていたと説明する。
「そうじゃったか」
「遺体もあります。 そのままにもしておけず、何かお役に立てればと思いまして」
「遺体もじゃと!? 処置をしなければならんのじゃぞ!」
「えっ?」
遺体はそのままとなっていると、実体を持たない魔物であるゴーストに憑依し歩く死体、ゾンビとなって他の人を襲い始めるだ。
生きた人間を求め、さ迷い歩くのだ。 そして、殺された者もまたゾンビと化してしまう。
それが原因で過去に小さな村が全滅してしまった事があるのだ。
今は必ず司祭が儀式を行い、ゴーストに憑依されないようにする事が義務付けられているのだそうだ。
「ゾンビですか?」
「そうじゃ。 その男の遺体はどこじゃ?」
「今のところは起き上がるなどは確認されていません」
「そうか。 しかし、時間が経っておるのにか」
やはり基地へ収容した事が原因なのだろう。
基地内部でゾンビ化されたら困った事になったが外とは隔絶された場所のようだから、問題なかったらしい。
「とにかく、やつの遺体が必要じゃが……、すぐに処置をさせてもらんだろうか?」
「わかりました。 ここですぐにでも?」
「うむ。 ゾンビになられても困るしのぉ。 ここならゴーストは聖域じゃから入ってこれん」
「わかりました。 すぐに」
編成で妖精3人を配置する。
万が一を考え妖精達は完全装備にしてある。
そして、男の遺体を運んでこさせると、教会の床に寝かせた。
司祭が、儀式をしている横でカイラスは改めて死んだ男の顔を見ていた。
「身に覚えのある顔だったようですね?」
「うん、まぁのぉ。 他人の空似だと良いのじゃが」
どうも、知っている人間の犯行のような様子だ。
もし、何か聞いてしまったら巻き込まれるだろう。
「のぅ、ナオトよ。 わしは貴様の持つ武器だったり仲間の事を詮索するつもりはないんじゃ」
「はい」
「この男もお主から事情を聞いただけじゃ。 ナオト、お主を信じて頼みたい」
現在、護衛の団員はたったのカイラス団長を含めて4人。 街の兵士は、学園都市の兵士だそうで当てにする事は出来ない。
すでに王都へ連絡はしているそうだが、新たに団員を呼び寄せたとして1週間は掛かる道のりだそうだ。
暗殺される可能性のある相手ではある。 しかし、姫はまだ若くこれからの人生がある。
私利私欲で殺されていいなんて、そんなわけは無かった。
今、お姫様は危険があるかもしれない。 それは放っておく事は出来ないと思う。
「わかりました。 しかし、自分は騎士団のミハイルさんと意見の違いがありまして……。 それでも良いのですか?」
「いや、あやつの事はワシに任せて欲しい。 ミハイルにも色々とあったのじゃ」
ミハイルの生い立ち、そして戦争によって父親を失った事をカイラス団長から聞く。
自分だって同じ立場ならばと考えたが、その気持ちを想像する事は出来てもミィや亜人を虐げる事には賛同する事は出来ない。
でも、気持ちは考える事は出来た。
「分かりました。 1週間、それでよろしいのですか?」
「うむ」
こうして、カイラス団長の頼みでお姫様を護衛する事になった。
部屋は、元々屋敷に駐在する団員の為にあるらしい。 本館とは別に別館があるそうだ。
実行犯だった魔物使いの男の儀式を終えて、教会を出る。
男の遺体は、そのまま教会の共同墓地へと埋葬する事になった為、全てが片付いたわけではないがやっと肩の荷が下りた気がした。
タブレットを確認すると、【王国の姫を護衛せよ】と任務が表示されていた。
依頼主は、カイラス団長となっている。 期間は、1週間だ。
万が一、襲撃が有る場合はこれを撃退し姫の生命を守る事。
タブレットを確認していると団長に呼ばれて、教会を出て、またしばらく歩く。
カイラス団長は、考え事をしているようで道中は一言も話さなかった。
ただならぬ雰囲気だった為、その後を静かに着いて行く。
高級住宅街とでも言おうか、そんな建物が普通の一軒屋に見えるくらい大きな屋敷に到着する。
門は、街の兵士が屋敷へと向かう来賓の確認をしているようだ。
1人、騎士団の鎧を纏い他の兵士に指示しているものがいた。
ミハイルだった。 カイラス団長の横に立っていた自分に気が付いて、一瞬顔色が曇るがすぐに真顔になる。
「ミハイルよ。 どうだ?」
「団長! とナオトか。 問題ありません」
「ミハイル! 失礼な態度はいかんな」
「申し訳ありません」
頭を下げるミハイルだったが、自分は別に何とも思っていなかった。
慌てて手を振り、頭を上げるようにお願いする。
顔を上げたミハイルだったが、イケメンスマイルとでも言おうか先程とはうって変わった笑顔を見せていた。
「本日は楽しんでいって下さい。 さぁ、中へどうぞ」
カイラス団長も先へと促すので、屋敷へと歩き出す。
「亜人風情が着飾るだと」と言うミハイルの呟きが耳に届く。
自分に届いているのだから、ミィにも聞こえているだろう。
しかし、見ている限りしっかりとした目で自分を見つめて返してきた。
その姿を見て、ミハイルには何も言わない事にした。 もう、あの男の言葉で傷つく事はないだろう。
屋敷へ入ると、カイラス団長とはお別れとなった。
給仕に案内され、パーティー会場へと入る。 立食形式だ。
お酒を勧められたのだが断った。
正直、お酒はそんなに強くないし、水でいいと考えたのだ。 コトネとミィも同じように断って同じく水にしていた。
会場には、色々な人達が着ているようだ。 女性は豪華なドレスや宝石を身に纏い、男性もまた着飾っている。
料理に舌鼓を打ちながら、会場の端の方へと移動する。
こういう場に来た事なんてないから、マナーとかまったく分からないからだ。
移動していると多少、視線を集めはしたがどうという事は無い。 早く帰りたくなっただけだった。
そうしていると、場内がざわつき始めた。
皆、同じ方向を見ている。
つられて、自分もそちらへと視線を向けると、少女がいた。
ピンク色を基調にして装飾も派手ではなく花の様な印象を受けるドレスを身に纏い、髪は金色、瞳は少し切れ長な目で、水色の澄んだ色をしている。
背は、低くコトネやミィよりもさらに低いのではないだろうか。
そんな少女が、メイドとカイラス団長を引き連れて自分のところへとまっすぐに歩いてくる光景だった。
なぜ、自分達のところだと分かったかと言うと人垣が左右に割れたのだ。 そして人垣で出来た道をまっすぐに歩いてくるのだからそれくらいは分かる。
目の前に少女が立つ。 背が低いので自分が見下ろす形となってしまっていた。
こういう場合は、「頭が高い!」と言われかねないので慌てて片膝をついた姿勢を取る。 そうする事で、なんとか少女の目の高さくらいまでになっただろう。
「うむっ。 きっ、きさまがナオトか?」
「はい。 お姫様」
今、一瞬噛んだようだ。 見たままの少女で緊張が解れた。
「此度は、良くやってくれた。 褒めてつかわすぞ」
「お姫様にそう言ってもらえて光栄です」
「名前は、そう。 ナオトと言ったな」
「はい」
「今日は楽しんでいってくれ。 それでは失礼するのじゃ]
すれ違いざまに「本当にありがとうございます」とすれ違いながら言われた。
振り返った時には、他の来賓へと挨拶に戻ってたのだが彼女自身の言葉で言われた事は嬉しい事だった。
そんな風に暖かい気持ちになっていると、自分の後方、更に言うとコトネとミィの立っている場所からジーっと見る視線があった。
振り返ると、特になんとも無いのだが背中に視線が刺さる。
なぜか分からず、アハハと笑って誤魔化す事にした。
しかし、のんびりと食事に舌鼓出来たのはここまで。
自分が、お姫様の事を間一髪救ったと言う噂が広がってしまったのだ。
あちこちから、声を掛けられたが正直言って人の事を覚えるのは苦手である。
どこそこの商会の者だとか、どこの貴族だと言われても覚えきれるはずが無い。
しかし、ミィのような亜人はこの場にはいないようだ。
チラチラとミィの事を見る者もいるようだが、礼服を身に纏い、手入れもしっかりとしてきてもらったのだからどこに出してもおかしくない。
また、コトネと自分以外に髪の色が黒い者もいなかった。
それも珍しいのかもしれない。 良く見てくる。
「ナオト殿は、どちらの出身なのですかな?」
「まぁ、従者の方は素敵ですわねぇ」
「カイラス団長とはとても親しそうでございますな」
適当に相槌を打つだけで精一杯だ。
開放されたのも、パーティーが終わってからだった。
来賓がどんどんと帰ってとうとう自分達3人だけが会場となった部屋に残っている。
給仕や召使が後片付けをしていると、カイラス団長が迎えに来た。
「それでは、部屋へ案内しよう」
そう言って、連れられてきたのは離れであった。
しかも、現在、部屋は使用されていない。
4人の騎士は、本館の方にいるそうである。
「まず、ナオトには姫様の学園の送迎の護衛についてもらいたい」
「それは……。 てっきり屋敷の警護だと思いました」
「それも考えたのだがのぉ。 屋敷の門はこの学園都市の兵士が警備しておる。 身辺の警護は侍女が、乗る馬車はワシや騎士団の者が直近の守りを固めておる」
「そうすると、自分達は必要無いのでは?」
カイラス団長は、首を横に振って否定する。
お姫様の馬車からさらに周囲を囲むように護衛してほしいと言う。
隊形や合図、また、万が一の場合を想定した対応をカイラス団長に教わっていく。
「それでは、1週間、よろしく頼むぞ」
「はいっ、宜しくお願いします」
あてがわれた部屋からカイラス団長は出て行く。
しかし、なぜか分からないがコトネとミィも同じ部屋だった。
部屋はワンルームしかない。 広いベッドが1つあるだけである。
「とりあえず、ベッドは2人で使っ「お断りします!(にゃ!)」」
見事に2人の声がハモッたのだ。
なんだか、デジャヴを感じていたがどうにも疲れてしまった為それ以上の追求はやめておこう。
今日はゆっくり出来そうだとベッドへと潜り込むと、2人も自分の右側にコトネ、左側にはミィが横たわる。
それからすぐに眠気が襲ってきた。 夢の中へと旅立つのだった。
読んでくれてありがとうございます。
今回は、いつもより短い更新となってしまいました。
どうぞ、これからも宜しくお願いいたします。