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ファーストコンタクト

第4話始まります!

 街道を進み、森へと入ろうとしたが、一度分隊を止める。

 振り返ると、自分を含めて全員が顔が誰だか分かる状態だ。

 持っている武器も、格好も先ほどの騎士と比べると異質の存在である。

 この格好、もしくは武器を使用した場合は大丈夫なのだろうか。

 タブレットを取り出そうと思うと、すでに手元にあった。 必要な時にはちゃんと手元に現れる。

 いつもは、どこにあるのだろうかと考えたが、使用できなくなる訳じゃないなら問題ない。

 1つ、装備が欲しくなったのだがすぐに生産できるものかと考える。

 『生産』のアイコンをタップし、生産出来るリストを呼び出す。

 CPコマンドポイントは、4300ポイント残っている。 現在、『開発』レベルが上がっていない為、現在使用しているM4カービンとベレッタM92の弾薬は生産できる様だ。

 その他の武器、車両、艦船、航空機は選べない状態になっているが、『アクセサリ』の項目が選べるようになっていた。

 タップして開くと、弾倉を入れる為のマガジンポーチや弾倉マガジンもここで選べるようだ。

 しかし、今はもう必要数は揃っていると考え、目的の物をスクロールさせて探していくと、見つけた。

 探していたのは、目元に穴が開けられた布製の顔に被る物である。

 目だしバラクラバと呼ばれる顔を隠蔽、または剥き出しのままの顔面を覆い保護する目的にも使用されている。


 「これならば、大丈夫か。 全員、着用」


 1枚、100ポイントで生産する事が出来た。 100均かと心の中で突っ込んでしまったが実際に着用してみても肌触りも悪くないし、通気性もバッチリだ。

 部下に装備させるのは、編成画面からで無くても良いようだ。 実際に、言葉でちゃんと伝わっており改めてタブレットの編成画面から各員の装備画面を見ると目だしバラクラバとちゃんとあった。

 しかし、顔を隠した完全武装の兵士がこんな風に走っていたら何事かと思うだろうか、それともこの世界では普通の事だろうか。

 先ほどの騎士は、何か任務クエストの途中のようだった。 あまり気にする必要も無いのかもしれないな、なんて思いながら走っていると目的地である森へと到着した。

 森を迂回せずに作られたのか、または街道の周りに森が出来たのかはわからないが、不思議な雰囲気がある。

 騎士の襲われた場所がそんなに遠くないと良いがと思いながらも、分隊は走っていた。

 『開発』のアイコンをタップしたのだが、【緊急任務エマージェンシークエスト中には使用できない】と操作が出来なかった。

 使っているうちに使い辛さも出てくるだろうから、神様にお願いすれば仕様も変わるのか確認しなければなぁ、と思う。

 あとは、『開発』で車両を手に入れられるようにして、CPコマンドポイントで車両を手に入れよう。


 改めて、森の様子を探ってみる。 タブレットには街道と木々の境目が表示されていた。 今は街道を9つの青い光点が進んでいる。

 静かな森だった。 鳥の鳴き声とか、風で木が揺れる音などもしない。

 そのせいか、音に反応し、M4カービンの銃口を向けるがなんでもないただの風が吹いただけだったりした。

 しかし、しばらく進むと何かがぶつかり合う音や、爆発する音が自分の耳にも届いてくる。

 コトネと妖精フェアリィに音を立てないようにと指示を出し、早駆けで進む。

 すると、街道が開けた場所が見えてきた。 休息などが出来るように屋根のあるベンチがあったがそこには横転した馬車や人が倒れており何かを守るようにして隊列を組む先ほどの彼と同じような鎧を着込む3人の姿があった。

 そして、その3人を囲むようにして襲い掛かる魔物の存在がようやく見て取れたのだ。 

 街道から一旦逸れ、木々を盾にし様子を伺う。 魔物に対して攻撃するにしてもこちらも損害を出すわけには行かないのだ。

 万が一、騎士の3人に流れ弾でも当たる可能性を考え、タブレットから地図マップを呼び出す。

 今、通ってきた場所は明るく地図上に表示されているが、それ以外は暗いままである。

 地図マップ上では幾つかの光点が光って表示されており、正面の騎士の3人は、彼我不明の為か色は黄色く、分隊が青色、魔物は敵対勢力である為に赤色で表示されている。

 3つの勢力がこの場所におり、人間である騎士の方は味方と想定するとしよう。 しかし、騎士は3人が戦っているのに黄色光点は6つある。

 戦えない人物が彼らの後ろに控えているのかもしれない。


 「コトネ、分隊から4人を連れて、あの騎士の格好をした3人の左後方へ行けるか?」

 「問題ありません。 到着次第合図を送ります」

 「頼んだ。 残り3人は自分とここで射線を確保する。 合図があり次第撃て」


 喋らない妖精フェアリィ達だったが、表情を見て分かる。 そういうものなんだろうと思っておく。

 意思疎通に問題が無いのだからいいのだ。

 むしろ、やる気満々に見える妖精フェアリィ達も、この戦いは意味あるものだと思っているのだろうか。

 魔物の群は、目の前の人間に集中しているせいか移動するコトネの班にも自分達にも気が付かないでいる。 もちろん、気付かれないように行動しているのだから当たり前だ。

 地図マップを見ると、元来た道を少し戻り、大きく回りこむようにして騎士の一団のいる左後方へと青い光点が移動した。

 すると、指示した場所に着いたコトネから合図が入る。 2つに分けた班で魔物の群に十字砲火を浴びせるのだ。

 ちょうど、自分の班が射撃を始めると魔物の群は森の向こうの街道へと逃れようとするだろうから、そこにコトネ達の班が逃がさないように退路を断つという作戦だ。

 森の中へと逃げる方法もあるだろうが、まぁ、自分自身の指揮能力では、まだこれぐらいしか指示は出せそうにもない。 


 「騎士の方達は、しゃがんで下さいっ! 盾を持っていれば構えて動かないでっ!」


 大声でそう言うと、自分はすぐに銃口で魔物の群に狙いを定める。

 M4カービンの銃床をしっかりと肩と鎖骨の間に出来るくぼみに合せ、身体にフィットするように構える。

 グッと銃が反動でぶれすぎない様に構えると、狙いを定める。 自分の顔側にあるのは照門リアサイトで、その穴から銃口側についている照星フロントサイトがしっかりと見えるように構えると、引金を引いた。 


 「撃てっ!」


 M4カービンに使用される5.56mm×45mm NATO弾が9丁の銃口から放たれる。

 ここで惜しまれるのは、M4カービンには単射セミオートと3発連射バーストだろう。

 連射フルオートがあっても良かったな、なんて考えながら引金を引いていく。

 やはり魔物だからだろうか、耐久力が高いのか、生命力が高いのかちゃんと調べておかないと後々面倒になりそうである。

 5.56mm×45mm NATO弾では、銃弾自体が小さい。 携行数は多くなったのだが、1発1発の威力が低くなっている。

 その為か、魔物によっては当たり所が悪いと、しぶとく立っている個体もいた。

 魔物は慌てて攻撃してきた方向を探しているようだが、森の中から木を盾にして射撃をしている自分達を見つける事が出来ないでいた。

 右往左往し始めるが、時すでに遅いのだ、最後の1体が、地面に倒れて動かなくなり、辺りに硝煙の臭いが立ち込めていた。

 騎士達も何が起こったのか分かっていないようである。 地図マップを確認すると、敵を示す赤い光点も残っていない。

 この世界の来て初めての魔物との戦闘だったのだが、もっと何か感じるkと思っていたのに何も無かった。

 ただ、目の前の敵を倒したんだな、としか思っていない自分に少し驚いている。

 タブレットから呼び出し音で現実に引き戻される。


 【緊急任務エマージェンシークエスト:姫と騎士団を救出せよ! クリア】

 【シークレット:魔物に気付かれずに撃破する】

 【命中率:A】

 【クリアタイム:C】

 【撃破数:A】

 【救援:A】

 【部隊損害:負傷0 戦死0 評価A】

 【獲得CPコマンドポイント任務クエスト達成2000P 撃破600P シークレット達成1000P】

 【撃破内訳 ゴブリン:10P×10体 ゴブリンリーダー:50P×10体】

  

 タブレットの画面に今の緊急任務エマージェンシークエストが達成されたことが示されていた。

 チュートリアルと違って、シークレット達成であまりポイントが手に入っていない。

 もしかすると、任務クエストによって難易度もあるのかもしれない。

 そして、クリアタイムだが走ったが時間が掛かってしまったようだ。

 その分、任務クエスト達成ポイントは下がっているかもしれない。


 「なるほど、CPコマンドポイントはこうすれば手に入るんだな」


 特に今すぐにタブレットを使う、という事は無いなと思ったときには手元からタブレットは消えていた。

 弾薬の補充もまだ今すぐに、というほどではないと思う。 連戦フラグになっていなければ良いのだが。


 『分隊長、ご指示を』

 「コトネは随伴した4人と待機し、周囲の警戒を続けてくれ」

 『了解』

 「自分についていた3人は街道から魔物をどかしてくれ」


 口元に手をあて、騎士から喋っているのを見えないようにして指示を出す。

 自分が考え込んでいたからか、コトネから次の指示を確認されたのだ。 言われる前に指示を出来るようにしなければいけない。

 さて、正面にいる騎士達に視線を移す。 まだ状況を理解していない騎士の3人にどう説明するかと悩む。

 突然、「盾を持って動くな」と言われれば、驚くのも無理は無いだ。 自分だってそうなる。

 何か無いかと考えて、あれを思い出した。 騎士の遺体を基地ホームの兵舎に運び込んでいたのだ。

 妖精フェアリィの1人に先ほどの無くなった騎士の隊章を持ってくるようにと指示を出した。

 魔方陣の中へと消えたのを見届け、まだ固まっている騎士の前へと姿を見せる事にしたのだ。

 もちろん、万が一もありえるかと考え、M4カービンもベレッタM92弾倉は交換してある。

 まぁ、戦闘直後だったから今は手持ちの弾薬しかないが襲われてもきっと対処しきれると思いたい。

 あの、鎧はフルプレートだが5.56mm×45mm NATO弾が通用するかどうかは試して見なければ分からない。

 正直、ここからは出たとこ勝負だった。


 「大丈夫でしたか? 間に合ってよかった」

 「誰だ! 貴様は!!」


 突然見知らぬ格好をした自分に驚き、騎士の1人が剣を向けてきた。

 声からすると、若そうではあるが血気盛んな性格なのかもしれない。 彼自身、頭部に包帯を巻いていて、怪我をしているようだ。

 襲われて、気が立っているのかもしれないと思い、慌てて両手を挙げて戦う意思が無いのだと身体で示す。

 というか、自分は日本語でそのまま話しかけたが、問題なかっただろうか。 そのまま話を続けてみる。


 「自分は敵ではありません。 石田直人いしだなおとと言います。 先ほど、街道で騎士の1人に皆さんの話を聞いて」

 「顔を隠したヤツにそんな風に言われて、はい、そうですかと言えるかっ!!」


 目だしバラクラバを取るかどうか悩んだが、自分だけでも外しておくかと考え直す。

 最初からつけなければとも考えたが、そこまで考えてなかったのだから仕方あるまい。

 外して、改めて彼に向き直る。


 「ヨハンっ! ヨハンはどうした! ここにいるのか?」

 「亡くなりました。 大怪我で無理をしたからでしょうか」


 何が起きたかを説明するが、どうも信用していないようだ。

 姿を隠したままで、自分に何かあった場合を想定して目を光らせている、

 だが、見ているコトネとしては、心配なのだろう。 通信してくるが、問題ないと視線を向ける。

 すると、傍に青い魔方陣が現れ隊章を持ってくるように頼んだ妖精フェアリィが現れた。

 それを見た騎士の1人が「召喚か?」と呟いていた。 そう言う魔法もあるようだ。

 そう言うことにしておけば話しやすいかもしれない。

 聞かれるまでは説明する必要も無いかと考えヨハンと呼ばれた騎士の隊章を手に持ち、相手に見えるように高く掲げた。


 「これが、そのヨハンさんの遺品です。 これ以外にすぐに分かるものが無くて」


 騎士の人垣がわかれ、上半身に包帯を巻いた初老の男性が現れた。 腹部を負傷しているのか、巻かれた包帯には血が滲んでいた。

 ただ、鍛え上げられた身体に目を見張る。 年齢を感じさせない力強さがあった。

 頭には、髪の毛1つ無かった。 怪我をしたとかではなさそうである。

 自分の持つ隊章を見ると、彼が頷く。 それを見た騎士は剣を次々に収めてくれたのだった。

 そして、人垣の向こうに1台だけ馬車が残って居るのが見えた。 その中にいる人物を守ろうとしていたようだ。

 

 「ヨハンの最後を看取ったのだな」

 「いえ、お助けできずに申し訳ありません」

 「見ず知らずの人間なのに、なぜそうまで言う?」


 そんなの、気にした事も無かった。


 「お主には当たり前の事だったのか。 助かった、ありがとう」

 「い、いえ。 ヨハンさんも、姫様と仲間を案じておりました」


 姫という言葉に反応したのか、また騎士の間で緊張した空気が張り詰めた。

 しかし、目の前にいた初老の男が手を上げると空気が和らいだ。


 「聞いてしまったのなら仕方あるまい。 他言に無用じゃ、ナオトよ。 それとまたお主の仲間がそこにおるじゃろ?」


 初老の男性は、コトネが潜む方向を一瞥すると、また自分の方へと視線を戻した。

 指示をとコトネから無線が入り、そのまま出てくるようにと伝える。

 木の陰から現れたコトネを見て、初老の男性は「ほぅ!」と声を上げた。

 コトネも自分と同じく目だしバラクラバを外しており、顔が分かるようにしていたのだ。

 何か考えがあったのだろうが、どうだろう、なかなかの美人だろう? なんて自分まで良い気分になってい。

 当のコトネ本人は何とも思っていないようだ。

 すると、妖精フェアリィの1人が慌てて自分の方へと駆け寄ってきた。

 手の平に何か載せていて、それを自分へと見せたいようだ。


 「すみません、彼女が確認して欲しいと言っているので」


 初老の男性にそう断って、妖精フェアリィの傍にしゃがむ。

 髪の毛は三つ編みで纏めており、黒髪である。 眼鏡をかけていたら、図書委員でもしていそうな雰囲気の娘だ。

 彼女は倒れた魔物の屍骸を街道脇へと寄せていた騎士の手伝いをさせていたのだ。

 大きさは様々だったが、宝石のような物が幾つかありそれと街道の方の間を視線を行ったり来たりさせていた。

 自分もつられて街道を見ると、戦闘の後はあり街道にもダメージはあるようだが先ほどまであった魔物の屍骸が無くなっていた。

 しかも、妖精フェアリィが持ってきた以外にも宝石の様な物や、ナイフや棍棒など武器や鎧も落ちている。

 どれも、そうとう痛んでいるように見えた事と、物によっては銃弾が貫通したような物まであった。


 「なんだ、ナオトよ。 君は魔石マナストーンを知らんと見える」

 「えっ、えぇ。 恥ずかしながら今まで無縁の生活をしていたものですから」

 「なんだ、賢者みたいな事をいうのぉ。 山におったか」

 「田舎物でして……」


 しかし、初老の男性は自分とコトネ、それから妖精フェアリィの格好や使っているだろう武器に目を留めると何か思案していた。

 それもすぐに何か思いついたかのような顔をすると、自分をジッと見る。


 「ナオト、助けてもらって悪いんじゃが身分を証明するものを持ってないか? なんでもいい。 村の出入り証明証だったり冒険者証でもよい」


 身分を明かせる物なんて持っているわけが無い。

 どうするかと考えていると、コトネが前へと出る。


 「分隊長は、あなた達を助けました。 見ず知らずのあなた達をです」

 「それは分かっておる。 ただわしが気になっただけでのぉ。 持っているのか、いないのか?」

 「持っていません。 お見せしたくても出来ません」

 「そうか、まぁ、良い。 それで、他の皆もそうなのか?」

 「そうです。 皆ずっと自分についてきてくれた大事な仲間です」


 「それもそうじゃ」と言って、初老の男性は頷いた。。

 身分証は確かに必要な物だろうから、必ず手に入れておく必要があるな

 今は、初めてこの世界の人間に出会えたのだから良い関係を築きたいのだが、どこの誰かも分からない自分達を信用してくれるだろうか。

 ふと、何か視線に気が付いた。 なんだろうと、そこへ自分も視線を向けるとコトネや他の妖精フェアリィ達が顔を赤くしてこちらをチラチラと様子を伺っているのだ。

 いったい、何事だろうか。 一瞬、何か自分の顔についているのかと思ったが、目の前の初老の男性からは何も感じない。

 何か、我慢でもしているのだろうか。


 「すみません。 コトネは周囲の警戒へ、君は魔石マナストーンの回収を手伝ってくれ」

 「はいっ!」


 そう言って、今にも飛んでいくのでは無いかと言う足取りで、コトネは預けていた妖精フェアリィ達のところへと戻っていく。

 先ほどよりキビキビとした動きに見えたのだが、なぜだろう。

 そんな様子を見て、初老の男性はなぜか微笑んでいた。


 「彼女も、苦労するのぉ」

 「えぇ、自慢の部下です」

 「それだけかの。 しかし、本来、村の近くでも無いこのような場所で、戦える者がいて冒険者として登録もしていないとなるとな」


 さっきも出ていた冒険者という単語。 なんとなくニュアンスは分かるから、ここは話をあわせてもいいだろう。


 「冒険者には、登録しようとは考えています。 ただ、良く分からないので心配なのですが」

 「たいした事はせん。 街には冒険者協会があるからそこで登録するだけじゃ。 詳しくは、そこで聞くといい」

 「街へはまだ行った事もなく、これからどうしようかと考えていたところです」

 「なんじゃ、それならわしらと共にこんか。 どうせあとは街まで戻るだけでの。 色々と知らない事も多そうじゃから、助けてもらった礼に教えてやろう」


 願ったり叶ったりである。

 そう言うことならば、とお願いする事にしたのだ。


 「まだ、わしの名前を言っておらなんだな。 わしの名は、カイラス。 こう見えても、騎士団の1つを纏めておる」


 予感はしていたが、やはり凄い人だったようだ。

 しかし、そんな人もいてここまで騎士が倒されるとはいったい何があったと言うのだろう。


 「なぜこんな体たらくにとでも思っていそうじゃな。 それはおって説明しよう。 姫がおる理由はわしからは説明できん」


 お姫様がここにいる理由はあるが、お忍びであった。

 その為、騎士団の1つ、カイラスの元に声が掛かる。

 王都守備連隊第3隊の一部を率いて姫の護衛に付いたそうだ。

 公に出来ない為、限られた人員しか避けなかった。 それでも、30人の護衛がいたそうである。

 それが、今残っているのは、カイラスを入れて4人というのだから恐ろしい。


 「まぁ、魔物の数も多くてのぉ。 しかも、困った事に回復魔法の使い手から先に殺されてしもうた」


 今居るこの場所に来るまで、魔物の猛攻に晒され続け、1人また1人と倒れていく中、大型の魔物まで出現した。

 地竜という飛べない竜がおり、リザードと呼ばれる地を這うドラゴンだそうだ。 それを撃退する事は出来たが、団長であるカイラスは負傷し、残されたのは5人。

 その中でも1番若いヨハンが負傷してしまった。 

 馬車、姫とその侍女だけでも逃がそうと思ってもまだ街までの距離は遠く、馬も死んでしまった。

 魔物の群が馬車を追っては元も子も無かった為、一縷の望みを掛けてヨハンがまだ怪我はしているが、まだ走れそうな馬へ跨り、街へと向かう。

 街道を進めば、冒険者と出会えるかと考えての行動だったそうだ。


 「予定していた日程よりも早めに戻ったのも裏目に出てのぉ。 あと2日経っても返らなければ捜索隊は出たのじゃろう。 それまでに生き残れた保障は無かったがな」

 「そうだったのですね」


 カイラスの説明を聞いているうちに、生き残った騎士と妖精フェアリィ魔石マナストーンの回収と戦死してしまった騎士の亡骸を一箇所に集めていた。

 運ぼうとしているのか倒れた馬車を確認しているようだが、どれも壊れてしまっており、残る馬車にはまだ姿は見せないが、お姫様とその従者が乗っているのだから亡骸を乗せる事は出来ない。

 泣く泣く、ここに埋めていくしかないと騎士の1人が言うと、埋葬する準備を始めている。

 しかし、その準備も数発の銃声が動きを止めさせる事になる。 ここで銃声が聞こえるという事は警戒に付いてもらっていたコトネ達だろう。


 『イシダ分隊長! 魔物の群が近づいています。 律儀に街道をまっすぐ向かってきていますが、先ほど倒したヤツ以外も足が速いのがいます』

 「了解、まず足の速い魔物を優先して潰してほしい」

 『犬型? とにかく4足歩行の魔物が早いですが、やってみます』


 淡々とした声で、コトネの報告が無線が入る。

 タブレットを起動し、地図マップを開く。 コトネ達には、警戒の為、ここから500m進んだ森の中へと街道沿いを進んでもらっていた。

 そこが、自分の指揮能力の反映されるギリギリのラインだったのだ。

 索敵した為、その指揮範囲よりさらに500m先までは地図マップに表示されているのだが、見えていない境目から魔物の群を示す赤い光点が次々に現れる。

 確かに、足の速い魔物がいるようで、赤い光点が幾つか突出してくるのが分かるのだがが1つ、2つと赤い光点は消えていく。

 上手くコトネ達が処理してくれているようだ。


 『コトネ、弾薬にも限りがあるだろう? 無理はしないでくれ』

 『了解』


 すぐさま、傍で警戒していた妖精フェアリィ3人を集めると、基地ホームにある兵舎の空きを確認する。

 まだ亡骸を運び込める余裕はあるそうだと分かった。


 「カイラス団長、亡骸を持って帰る事は出来ます。 絶対に必要ですか?」

 「どうしてじゃ? もちろん、帰りを待つもの達がおるのじゃ。 ナオトは知らんかもしれんがわしらにとっては大事な事でもある」


 亡骸を数えると、25人分確かにあった。 丁寧に布で包まれており、凄惨な亡骸を見る事は無かったのが幸いだった。

 なぜか、ここに捨てて置く訳にもいかないという気持ちが湧き出てくる。


 「分かりました、馬車は無いですし亡骸を回収します。 彼女達、妖精フェアリィに運ばせますがよろしいでしょうか?」

 「どうやってじゃ? 先ほどから聞こえる音は、君達の武器の音じゃろう? また魔物の群が迫っておるのか?」

 「そうです、ですから聞きました」

 「このままにして置けば、魔物に食い散らかされてしまうでの。 なんとかしてやりたい」

 「わかりました」


 妖精フェアリィへ目配せすると、大急ぎで騎士の亡骸を兵舎へと運ばせていく。

 青い魔方陣が常時展開して、常時運び込んでいた。 馬車にも乗せてあったのか25人分ちゃんと遺体は残されていた。

 ここで、恩を売るというか、良好な関係を結んでおけばきっと後々何か有った時に力になってくれればなんて安易な考えでもあった。


 「あと、お姫様や侍女の方はいかがしましょうか?」


 すると騎士の1人が、一度逃げたが戻ってきた馬を見つけてくれていた。 しかも、2頭が無事だったらしい。

 2人掛かりで馬車へと繋げているので、そのまま馬車で退避出来そうである。


 「カイラスさんは馬車をお願いします。 騎士の皆さんも馬車を守って先に行ってください」

 「いや、ナオトよ。 君達を残してはいけまい!」

 「早くっ!」


 もう議論している余地は無かった。 いきなり色々と起き過ぎなのだ。

 現に、タブレットにも【緊急任務エマージェンシークエスト】と出ているが、見る余裕は無い。

 地図マップに目を落としていると、コトネ達が最初に位置からほとんど下がってこないのだ。

 魔物の群はもう目前まで迫っているのにである。


 『コトネ、もういいっ! 後退しろっ!』

 『はっ! 了解!』


 やっと、青い光点が2人と3人に分かれてお互いがゆっくりと下がり始めた。

 一気に下がると、魔物の群に追いつかれる為に、援護しながら下がっているのである。

 赤い光点は、あれから突出した個体が居なくなったのか、コトネ達5人から100mほど離れた場所にいる。

 もう自分達の場所に辿り着くのも時間の問題だった。


 「さぁ、行って下さい! 必ず追いつきますから!」

 「わかった。 ここから街道に沿って進めば街がある! いいなっ、入る時にワシの名前を必ず出すんじゃ!」


 「すまん」というと、怪我をしたカイラスが御者になり、馬車が街のある方向へと向かって走り出す。

 口々に、続く騎士も礼を言って走り出した。 後姿が見えなくなるとやっとコトネ達5人が合流した。

 弾薬もほとんど残っていないらしい。


 「すみません、撃退出来ませんでした」

 「いや、いいんだ。 コトネも君達も良くやった。 弾薬を補充しておくか」


 編成から装備を選ぶと、補給をタップする。

 【緊急任務エマージェンシークエスト中です。 補給隊が合流できない為補給出来ません】

 慌てて弾倉マガジンを確認すると、コトネ達が最後の1本分が残っている。 自分と班になっていた妖精フェアリィ達が予備をあわせて3本だった。


 【緊急任務《エマージェンシークエスト】

 【所属不明の魔物使いがいるようだ。 護衛の騎士を壊滅させた魔物使いを倒せ】


 これだ、と思った。

 弾薬は少ないが、魔物使いがいるらしい。

 こいつを倒せばこの緊急任務エマージェンシークエストは達成するだろう。


 「コトネ、自分を信じてくれるか?」

 「もちろんです! 死ねというなら死にます!」

 「いや、死ぬ必要はない。 絶対に死ぬな」

 「はっ!」


 他の妖精フェアリィの顔を見渡すが、諦めている者はいなかった。

 自分の班からもM4カービンの弾倉を全てコトネ達に渡す。 手元には、ベレッタM92がある。

 

 「よしっ! それじゃあ、この魔物の群に指示を出している魔物使いを撃破する!」

 「了解!」


 魔物使いの姿が分からず、行き当たりばったりになってしまうが任務クエスト、やりきってみせる。

 姿が見られた可能性の高いコトネたち5人が魔物を引き付ける。

 その隙に、自分と班員で魔物使いを倒す。

 そう取り決め指示を出す。 ここからが正念場だった。


 小心者の作者ですが励みになりますので、どんな事でも良いのでご意見ご感想をお待ち致しております。

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