目が覚めたら見た事ない景色でした
第3話始まります。
心地よい風が吹いている。
クーラーとか、扇風機の風ではなく正真正銘の外にいて吹いてくる風だ。
いろんな匂いを運んでくるのだが、今、感じているのは青々とした匂いだった。
昔、散歩で行った近くの原っぱの匂いと似ている気がする。
散歩に出かけて、そのまま眠ってしまったかと思い、もう少しだけこのままと寝返りをうつと、何やら硬い感触に手が触れる。
手元にあったのは、M4カービンだった。 グリップを握ったままで身体の上に位置しており慌てて安全装置を確認する。
暴発する危険は無かったので、ひとまず安心した。 今まで起きた事がごちゃごちゃと頭の中が混乱しており、ひとまず落ち着こうと深呼吸をする。
どこかは分からないのだが、外にいる事には間違いが無かった。
目の前にはどこか草原が広がっており、山が見える。 標高も高そうで、頂上は雲に隠れて見えない。
陽はまだ高く、時間にしたらお昼ぐらいだろうか。 ちょうど真上に位置していた。
ただ、空を見上げて気になる事があった。 それも2つもである。
1つ目、月のような衛星が2つ、真昼間から空に浮かんでいる事。 しかも、距離が近いのか大きく見える。
ただ、それだけ近ければ月のようなクレーターなど表面が見えそうなのだが、モザイクのような物が掛かっており細部は分からない。
2つ目、空に浮かぶのは雲だけでは無かった。 1つ、大きな岩の塊のような物が空に浮かんでいた。
岩とか丸いとか四角い物ではなく、どちらかと言うと平らな形に見える。 しかも、空に向いている箇所が地面に当たるのか、木や植物が生えているようにも見える。
とりあえず、分かった事がある。
「ここ、地球じゃないですよね」
人知れず、独り言を呟く。 もちろん、誰からも返答は無かった。 順を追って思い出す事にする。
FairyWarというゲームをしていた。
チュートリアルも終わって、これからだと思っていた矢先に出会った少女。
その少女に手を引かれるまま、空に浮かび上がっており、空の有った場所にあった大地へと落下したのだ。
あれは、確かに、高所からの落下である。
こう見えても、本職は自衛官でヘリから降下する訓練も受けていたのだから、あの浮遊感は間違いない。
色々と縮こまってしまうのだ。
慌てて、身体に怪我や異状は無いかと触ったり動かして確かめるが、現状では問題なさそうだった。
どこも、折れたり怪我をしているわけではなく安心した。
「見渡す限り、草原と山と空には月が2つ、浮遊する大陸? 遠くには森があるのか」
一緒に落ちていたであろう少女の姿はどこにも無かった。
そして、FairyWarでの自分の部下になる分隊も傍には誰も居ない。
本当に、たった1人である。 不意に心細くなってくるのも仕方ないだろう。
もしかしたらと思い、タブレットを探すとまた手元にあった。
どうも、タブレットは必要だと感じた時には手元に現れる仕組みらしい。
ホーム画面から、ログアウトの項目を探して見つけるがタップする事は出来なくなっていた。
それ以外にも、FairyWar内部のフレンドにもメールや通話が出来なくなっている。
そこに項目はあるのだが、文字が暗くなっており指でタッチしてもうんともすんともいわなくなっていた。
「ダメだ、どういう事だ? チャットのログには確かにチュートリアルで一緒だった3人の会話は残ってるんだが」
その3人の会話も特には何も変わったところも無さそうである。
ふと、タブレット上にある1つのアイコンに『New』の文字がついている事に気が付いた。
先ほどまでは、アイコン上には何もついていなかったのだが今はこうして『いかにも』ここを開けと言っているようだ。
『基地』
この、自分のマイルームとして用意されている基地のアイコンに『New』の文字がついていた。
タップするかどうかと悩んでいたが、どうせ今のままではあまりに良くないと考え、恐る恐るタップする。
すると、タブレットの画面上に青い光を放つ魔方陣が表示された。
この魔方陣は分からないが、FairyWarの分隊が消える時も似たような魔方陣が現れていたのを覚えていた。
細部までは一緒かは分からないが、確かに見覚えがあった。
「ようこそ! いや、お帰りなさいと言うのが正しいのかも」
一瞬の出来事で頭が追いつかなかった。
目の前には、自分と一緒に落ちていった少女が椅子に腰掛けている。
部屋は広いが、そこには机と椅子しかなかった。
それ以外は、まだ何も無いように見える。
立ち上がった少女は、金色の髪は長く、腰辺りまで伸びている。
身長も妖精達とそんなに変わらないくらいだろう。
ホッペは柔らかそうで、まだ顔つきも幼く可愛らしい顔をしている。
どちらかといえば、ポヤヤンとした表情だ。 自分でも何を言っているのか分からない。
ただ、見ていて癒されるような存在である。
「ここには、まだ何にも無くってね。 まぁ、それは追々キミが揃えていく事になるから好きにしていくといい」
椅子から立ち上がり、少女は自分の目の前へと立つのだが、身長差で頭のてっぺんしか見えなくなっていた。
「改めて、私の名前はアビゲイル。 仲間からはアビーと呼ばれているな。 キミから見ると異世界の神の一柱だ。 今はほとんど力を使い果たしてしまっててこんなチンチクリンな姿なんだけれど」
そう言うと、クルリとその場で一回転する。
長い髪は、金色でフワリと広がると花の香りが自分の鼻をくすぐった。
ようやく、見上げた彼女の瞳は青く澄んでおり綺麗な色をしている。
ただ、人とは違うところもあった。 額に青い宝石のような物が付いている。
アクセサリーや何かで下げたりしているようには見えず、つい触って確かめようと手を伸ばしたのだが、神と名乗る少女が手で遮ってしまう。
「コラコラ! これは大事なものだから。 伴侶でも触らせないんだぞ! まぁ伴侶なんて居やしないが」
「す、すみません」
慌てて謝罪し、頭を下げる。 後半、神様が何を言っているのかは分からなかった。 でも、なんだか妙に惹かれてしまったのだ。
「オホン」と口元に手を当て、咳払いをすると神様は自分の事をジッと見つめてきた。
「まずは、キミについてだがな。 キミは死んでいるわけでも元いた世界からそのまま連れて来たわけじゃあ、ないんだ」
「えっと、転生したとか転移したとか、そう言うことですか?」
「まぁ、そうなる」
神様のいう事を纏めると、どうも不思議だった。 理解しろ、と言われて「はい、そうですか」なんて簡単に思えないだろう?
それが今自分にとって現実で味わっていた。
「コピーしたって事ですか」
「コピー……、複写、模写するか。 そうだね、キミの言うとおりに近いかな」
その世界にいた概念をそのまま転移や転生させるには想像できないほどの力が必要になってしまう。
そして、概念をまた新たに違う世界へと転移、転生させるにはまた力が必要になってしまう。
その過程で、目の前にいる少女の姿をした神様は一柱ではあるが、力が足りなかった。
その為、概念を複写して元の概念はそのままにする。 そうする事で必要な力を抑えた。
残る力を使って、コピーした存在である自分を先ほど目を覚ましたあの場所へと送り込んだのだそうだ。
「何も、あんな草原にポツンと1人で放り出さなくても良かったのでは?」
「仕方なかった、だって送り込む場所を選ぶと、また力を消費してしまうから。 お陰で今は、この部屋から出る事さえ出来やしない」
部屋にある唯一の出口へと向かう神様だったが、扉があるわけでも無いのに、その先へと出る事が叶わないようだ。
まるで、そこにも壁があるようでぶつかって仰け反っている。
「ねっ? 力も思っていた以上に消費しているようだ。 でも、キミとキミの部下はここによんであるんだ。 そのタブレットで呼び出せるようになっている」
そう言われ、手元に現れたタブレットに視線を移す。 そこには新たに『編成』の項目に『New』の文字が現れていた。
タップして編成画面を出すと、コトネ以下8名の分隊が『待機中』と表示されている。
編成の画面は、自分以外を操作して分隊を編成するようになっており、1番最初に選べるのは副官である。
試しに、コトネを選んで決定すると、青い魔方陣がまた表れた。
艶のある黒髪を肩口で揃えており、目は切れ長で鼻は高い。
赤い縁の眼鏡を掛けており、それが知的な印象を醸し出していた。
魔方陣からコトネが現れる。 チュートリアルを終えたままの格好である。
初めは何事かとキョロキョロと周囲を見渡していたが、自分が『コトネ』と呼ぶとまるでご主人様を見つけたか犬のようなはしゃぎっぷりだ。
自分にぶつかってくるのではないかという勢いで傍へと立つ。 身長が140cm程度と低い為、185cmもある自分と並ぶと小ささが余計に目だってしまい子犬のようにも見えてしまっていた。
「イシダ分隊長! 良かったです! 私と分隊は兵舎にいたのですが、分隊長の御姿が見当たらず、何か有ったのではないかと!」
感極まったのか、目が赤く充血しており今にも泣き出すのではないかと心配になるほどだ。
何とか、コトネを落ち着かせて分隊の状況を確認する。
どうも、兵舎がありそこで待機しているとの事だった。
武装したまま、何があってもいいように待機していたらしい。
兵舎内部は自由に行き来できたらしく、内部の安全は確保したが外へ出るのは危険と判断したが分隊長、つまり自分を捜索する為に、班を分ける話し合いをしていたそうだ。
そうなると、副官が今度は消えた為に、分隊の統率が取れていないかもしれないと考える。
「わかった、それじゃあ、コトネはまた兵舎に戻り分隊の指揮を頼む。 まぁ、武装は解除し待機でいい。 指示を出すから」
「了解しました。 指示を待ちます」
タブレットで、編成からコトネを待機とすると、青い魔方陣が表れてコトネはその中へと入っていく。
残されたのは、自分と少女の姿をした神様だけとなった。
しかし、気が付いた事がある。 コトネは終始、自分だけを見て、自分だけに話しかけていた。
「あぁ、キミの考えている事の答えは、私はキミにしか今は見えないんだ」
この世界では神様は存在するが、信仰している神様を見る事は出来ても信仰していない神様を見ることは出来ないのだそうだ。
という事はだ、自分は目の前の神様を信仰しているという事になる。
「だって、そうだろう? キミは私の言う事をすんなりと信じているじゃないか。 つまりそう言うことだよ」
「それって、洗脳したとかそう言うことですか?」
「失敬な!?」
謎の気配が神様の周りにオーラのように現れた。
それも、すぐに消えてしまい一瞬気圧されただけに留まる。
「この世界に呼んだのが私だから、私を信仰しているってだけだ。 別に、他の神に乗り換えてもいいんだよ、どうせチンチクリンだからね」
なぜか、拗ねている神様だった。 自分の不用意な発言だったからこそではある。
「ごめんなさい、そういうつもりでは無かったんです。 改宗とか考えてませんから」
「そうか! それなら良かった。 まったく、驚かせおって」
手を叩いて喜ぶ姿はどこからどう見ても、ただの少女にしか見えない。
背格好だって、コトネと同じくらいだからか、目の前の神様を妹みたいな感じがしている自分がいて怖い。
今の状況に順応しているのかもしれない。
「それじゃあ、次になぜキミがここにいるかだ」
「タブレットで基地をタップしたか「違うっ!」」
言い切る前に遮られてしまった。
「キミにはやってもらいたい事があるんだ、しかし、これはキミがしか出来ないってわけではないんだ」
この世界、自分から見たら異なる世界なのだから異世界と呼ぶ。
神様も、この世界には名前なんて無いと言っていた。 神様は「キミの世界に名前はあるのかい」と言われ、なんとなく納得した。
でも、どこかに存在している世界なのは間違いないそうだ。
幾つもの世界があり、世界同士は稀に繋がったり離れたりしている。
自分のいた世界にも稀に、科学では証明出来ない様な不可思議な出来事もそういった他の世界の干渉の可能性が有るという。
この世界でも、他の世界とは変わらない。
ただ、自分のいた世界とは違う。
魔素と呼ばれる力が世界には満ちており、魔素と力にかえて生み出された魔力を使い発展してきた世界だった。
真人族、亜人族、魔人族と呼ばれる人種がおり世界は変わる事なく営みを続けている。
「世界では、日常、非日常が当たり前のように繰り返されてきたんだ。 でも、ある世界と繋がった時なんだ」
ここではない世界、神様は外の世界と呼んでいるがその、外の世界の神々の一部がこの世界へと渡ってきたという。
元々いた世界を消滅させてだ。 理由は未だに良く分かっていないそうだ。
「魔神と呼んでいるんだが、これがまた強い」
一柱とかではなく、かなりの数が侵攻してきたそうだ。
しかも、異形の化け物を率いており、初めて現れたソレらは瞬く間に国を滅ぼした。
化け物は口を持っているが、それは殺戮に使うだけだった。
言葉を持たず、ただ、この世界の生物に虐殺の限りを尽くしていく。
死ねば幻と消えていき、何も残さなかった。 ただ、破壊の限りを尽くすのだ。
幻の獣と書いて、幻獣と呼んだそうだ。
「生存本能なのかもわからん。 それらは本当に殺戮を目的としているのではと神でさえ恐れおののいた」
神様でさえも、殺す力を持つソレらはこの世界を破壊しつくすと考えられていた。
それだけの数が現れていたのだ。
真人族、亜人族、魔人族は互いに力を合せて侵略者へ立ち向かったが、それでもなお外から来た魔神には歯が立たず、またその軍勢の前に敗れていった。
しかし、ただ指を咥えて死を待つこの神様ではなかった。
異なる世界から力を持った勇者を転移、転生を用いて喚び出した。
神様の中には、その為に力を使い切り消滅した方もいるそうだ。
「それで、魔神とその軍勢を押し返し、封印したんだよ。 門の向こう側へね」
そう言うと、窓の外へと視線を向ける。 どこか遠いところを思っている横顔は神秘的だった。
「まぁ、遥か昔の事だ。 で、それからこの世界はまたいつもどおりの世界に戻ったわけさ」
「えっと、それじゃあ自分がここに来た理由は?」
「魔神は死んでるわけじゃない。 その軍勢もだ」
「えっ?」
「この世界の人々は魔神とその軍勢は御伽噺の世界の事だと思っている。 それだけ昔の事なんだ。 文献だって残っていやしない」
1つしかない机まで戻ると、拳で机を叩くと、神妙な面持ちで言った。
「キミの力を貸して欲しい。 キミ達の力だがね」
魔神とその軍勢は、門の向こう側で今もなおこちらへと侵入しようとしている。
過去の勇者達が戦い、ようやく封印出来たのだがその封印も綻び始めているというのだ。
「もちろん、こんな違う世界に連れて来てさぁ戦え!ってわけではないんだ。 時間がどれだけあるのか分からないし、封印が解けない可能性もある」
神様はまた自分の傍へと来るとジッと顔を見つめてくる。
「正直に言えば、私以外の神達が同じように転移か転生かで魔神と戦う力を持ったモノ達を集めている。 今どこに居るのかは私にも分からない」
神同士でネットワークのような物もあるらしいのだが、力が戻らない限りはどうにも使いこなせないらしい。
「神様の力を戻すにはどうすれば?」
「それはね、信仰を集めるか、魔素が十分に身体に集まればだな。 後者はあまり期待しないでくれ。 ざっと何千年かかかる」
「それじゃあ、自分が先に寿命で死んでしまいますね」
信仰を集めるというのが、一番の近道だなと考えていると神様がどうも妙な顔をしている。
「あっ、すみません。 軽々しく死ぬなんて言葉を使ってしまいました」
「いや、なんでもないんだ。 信仰を集めると言っても簡単じゃないんだから無理はしないでくれ」
「いえ、そう言うわけには」
「むしろ、キミが直接他の勇者達を見つける方が早いぞ。 なぜか引かれ合う様に過去の勇者達も出会っていたからな」
「なるほど」
「次にだが、キミの力についてだ。 武器はもちろん、その持っているものだ。 それとそのタブレットの機能だ」
神様がここ、基地の司令室にいるのも訳があった。
このタブレットの機能をこの世界では実際の自分の力として使いこなせると言うのだ。
ゲーム内で使用する事の出来る機能は全て使えるが、ログアウトや運営に連絡などといった機能は必要なく使えない。
また、副官のコトネやFairyWarの妖精達も一緒に戦う事が出来る。
「あとは必要なモノを手に入れる為にはCPが必要なんだが、それはこの世界では魔物と呼ばれる怪物がいる。 幻獣とは違うこの世界の怪物達でこれらも退治する必要があるから」
それら魔物を倒す事で、その個体や数に応じてポイントが溜まるようになっている。
また、神様からの依頼だったり、誰かの手助けをする事でも溜まるそうだ。
実際に、タブレットを色々と操作して後は覚えていくしかないだろう。
「力があればもっと色々と出来ただろうが、このタブレットを媒介にしてキミに力を貸していくことになるから、よろしくな」
「はっ、はい! 宜しくお願いします。 神様」
「あとは、この世界で好きにしてくれ。 魔神が蘇らなければ、勇者としての使命は問題ではないんだ。 悪い事をしなければ私も何も言わないから」
「はい、分かりました」
「それと、もう1つ。 ここから出られないから私も退屈でな。 いつでもいいから顔は出しに来てくれ」
少女の姿をした神様が、普通の少女のような事を言ったので、なんだか微笑ましかった。
それで笑ってしまい、神様を怒らせてしまうのだが、なんだかお互いに笑いがこみ上げてしまった。
神様と2人、お互いに一頻り笑った後、神様を見つめる。
「それじゃあ、行こうと思います」
「うん、私からも何か有れば呼び出すと思う。 この部屋も殺風景だ。 お土産も期待しておこう」
「わかりました。 それでは」
タブレットをタップし、基地をタップすると基地から【出る】か【出ない】かという選択肢が現れる。
迷わず、【出る】を選ぶと元いた草原へと戻っていた。
時間は経っていないようだ。 左手首に巻いてある時計で確認するが行く前の時間が分からないから次に試す事にしよう。
地図を開くと、やはり自分の周囲しか判明していないようだ。
右も左も分からないんだが、どうするべきか。
妖精を呼び出して偵察するのが確実だが、確かプレイヤーの階級が上がらないと妖精達は行動範囲が広がらないはずだった。
タブレットを見ながら考えていると、草原には道がある事に気が付いた。
距離は目測だが今居る丘から5kmほどだろう。 東西南北がここでは役には立たないだろうから、山のほうへと向かうかさらに草原の向こう、地平線へと進むかと悩む。
「考えたってしょうがないか。 まずは行って考えればいい。 何か分かるかもしれないしね」
ふと気が付いた。 なぜ思いつかなかったのだろうか。
タブレットを起動し、編成を選ぶ。 迷わずコトネを副官として選ぶ。
妖精達も同じように分隊として編成した。
先ほど、基地で指示した通りに武装も解除しているようだったが、編成画面では装備も整える事が出来る。
迷わずに、自分と同じ装備を持たせる。 M4カービンとベレッタM92と弾薬、それに戦闘服と『戦闘ヘルメット』と『ボディアーマー』で固める。
草原地帯だった為、迷彩パターンはウッドランドにして編成し呼び出す。
青い魔方陣が表れ、コトネと続いて妖精が現れた。 整列し気をつけの姿勢をすると敬礼するコトネに対し、自分も答礼で返す。
「コトネ、あそこの街道まで行こうと思う。 一緒に来てくれるか?」
「はい!」
草原地帯、周囲には神様の言っていた魔物と呼ばれる人間を襲う怪物はいないようだ。
天気も良く、まるで行軍訓練をしているかのようだ。
時折、タブレットで地図を確認すると分隊行動をしている分だろうか索敵範囲が広がりさらに周囲が見えるようになっている。
丘から街道へはすぐに到着したのだが立て看板なども無く、どうするべきかと考える。
コトネは傍に居て、妖精達は周囲の警戒に付くように指示を出してある。
妖精達にも時間を見つけて、名前を付けるのもいいかもしれない。
これから、一緒に戦っていくのだから妖精ではちょっと悲しい。
「分隊長、発言、よろしいでしょうか」
「なんだい、コトネ?」
「分隊長、ここは見通しが良すぎて落ち着きませんね」
「まぁ、確かにそうだが……、こちらが丸見えな分、余程でない限りは相手も丸見えだと思う」
指揮なんてまだちゃんと訓練で習っていない。 正直、手探りではある。
こんな場所だったら、確実に狙撃されそうだが今は、狙撃してくる何かがいないと祈っておく事にしよう。
妖精の1人、山の方を警戒していた娘が何かに気が付いたようだ。
副官であるコトネとは違い、喋らないのだが何を言おうとしているかは分かる。
「コトネ! 何か来るぞっ! 街道から出る」
コトネと妖精に指示を出して草原へと伏せさせると、正体不明の何かに対して射線を確保させる。
自分は、人であれば何か聞きだせればと思い街道上へと留まっていた。 もちろん、M4カービンをすぐさま撃てる様にしてある。
神様の言うような魔物の場合を想定してだった。
段々と土埃が俟っているのが見えてくると、それは馬だった。
馬に誰かが跨っているようだが、どうも切羽詰っているようだ。
しかし、馬に無理をさせたのかここまで辿り着く事無く、街道を逸れて倒れこんでしまった。
乗っていた人物も落馬しているようで、慌てて、傍へと走り出していた。
「分隊、続けっ!」
倒れた人影は、あれだけの慌てようであるから、何かあったには違いない。
駆け寄ってみると、馬は事切れているようだが、その身体と地面に挟まれるようにして人が倒れていた。
フルプレートだろうか、鎧を着込み左胸には隊章のような物が見て取れる。
赤字に金色でライオンのような顔が刺繍されているようだ。 どこかの騎士団の隊章だろうか。
「おいっ、大丈夫か?」
妖精と共に馬を避けるとその人が深手を負っている事がすぐに分かった。
腹の方から夥しい血が流れているのだ。
「うぅっ、どこの誰か……。 たの……、ひっ、姫が…」
力無く彼が来た方向を指差すと、すぐに力が抜けて事切れていた。
何かに襲われて、ここまで来たのだろうが思い残す事がこの先にあるようだ。
街道は森の中へと続いているようだ。
「コトネ、彼をこのままにしておけない」
「兵舎に空いている部屋があります。 そちらへ」
その言葉を聞いて、妖精が4人で彼を持ち上げる。
青い魔方陣が表れると、彼の遺体と共に消えていった。
その光景を眺めていると、タブレットから呼び出し音が鳴る。
【緊急任務】
【魔物に襲撃され、隊が壊滅してしまった。 負傷したが助けを呼ぶ為に馬に乗ったが馬も限界にきていたようだ】
【天の助けか、冒険者の一団に出会えた。 神よ、感謝致します。 願わくば姫と仲間を救い出してほしい】
「これはいったい」
そういえば、この世界で好きなようにしていいとも言っていた。
彼は、自分の命を犠牲にしてまでも助けを呼ぼうとした。
たまたま自分がいたが、いなければ馬が無くてもきっと歩みを止めなかっただろう。
森とは反対の方へ視線を移す。 この先に行けば、人が居る場所があるのだろう。
決断する。
「コトネ、我々は彼の残した言葉通り、救出に向かう。 弾薬及び装備の確認を」
「分隊長、問題ありません」
騎士を運んで一度分隊を離れていた妖精も合流していた。
「分隊、前へ!」
魔物がどんなモノなのか想像でしかない。 しかし、そこに助けを待っている人がいるのならこの自分の持つ力で助けたいと考えるのはきっとおかしな事ではないはずだ。
「森に入るぞ、周囲の警戒忘れるな。 何がいるかは分からんぞ」
「了解!」
森の中に何が待つかは分からない。
しかし、この世界に来てしまったのだ。
神様も自由に生きろと言っていたのだから、そうしようと思う。
タブレットも使える、武器もある。
神様もいてくれるし、コトネや妖精達もいてくれるなら、きっとどんな事だってやり遂げられるだろう。
そんな気がするのだった。
小心者の作者ですが励みになりますので、どんな事でも良いのでご意見ご感想をお待ち致しております。