迷宮《ダンジョン》、救出へ
表現に一部過激なシーンがございます。
ご注意下さい。
迷宮ニハラ洞。
シュウリス学園都市から行ける迷宮の中でも、誕生して長い年月が経っている。
片道で馬車だと半日掛かる距離にある為、泊りがけで向かう冒険者も多い。
また、長い年月で成長を続けていた為、地下へと広がっており現在は13階層までの探索を終えていた。
棲息する魔物は、ゴブリンやオーク等の所謂人型の魔物が多い。
亜人であるミィやミケとは違い、意思疎通を図ることは出来ない。 問答無用で襲い掛かってくる。
女性を攫う傾向があり、一説によると繁殖相手としているのだ。
サァヤ達が心配である。 チセは、現在基地の医療施設で治療中だった。
協会へは報告する事を門番をしている兵士に言伝を頼み、自分達はすぐにニハラ洞へと向かったのだ。
第2分隊をミィとミケの猫又族で編成し、2個班へと分けてニハラ洞の周囲を偵察させていた。
猫又族は、斥侯任務に向いている種族であるから、任せることが出来た。
タブレットで地図を確認していくと、徐々に確認できた地域が増えていく。
自分はと言うと、遮蔽物の多い森の中にニハラ洞は入り口がある為、慎重に隊を進めていた。
最短距離でニハラ洞へと進める道が馬車1台分だった為、悩んだが『ストライカー装甲車』は基地へと戻していた。
併列縦隊で進んでいく。 それもこれも、ミィとミケの2班が、迷宮から外へ出たゴブリンを排除しているからだった。
「ミィより分隊長、ニハラ洞の入り口を確認にゃ」
ミィが先に入り口に到着したようだ。
2個分隊が揃い、ニハラ洞の迷宮入り口が見える場所で待機する。
チセが目を覚ましたというのだ。
基地アイコンをタップすると見慣れた司令室へと風景が変わった。
司令室にある椅子には、自分の神様であるアビゲイル、通称アビーだ。
最近は、制服を着ている。 幼児体系ではあるが、かえってキッチリ着こなせて様になっているようだ。
「すまんな、うちの奴が……」
そう言って頭を下げるのは、サァヤの神様のバルトス様だ。
アビーの横に控えていたが、1歩前に出て謝る姿に恐縮してしまう。
「そんなっ、頭を下げないで下さい。 状況もまだ分かっていませんし」
「あぁ、ありがとう」
力の弱ったバルトスには、サァヤに迫っていた事に気付くのが遅くなってしまったそうだ。
現時点でも、どこにどんな状況なのかも分かっていない為、自分に頼むと言う。
唯一何が起こったのか知っている彼女を呼ぶことにする。 チセに付いてもらっていた妖精に、連れて来るように指示を出した。
もしかすると、思い出したくも無いかもしれないが、何が起きたかを教えてもらうつもりだった。
扉がノックされ、まずは妖精が中に入ると、自分の側まで来た。
身長差がある為、屈んで彼女の高さに合わせると耳打ちしてくる。
妖精は、言葉に出して話すわけでは無いが人間とは変わらない為、喋る仕草もするし表情豊かだと思う。
一番の懸念事項だった事が解決して良かった。
検査の結果、チセの身体は痛ましいが身を守る為についた防御創や、転んだりして付いた怪我だった。
乱暴はされていなかった。
妖精に、チセに入る様に促させる。
「あの……、その、ここは……?」
「安心してほしい。ここは、いま一番安全な場所だから」
1つあるソファへ座るよう促し、自分はチセの隣に腰掛ける。
「チセ、君達に何があったのか教えてくれませんか? 今、救出の為に動いています」
そう言うと、安心したのか彼女達に何が起きたかを話し始めた。
ウラエ山の迷宮を新人が攻略。 この知らせはすぐに街中に広がっていった。
その調査はこれからだった為、半信半疑の者も多かったが、冒険者協会の中にいた者には、ナオト達の持ってきた素材の量を見て只ならぬ雰囲気だと感じ取っていた。
攻略したのは本当かもしれないと信じたのだ
サァヤ達は、その報を聞いて焦っていた。
実際に、簡単に攻略出来るはずがない迷宮だと思っていた。
しかし、まだ小さな迷宮である。
自分達ならば、と慢心もあったと思う。 それが、先を越されたのだから悔しい。
どうしようか考えていると、サァヤがニハラ洞へ行こうと言い出した。
ウラエ山への調査に集まっていた冒険者達は、新米であるナオト達のパーティーが攻略したのである。
我も後に続け、ともう1つシュウリス学園都市に近いニハラ洞へと臨時パーティを編成して赴く者達が出てきた。
サァヤ達がニハラ洞に到着したのは、すでに陽も傾き始めていた。 一夜明かす可能性も考慮し寝袋や簡易テントも全員で分担して持ってきてある。
その為、時間がかかり、迷宮にすでに入った冒険者パーティと同じ様に探索に繰り出した後で、自分達が最後に着いたようだ。
迷宮探索に泊りがけする場合もある事から、明日の朝に帰れば良いとの考えた。
魔物とは、殆ど遭遇ずる事は無かった。
稀に、負傷した仲間を抱えて外へ出ようとするパーティーとはすれ違ったが順調だった。
迷宮は、ウラエ山とは違い入り組んでいて何度か道にも迷いつつ、奥へと進んでいく。
到達している階層まで到達した時だった。
そこは、今までの迷宮内部とは違い大きな広場のようになっている。
先に到達していた冒険者は野営の準備をしているようで、先に進むより一度ここで休憩しようと判断。
そこからは、記憶が曖昧になる。
こういう迷宮で、一夜明かせる場所では冒険者同士は協力し合う。
ライバルでもあるのだが、魔物の襲撃など見張りを立てて警戒したりするのだ。
しかし、この日は違った。
この迷宮に現れるのは、ゴブリンやオークの人型の魔物だ。
襲撃されようとも、パーティーは6つもある。
後れを取るはずは無いと思っていた。
しかし、怒号や悲鳴が上がりチセは何かの衝撃を受けて気を失った。
次に、気が付いた時には来ていた防具類は外されて衣服も剥ぎ取られていた。
サァヤ達と一緒に檻の中に入れられていた為、もう一度再会出来たことで嬉しかったのだが、しばらくすると外から聞こえてくる悲鳴が恐ろしかったそうだ。
オークの喜ぶ鳴き声と女性の悲鳴で何が起きているか、想像するのが怖くて4人で抱き合っていた。
オークの集落に捕まったのなら、ここから脱出するのを考えなければいけない。
そうしているうちに、近付いてくる気配がある。
サァヤの持つ力は知っている、檻が開き油断しているうちにオークを倒し脱出しようと待ち構えていた。
しかし、相手の顔を驚いた。 暗くフードを被っていた為に人相までは分からなかったが、人間だった。
「でも、サァヤは、相手を切り伏せて……、私達を逃がしてくれました」
でも、すぐにオークの追手が追いかけてきた。 フードの男達もまだ何人かいるようだった。
追い詰められたとき、自分だけはエルフに伝わる命の危機の際にたった一度発動する魔法で脱出し気が付いたらナオトの前に出たとの事だった。
「サァヤも、マリル、リルルも、みんな酷い事されてる」
堪え切れなくなったのか、チセの瞳から大粒の涙が溢れて止まらなくなった。
妖精が肩を抱き寄せ背中を撫でている。
「チセを頼みます。 自分は、3人の救出と他の冒険者の捜索もします」
そう言って立ち上がると、アビーが側へと来た。
「頼んだよ、ナオト。 君ならきっと出来る」
一度頷いて、基地を出る。
チセの言う通りなら迷宮内部は、入り組んでいる。
オークの集落と思われる場所は、最終到達地である地下13階層より下だ。
ミィとミケに1個分隊を預け、斥候として行動してもらう。
暗闇でも眼が効く彼女達なら、任せられる。 弾薬を補給させ向かわせた。
自分達は暗視装置を生産し、全員装着する。
発砲音を控える為、制音器を全員装着した。
魔物にどの程度の効果があるかも
「衛生キットは忘れない様に。 人数は把握していないが要救助者もかなりいると思われる」
コトネとカガリには迷宮外で第3分隊とともに待機してもらう。
第2分隊で、救出した冒険者を外に運ぶことにした。
基地への搬送も考えたが、不特定多数に知られるにはまだ戸惑いがあったからだ。
「ミィ、状況報告を」
「にゃっ、チセにゃの情報を鵜呑みにしたわけじゃにゃいけれどゴブリンと遭遇にゃ。 5体排除」
「了解、そのまま前進して下さい」
暗い内部を進む。
ゴブリンも多少目が効くようだが、こちらに気付く距離に近付くまでもなく静かに処理していく。
魔石も残るが、それは捨て置いた。
冒険者の遺体を発見すると妖精に基地へと搬送させる。
「にゃ、13階到着。 所属不明ですが何人かいるにゃ。 フードで人相は不明にゃ」
「行動不能に出来そうかですか?」
「分からないにゃ。 5人いるからにゃ」
どうも、何か探している様だと言う。
ミィが挨拶している声が聞こえると、「見られたぞ、消せ」と言う男の声が聞こえる。
制音器で抑えられた銃声が続き、しばらく間がある。
「1人確保にゃ」
「了解です、何者で冒険者は何処にいるのか聞き出して下さい」
了解にゃと、ミィとの通信が切れる。
妖精に指示を出して、自分達も先を急ぐ」
13階層の大広間に着くと、ミィが捕まえた1人を尋問している。
「どうですか?」
周囲の警戒を指示し、ミィの元へ向かう。
ミケの姿が見当たらないが、班を率いて下へと降りたそうだ。
「それで、何を聞き出せましたか?」
「ダメにゃ、何者なのかも言わないにゃ」
時間がない、それは分かっているがどうも口が堅いようだ。
太ももに来るように装着しているホルスターにあるM92ベレッタを手に取る。
フードを取った男は、頭を剃り上げていて禿げ頭だった。
今は猿轡を噛ませていて喋ることは出来ない。
「同じ事を聞きますが、冒険者は何処でしょう?」
顔を背け、何も言う気はない様な仕草をする。
「ミィ、念の為ですが彼らは彼女の言っていたフードの集団の一味で間違いないですか?」
「間違いにゃい。 確かに言ってたにゃ、エルフのチビを探せって」
M92ベレッタの徐に取り出し、男の膝を撃ち抜いた。
猿轡をしていて、悲鳴を上げれない男の姿を見下ろす。
時間が無い、なんとか聞き出さなければいけないのだ。
手段は選んでられない。
「もう一度聞きます捕らえた人達は何処ですか?」
何か言おうとしているが、旨く聞き取れない。
猿轡を取ると、震える声で男は言った。
「糞喰らえ」とだ。
すかさず、残っている方の膝も撃ち抜く。
「ミケですにゃん。 オークと遭遇、後を追って集落に到着したにゃん」
ミィに、ミケの後を追わせる。
フードの男達は、遺体をそのままにしてある。
その中に、生き残って捕らえていた男も縛って転がせて置いた。
自分も殺されると考えていたのだろう、最初は痛みに堪えさっさとやれと言っていたが、妖精達も前進させて置いて行かれることに気が付いたようだ。
「なっ、なぁ、置いていくのか? 殺さなくてもいいんだな!」
振り返り、彼を見下ろす。
意図に気付いたんだなとしか思わなかった。
蘇った仲間だったものに後は任せようと思った。
残酷かもしれないが、それだけの事を彼らはしたんだと思う。
そう思う事にした。
彼を置いて、大広間を後にする。
オークの集落になった場所は、先程までいた大広間よりも広い。
天井に着いた苔か何かが光を放っていて十分な光源があった。
暗視装置を外し、邪魔にならないよう片付ける。
出入り口が集落より高い位置にある為、見下ろすことが出来た。
冒険者らしき姿の見える檻が遠くにあった。
「ミィとミケは冒険者の救出を。 自分の分隊も2班に分けます」
ここから出入りはもうさせない。
1個班の8人の妖精にこの場を任せる。 冒険者の救出が終わるまではここを死守してもらう。
残った2人には自分の直衛として追従してもらう。
この事件に首謀者がいるなら、捕らえなければと考えた。
「前を防ぐ敵は全て蹴散らせ。 武器使用自由」
手元の弾倉を確認、ほぼ使う事は無かった為、いくらでも弾は残っている。
「行きましょう!」
集落内へと、3個班で突入するのだった。
いつもありがとうございます。
また読んでいただけると嬉しいです。