迷宮《ダンジョン》、そして
第18話投稿します。
後半に、一部表現が過激なところがあるかもしれません。
まだ陽も昇らないうちから起きる。
ベッドに目を向けると、まだ4人は夢の中のようだ。
ミィとミケは、布団を蹴飛ばしていて、寒いのか2人抱き合って寝ている。
落ちていた布団を掛け直し、コトネとカガリに目をやるとあちらは寝相が良いようだ。 スヤスヤと寝息を立てている。
服装を整え、いつも愛用しているM4カービン、ベレッタM92とそれぞれの弾倉を用意。
疲れていたのだろうか、誰も起きてこない。 それでも、静かに準備をして誰も起こさないように、そっと部屋を出た。
備え付けのテーブルに、少し出るので心配しないでとだけ書いたメモを残しておいたので心配ないだろう。
宿泊客もまだ寝静まっている為、音を立てずに出ようとすると、女将のベルンさんが仕込みをしていたようで、ばったり出会ってしまった。
「おやっ? こんなに早くお出かけかい?」
「おはようございます、すぐに戻る予定ですから、ご心配なく」
「お嬢ちゃん達が起きてきたら、そう言っておけばいいのかね?」
「お願いします」
朝も早く、まだ仕込み中なのだろうか開いている店はない。
人通りも無く、1人だった。
門につき、兵士に挨拶して街の外へと出る。 協会との約束までには時間がある。
それまでには、戻るつもりだ。
タブレットを開き、街の周辺の地図を開く。 今まで通った場所、ウラエ山までの道が明るく表示されている。
もう1つの迷宮があり、セレスティア王女を助けた森までが自分がこの世界へ来てからの自分の知っている地域だ。
これだけで見ると、自分の知っている世界なんてちっぽけなものだと思う。ウラエ山へ向けて、1人街道を進む。いつもは、コトネ達と分隊と一緒だから自分がどの程度戦えるのか興味はあった。
迷宮を攻略し、ウラエ山までの道程であれば強力な魔物も出ないという考えだ。
街から離れ、ウラエ山までの距離として半分ほど行ったところで、ボアが2体現れた。縄張り争いしていたようで、まだこちらには気付いていない。伏射の姿勢を取り、まず1体に狙いをつける。
呼吸を整え、引き金に指をかけ、どちらから狙うかと考えたが、まだ動きが活発な方から狙う事にする。
距離は、50M程度。 動き回る目標だったが動く位置を未来予測して、照準の直線上にくるタイミングを見計らって引き金を引く。
命中、動きが止まったところへさらに射撃を続ける。
軽トラック並みの大きさだったビッグボアには、5.56mm×45mm NATO弾は効果が薄かったが、元いた世界で見た事のある猪程度のボアには十分効果があったようだ。
いや、猪を仕留めるには5.56mmでは不足だったかな、と考えながら残っているボアに照準を合わせる。
弱っている方と目が合う。 倒すかどうか悩んだが、魔物である。 今、倒さなかった為に、傷が回復し、誰かを襲うかもしれない。 そう思い、止めを刺す事にした。
残ったボア2体の魔石を回収、銃声を聞いて魔物が寄ってくるかと思ったがその心配も無かった。
街道を外れて、草原を歩く。 時折、背の高い植物から鳥が飛び立つが、魔物に遭遇することも無く街へ辿り着いた。
迷宮の外で出会う魔物はグラットンマンティスよりはだいぶ弱く感じる。 約束の時間にも十分間に合った。 コトネ達と合流し協会へ行こうと歩いていると、門のところで兵士に引き留められた。
「おい、兄ちゃん。 可愛い娘さんが待ってるぞ」
兵士の指差す方へ目を向けると、ニコニコと笑顔の4人の見知った顔がいた。
「おはようございます、分隊長」
「朝も早くから、お疲れ様ですわ」
コトネとカガリがニコニコと笑う。ミィとミケは、コトネ達を見て苦笑いをしている。
置いていった事を謝り、4人と合流すると冒険者協会へと歩き出す。
「しかし、なぜ外へ?」
「いや、ちょっと用があってですね」
コトネが前に出て自分の方へと振り返ると、頭を下げた。
「分隊長に何かあってはいけません。 次からは必ず私達の誰かを連れていって下さい」
自分だけの時間も欲しかったのだが、顔を上げたコトネの表情が悲しそうなのを見て考えを改める。
「分かった。 次からは何かある時は必ず誰かと一緒に行動するから」
「ありがとうございます」
協会へ到着すると、今日はアシュリーが待っていた。
いつも着用している制服ではなく革製の鎧を着用している。
腰には、細身の剣を携えていて、状態を見る限りよく手入れされているように思う。
「おはようございます。 今日はよろしくお願いします」
「今日は、アシュリーさんが一緒に行くんですか?」
まるで、冒険者のような姿に驚きを隠せないでいるとアシュリーは笑って教えてくれる。
元々、冒険者だったアシュリーは現役時代はランクCだったそうだ。
パーティーを組んでいたメンバーが復帰出来ない怪我を負いそれを機に解散。
協会職員の試験を受けて今に至るそうだ。
「そう言う事ですので、一線は退きましたがナオトさんには負けませんよ?」
「御指導よろしくお願いします」
「まぁ、今日は調査だけですし、陽が暮れえるまでには戻りましょう」
あとは、サァヤ達を待つだけだが、1時間ほど経ってもまだこない。
「ナオトさん、そろそろ出発しませんと遅くなってしまいます」
アシュリーも、そろそろ行きたいようだ。
確か、ウラエ山までは指揮圏内なのは確認済みだった。
「コトネ、ミィの両名に第1分隊を預けます。 分隊員は、門の外で待機させておきますので、分隊指揮はコトネに頼みます。 サァヤさん達を待って合流して下さい」
「はっ! お気をつけて」
コトネとミィは力強く頷く。
コトネの指揮と、練度の高い第1分隊ならば、多少のイレギュラーでもきっと対応出来るはずだ。
「カガリ、ミケは自分と第2分隊とアシュリーさんとウラエ山へ向かいます」
「了解ですわ(にゃん)」
協会から出て、街の外へと出る。 陽はまだ高く、これなら今日中に帰って来れそうだ。
タブレットを取り出し、第1分隊を展開する。 『ストライカー装甲車』があるので門からは少し離れたところへ展開し、念の為偽装する指示を出しておこう。妖精達は、テキパキと指示された通りに行動を始める。
レベルの高い妖精の1人に、コトネ達が来るまでは待機するように命じる。
周囲警戒を指示し、万が一攻撃を受ける場合を除く戦闘行動は禁止した。
第1分隊編成の分隊長はコトネ、副分隊長をミィとし分隊は定数で揃えた。
第2分隊は、自分が分隊長となりカガリ、ミケ、そしてアシュリーの4人は徒歩で移動していた。
分隊員は6人、斥候としてウラエ山方面へと向かわせる。 何か対処出来ない問題が起きた場合はすぐに連絡するように指示を出し、魔物と遭遇した場合は排除するようにした。
隣に並んで歩くアシュリーが何か言いたそうにしているのに気付いたが、笑って誤魔化す。
さすがに、街中では分隊をいきなり展開はまずいだろうし、言葉だけで説明しようがない。
街道をしばらく歩いていくとアシュリーが我慢できなくなったのだろう、話を切り出してきた。
「それじゃあ、街からも離れましたし、気になることがあります」
アシュリーの言う気になる事とは、自分の言った言葉だった。
分隊、という言葉が気になったのだと言う。
「分隊という言葉ですが、どこかで聞いた覚えがあります。 確か古い物語の中で軍の1部隊をそう呼んでいたと記憶しています」
神様の言う通り、魔神との戦いの事だろう。自分の様な勇者が居たのかもしれない。
「その勇者は1人で軍団を召喚し、幾千万の魔神の軍勢を止めたと言います」
アシュリーの祖母から聞いた御伽噺。ここでは無い何処かから来た魔神とその軍勢。
全てを破壊し尽くす勢いで進むが、それを止めたのは、1人の男。
彼が魔法を唱えると、周囲に魔法陣が浮かび上がり中から不思議な鎧を身に纏い見たこともない武器を持った戦士が現れた。後ろに控える民の逃げる時間を稼いだのだ。
永遠に続くかと思われた戦闘は、2日続き3日目の朝にとうとう魔神とその軍勢を撃退すること成功。
それによって、王国の民は救われた、と言う御伽噺。
「この御伽噺は、めでたしめでたしでは終わっていません。 魔神という存在と戦う英雄、勇者の御伽噺はたくさんあるんです」
確かに、神様も御伽噺で話されているとは言っていた。しかし、自分の様な存在が過去にいたとはびっくりした。
似たような力だったのかもしれないが、自分が妖精を指揮して戦っているのだから一緒だと考えておく。
「そんな御伽噺ですが、常々思っていたことがあるんです。 御伽噺は何もないところから生まれるのかなって」
もしかしたら、遠い昔にあった出来事が記憶からも歴史からも忘れられて、御伽噺として残っているのではないかと言う。
途方もない巨大な威力の魔法が放たれた場所とされる地域は、周囲を山に囲まれた盆地となっている。
深い地面の下から、剣や防具なども見つかっているところもある。
また、ここシュウリス王国から北へ海を越えた大陸には国1つが迷宮化しているそうだ。 魔神に殺された者たちが徘徊するところなっていると噂されている。
「先程の、ナオトさんが仲間を呼び出した時なんて身体が震えました。 だって、御伽噺の英雄と同じ力持っている方が目の前にいるんですから」
「いや、でも自分がそう言う英雄? ではないかもしれませんよ」
「そうかもしれませんが、どこからともなく現れた見たことのない服装ですし、新たに出来た迷宮を攻略した実力を見せ付けられるとそう思わざるをえません」
こんな、夢か現実かを混ぜてしまう女は変ですか?と愛想笑いをするアシュリーだった。
結局、自分はここでは無い世界からきて、蘇るかもしれない魔神と戦う為に力を付けているとは言えなかった。考えたらそうだろう。 アシュリーも言っているように魔神と言われる存在は御伽噺。
自分が復活する! と騒ぎ立てても笑い飛ばされるだけだ。
実際に、魔神に関する事件が起きたりしない限りはだが。
「でも、実際にナオトさんのその力はなんでしょう? 召喚とも違うようですし」
召喚というのは、魔力を用いて戦う魔法の1つ。
普通の魔法は、発動し対象へと効果を発揮させる物、例えば火の玉を作り魔物に飛ばし当てて攻撃する、パーティーに魔法で加護を与え身体能力向上や傷を治すなどだとアシュリーは言う。
魔力は1度発動させてしまえば、必要以上に減る事も無い。
しかし、召喚は発動させている間は魔力が続く限り魔法を維持できる。
アシュリーの知っている召喚は、剣を持った戦士が魔力で呼び出されていた。
自分より大きな魔力で攻撃を受けない限り、攻撃を受ける事は無く戦い続けた。
術者の魔力が切れた為、その戦士は消えてしまったのだが小規模でも100体はいた魔物の群れを倒したそうだ。
「私が小さい時の話です。 住んでいた村に異常発生した魔物の群れが迫ってきたんです」
「物凄い力ですね、でもその方がいらっしゃったからこうしてアシュリーさんと話せるんですね」
「えぇっ!? 急に何を言うんですかっ!?」
あれ、なにか変な事を言っただろうか?
後ろを歩くカガリとミケの刺すような視線が怖い。
「えっと、そうだ。 もうすぐ偵察に出た妖精がウラエ山に到着する頃かと」
「そうなのですか?」
アシュリーが聞き返すが、無線に集中していた。
どうも、様子がおかしいようだ。キラービーがウラエ山の入り口を守る様にしていると言う。
数は不明、斥侯班に何かしてくる事も無く、そこにいるのだという。
「カガリ、迷宮の主を倒した際にキラービーはどうなった?」
「はっ、キラービーは攻撃を止めると撤退していきました。 倒した個体は魔石を残して消滅」
「待て、キラービーは動く個体も消滅したのでは?」
「いえ、尾根や谷へと撤退です、消えてはいません」
ミケも同じく生き残ったキラービーは何処へともなく姿を消したという。
「ありえません、。 迷宮主が倒されるとそれに属する魔物も消滅します」
魔素が一気に枯渇するそうで、迷宮内の魔物が身体を維持出来ず消滅するという。
それが迷宮を攻略した者への褒美なのか、事実は解明されていない。
実際に見てみないと分からない為、急いでウラエ山へ向かう事にした。
『ストライカー装甲車』をタブレットを使って呼び出す。 アシュリーは、驚いていたが乗るように促すと嬉しそうな表情で乗り込んできた。操縦をカガリに任せて先を急ぐ。
街道をそれ、丘を越えたところにウラエ山はある。
『ストライカー装甲車』を停車、斥侯班と合流。
双眼鏡でウラエ山を見ると、かなりの数のキラービーがいた。
30体を数えたところで止めた。
「ナオトさん、確かに迷宮の主は、グラットンマンティスでしたよね?」
「倒したのはグラットンマンティスでした。 何か思い当たる節があるんですか?」
アシュリーも推測の域を出ないそうだが、ウラエ山に生息するのは元々はキラービーであり迷宮主もキラービーだった。しかし、何らかの理由でウラエ山にグラットンマンティスが現れた為にキラービーは追い出されてしまう。
キラービーのあの数は、確実に迷宮は女王のクイーンキラービーがいる。巣も相当大きいはずだそうだ。
「こんな前例見たことありません。 一度、協会へ報告しなければ」
「分かりました。 ウラエ山はどうしましょう?」
「今は何もできません。 あそこを突破出来ますか?」
今の装備と人数だと心許ない。タブレットを確認したが、表示された地図は真っ赤に染まっている。ここは、無理する必要は無いだろう。
『ストライカー装甲車』に全員乗せると、シュウリス学園都市へと急いで戻る。門に付けて、アシュリーが降りて先に報告へ向かう。
ここに自分が残ったのは、コトネ達と合流しウラエ山へ向かうなら出発出来る体制を整える為だった。
「コトネ、サァヤさん達と合流出来ましたか?」
「分隊長? いいえ、彼女達はまだ来ません」
おかしい、あれから2時間は経つ。コトネに孤児院へ向かうよう指示を出す。
第1分隊の元へ行くと、車両の偽装を解くように指示、コトネからの連絡を待つ。
ふと、何か違和感に気付く。
目の前の空間が揺らいだかと思うと、魔法陣が展開された。まるで、自分がタブレットを使って妖精を呼び出す時のようだ。眩しい光を放ったかと思うと、そこには女の子が倒れていた。
タブレットには緊急任務と表示されていた。
「ナオトさん……、助けて……」
着の身着のまま、ほぼ裸に近く制服のジャケットをタブレットから持ち物として取り出して肩にかける。
ひどく殴られたのか、身体には痣や擦り傷が残っていた。顔も叩かれたのか赤く腫れているが、見知った女の子だった。
ショートカットで、長い耳がチラリと覗く、サァヤのパーティーの少女のエルフのチセだった。
可愛く微笑んでいた少女は、痛ましい姿になっていた。
「な、ナオトさん? ……夢じゃない」
咳き込む姿に、水筒から水をゆっくり飲ませる。
コトネから、サァヤ達が昨日から帰ってないと連絡が入る。
すぐに、こちらに来るように言い、チセの頭に着いた土埃を落とそうと手を伸ばすと、チセは身を守る様に身体に力を入れる。
「助けて……、助けて下さい」
「分かりました、彼女達は、サァヤさん達は何処にいるんですか?」
少しでも、安心する様に優しく、ゆっくりとした口調で話しかける。
「ニハラ洞、みんな、ニハラ洞に、捕まって、助けて」
「必ず、助けます。 心配しないで」
涙を流す、チセに出来るかどうか分からない約束をしてしまった。しかし、その言葉を聞いて安心したのかすぐに気絶する様に眠ってしまった。
妖精の1人に、彼女を基地の医療設備のある場所へと運ばせる。
「コトネ、ミィ到着しました」
もっと早く孤児院へ行っていればと謝るコトネに、君は悪くないと言う。
「これより、ニハラ洞へサァヤ達の救出任務に向かう」
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