迷宮《ダンジョン》、そして頂上へ
第16話投稿しました。
走って戻ってきたのを見て、拾っていた魔石を放り投げてコトネが慌てて駆け寄ってくる。
73式装甲車《APC》の周囲には、倒したばかりのキラービーが魔石を残して消えていくところだった。
「分隊長! お怪我はありませんでしたかっ?!」
「大丈夫です、コトネや皆は無事ですか?」
「はいっ! 負傷者も出ておりません。 キラービーも現在で、98体を撃破しています」
98体と言えば、多いのか少ないのか。
異常発生しているのか、それとも迷宮の力で魔物が生み出される数が多いのかもしれない。
「ボクもこんなに魔物が多いのは初めてにゃ」
ミィもこの数は初めてらしい。
魔石も98個。 キラービーの針が60本残っていて回収済みである。
タブレットを開くと、CPも一気に溜まってきている。
さっき倒した新しく出会った魔物の、カマキリのポイントも高いようだ。
「ミィ、この先にいる魔物なんだけれど大きなカマキリのようなんだ。 何か知っているかな?」
「カマキリ? どんなやつかにゃ?」
タブレットを開き、記録していた2体目の写真をミィが見えるように差し出す。
ミィは、画面に映し出された魔物を見ると表情が強張る。
「こいつは、グラットンマンティスっていう大食いで有名にゃ魔物にゃ」
生きているモノなら何でも食べてしまう魔物であるという。
ウラル山のような岩山の迷宮ではなく、木が多い森林型の迷宮に多く見られる魔物だ。
2本の前肢が鎌状になっており、刃先は鋭い棘が生えていて折り畳むようにして相手を生きたまま捕獲、そのまま食べると言う。
個体によっては飛び上がる事が可能で距離が開いていても油断は禁物である。
また、威嚇するときは、その羽を大きく広げて自分を大きく見せようとするらしい。
やはり、あの前肢の届かない距離からの弱点の火属性の魔法で攻撃すればいい。
ただ、魔法の発動までに近付かれては元も子もない、パーティーの盾役が囮となる事でグラットンマンティスの動きを止める必要がある。
やはり距離をとって戦う事に問題は無いようだ。 火属性など魔法の要素は一欠けらの要素も無いが物理攻撃が効かない訳ではなく慣れた冒険者であれば倒せる。
そうなれば、自分達に出来ない訳ではない。
「5.56mm×45mm NATO弾でも十分に対処は可能でした。 前肢は硬い為それ以外の箇所への攻撃が良さそうですね」
直接、まだ戦っていないコトネ達にもグラットンマンティスの実際戦闘した情報を共有する。
5.56mm×45mm NATO弾では7.62mm×51mm弾頭であればまた話は別かもしれない。
予備として持っているベレッタM92で使用している9×19mmパラベラム弾もどの程度の効果を出すか確認する為に再度装備を見直す。
キラービーとの戦闘、グラットンマンティスの撃破ポイントで溜まった分のCPを使用する事にした。
タブレットを確認していると、周囲を警戒する妖精達の動きに変化があった。
キラービーの襲撃だ。 数は6体と今回は少ない。 慣れたもので、すぐにM4カービンの射程距離内に入ったところで仕留められ、魔石を回収している。
使用した弾薬も戦闘を継続していくうちに効果的に魔物を倒せるようになってきたため、消費量が少なくなっている。
補給すると難なく補給が出来た。 今のところは緊急依頼が発生していないせいかもしれない。
第2分隊の編成を始める。 都市型迷彩へと切替てすぐに第2分隊と分かるようにしておく。
カガリとミケを分隊長及び副官とする。 分隊員の構成は、人と猫又で半分ずつ。
続いて、生産する武器を選ぶ。 今回は、第2分隊の分を用意出来ないかと考えているのだが1番CPの少ない弾帯と弾倉を入れる弾納を各自に3つずつ。
M4カービンを用意したかったが、必要数のポイントが用意出来ない。
迷宮内部では近接戦闘が主体となっている事で、第2分隊の装備を9×19mmパラベラム弾で固めてみる事にする。
有名なところでは、H&K MP5だろうか。 短機関銃であれば猫又の隊員も装備出来ると今知った。 ミィはベレッタM92のままでいいと言うので、第2分隊のミケに持たせることにする。
9×19mmパラベラム弾拳銃弾を使用する為、射程は短く遠距離での戦闘には不向きだが近距離での即応性、携帯性も高い。
また、連射による制圧力にも優れているのでこれから先重宝するだろう。
運よく、第2分隊全員分に用意する事は出来た。 特にカスタマイズはされておらず、素のままであったためかもしれない。
格好だけ見たら、警察組織の装備のようにも見えなくも無い。
「コトネ、ミィは第1分隊へ。 自分の指揮下へ」
「はい(にゃ!)」
「カガリとミケは73式装甲車《APC》はここから先には進めないのは先程の偵察で分かりました。 その為、ここを拠点とし防衛して下さい」
カガリが、73式装甲車《APC》のブローニングM2重機関銃を操作する為に銃手席へと座っている。
ミケと他の妖精で周囲を警戒する形を取っていた。
「第1分隊は、これよりウラエ山の山頂部へ向けて前進します」
数度のキラービーの襲撃はあったが、どれも難なく撃退し魔石と素材を手に入れる。
空の背嚢を背負ってきており、残っている素材も回収していくのだが、倒せば手に入る素材のせいですぐに背嚢がいっぱいになりそうだ。
「分隊長、グラットンマンティスを確認。 1体です」
「了解、コトネいけるか?」
「はい」
返事が聞こえてすぐに1発の銃声がここまで聞こえてくる。
コトネと妖精2人を斥候として分隊の前方50mを先に進んでいた。
グラットンマンティスの縄張りへと到達したようだ。
「撃破しました。 あっ、2体目が出現。 こちらに気付いている模様」
「了解、すぐに向かいます」
「倒してもすぐに新たな個体が出てきます!」
あんな風に魔物が出現するものなのだろうか。
コトネ達に追い付くと、また新たなグラットンマンティスが現れていた。
その足元には3つの魔石が転がっている。
1体ずつ出てくるのは助かるが、習性なのだろうか。
コトネの狙撃で、頭部を打ち抜かれてしばらくは動き続けており、それが地面へと倒れる。
魔石に変わったかと思うと、新たな個体が影から現れた。
「埒が明きませんね、突破しましょう」
コトネの狙撃があればここから難なく倒せるのだが、道はここ1つだけ。
迂回するにしても、90度に近い岩壁か崖下へ降りるかのどちらかだ。
輸送ヘリがあれば、そのまま頂上へ行けるか、とも考えたがCPが全然足りない。
このまま貯め続けるのもありかもしれないが、協会で集めている冒険者が来るのは明日だから時間はあまり無い。
彼らがこれば、こちらの主力であるM4カービンなどの銃はかえって邪魔になると考えたのと、キラービーやマンティスが多いため、冒険者に死傷者が出るのではと考えたからだ。
「コトネの狙撃と同時に分隊は前進します。 場所は、グラットンマンティスの現れる場所まで。 なぁに、走ればすぐです」
「出ましたっ!」
ダンっと1発銃声が響くと同時に駆け出す。
M4カービンで周囲を警戒しながら進んでいくが、倒した個体が魔石へと変わるとあと20mというところでグラットンマンティスが現れた。
すかさず照準を合わせて引金を引くが、動きが機敏で前肢で防がれた。
伸びる鎌を避けて、懐へと潜り込むとその柔らかそうな腹部へと5.56mm×45mm NATO弾を打ち込む。
動きを止めた頭部へ1発、コトネの狙撃が決まりグラットンマンティスは絶命、魔石へと消えていった。
「マンティス、出ませんね」
「そのようで」
コトネが狙撃位置から合流してくる。
グラットンマンティスが現れた地点へ到達すると、それ以降は現れる事は無かった。
鎌も素材として残っていたが、回収するにはいささか大きすぎた。 今回は諦め、転がっている魔石だけ5つ確保、先へと進む。
同じようにある一定の地点でグラットンマンティスが際限なく現れる箇所があったが、コトネの狙撃、自分達はその隙に登場する地点を確保。
それで、先へと進んでいった。 まだ先は長いようで、頂上はまだ見えない。
開けた場所へと到着し、小休止を取る。
「変な現れ方をする魔物ですね」
「ボクも聞いた事にゃい。 そもそもグラットンマンティスは大喰らいだけど、縄張りだって広くてここに居る様に近い範囲に何体も出てこにゃい」
「弾薬の補給を済ませます」
背嚢から各自で予備の弾倉を持っていた物と空になった弾倉を交換しておく。
「しかし、ここは魔物が出てきませんね」
「にゃっ! 迷宮内部には、こんな場所があるらしいにゃ」
迷宮内部にある安全地帯。
広大な迷宮では、こういう場所が幾つもある。
生まれたばかりの迷宮には無かったりするのだが、どの時々で変わるのだそうだ。
「ボクも聞きかじった程度にゃ。 あまり期待しにゃいで」
「いや、ありがとうございます、ミィ」
ポンポンと頭を撫でてやる。
コトネがジトッとした目で見てくるのだが、どういう事だろう。
妖精達も休めたようで、また先へと進もうとすると無線が入る。
『こちら、第2分隊カガリですわ。 ナオト様』
「どうしました? カガリ」
『キラービーとの戦闘継続中なのですが、もう73式装甲車《APC》の後部兵員室が魔石と素材でいっぱいになりそうなのです』
「回収出来ない分は仕方ありません。 一応、集めていて下さい」
『了解ですわ。 あ、新手ですわ』
そこで通信は切れた。
戦闘経験の無い妖精達で構成された分隊だったが、無事に戦闘をこなせている。
タブレットで第2分隊の周囲を地図に出す。 すでに通った場所は地図上に表示されている為、配置した分隊も表示されているのだ。
第2分隊の周囲にはキラービーの集団が襲撃に現れては撃破されていて赤い光点が現れては消えていた。
「よっし、第2分隊も頑張ってくれてますから、我々も頂上目指して頑張りましょう!」
頂上は開けており、そこには2体のグラットンマンティスがいた。
大きさが違い、1体は二周りは大きく、前肢が異常に大きい事と腹部にももう一対の鎌状の腕が見えた。
コトネに視線を向けると、意図を汲み取ってくれたようだ。
伏せてスプリングフィールドM1903A4を構え、狙いを付ける。
60mほど離れているこの距離なら、グラットンマンティスに気付かれずに倒す事が出来るだろう。
1発目の7.62mm×51mmが放たれる。 眉間を打ち抜いて終わりと思ったがあの前肢で弾丸が止められてしまった。
間髪いれずにコトネは狙撃を続けるが4本の鎌状の前肢で弾丸を止められる。
どこからか2体とはまた小さいが、数体のグラットンマンティスが現れる。
守るかのように、羽を広げてこちらを威嚇してくる。
「射撃用意!」
分隊全員で手にするM4カービンやベレッタM92を構えて狙いを付ける。
「撃てっ!」
耳を押さえたくなるほどの銃声が響き渡る。
1体、また1体と倒れていくグラットンマンティスだったが、また倒れてすぐに別の無傷な個体が現れる。
マンティスとの距離が段々と詰められているのだ分かる。
「コトネっ、あのでかいのを先に倒して下さい!」
「狙っていますが、あの4本の腕と他のマンティスが邪魔をして射線が取れません!」
「了解! ミィは妖精3人と右翼へ! コトネの護衛に妖精をつけます」
空になった弾倉を替えて、交換し薬室へと弾薬を送り込む。
ミィ達とは反対方向へと向かうと、目の前に振り抜かれた鎌を避け1体のマンティスを撃破。
さらに続く個体も頭部を打ち抜いて倒す。
囮になってコトネの射線を開くのだ。
「撃ちまくれぇぇ!!」
あちらが数で来るなら、こちらも数で戦うしかない。
弾丸と言う数でだ。
「見えたっ!」
コトネの声が遠くから聞こえてくる。
M4カービンやベレッタM92の発射音とは違う音が数度続く。
「初弾命中! ダメです、致命傷にはなりませんでしっきゃっ!」
飛び上がった1体のグラットンマンティスの鎌での攻撃に晒され、コトネが反射的にスプリングフィールドM1903A4で身を守ったようだ。
コトネもやられっぱなしでは無いようで、ベレッタM92をホルスターから抜き取ると、すかさずマンティスへと9×19mmパラベラム弾を叩き込んでいた。
ここにいるグラットンマンティスは今まで戦ってきたやつとは違うようで、強い。
妖精達も苦戦しているようだ。
「!!」
妖精の1人が前肢でなぎ払われて吹き飛ぶ。
慌てて別の妖精が牽制しながら救出、コトネの傍へと運ぶ。
お互いの射線が被らないようにして目標であるグラットンマンティスを上から見るとコの字のようにして囲んでいる。
1体の妖精に衛生兵として衛生キットを使用て回復にまわす。
「くそっ!」
最後の弾倉を交換すると、大きなグラットンマンティスへと全て弾丸を撃ち込む。
4本の腕に切れがなくなっているようにみえる。 頭部に弾痕があるのが見て取れコトネの先程の狙撃が聞いたのかもしれない。
撃ち切った5.56mm×45mm NATO弾は周囲にいたマンティスに阻まれたが残りは目標のマンティスに直撃していた。
ここの王のようにして君臨していたグラットンマンティスはやっとその身を地面へと沈む。
魔石になる頃には最後まで残っていた1体も倒し終えた。
「周囲の警戒をっ!」
幸いにも死者は出ていない。
しかし、怪我人は多かった。 誰一人として無傷なものは居ないのだ。
自分も衛生キットを使ってコトネやミィの負傷の具合を確認し治療を続ける。
「ありがとうにゃ」
「ありがとうございます」
「いいえ、お疲れ様でした。 これで最後ですね」
『こちら第2分隊、キラービーが消えました」
「きっと迷宮主が倒したグラットンマンティスにゃ」
迷宮主を倒した事で、迷宮の魔物が消滅した。
時間が経つと、迷宮主が復活し魔物が溢れ変える。
「良し、魔石も回収できましたし、あとま迷宮を脱出するだけです」
「はい(にゃ!)」
こうして、ナオト達一行は73式装甲車《APC》を目指して下山するのだった。
いかがだったでしょうか?
読んでくれる方がいらっしゃって嬉しいです。