迷宮《ダンジョン》へ
第12話投稿します!
朝早くから、冒険者協会へと足を運んでいた。
今日の目的は、迷宮の情報を手に入れる事である。
後ろには、コトネとミィが付き従っている。
冒険者協会は、朝が特に賑やかだ。
稼ぐ為に、朝早くから出発して目的を達成し協会に戻る。
換金し、宿へ戻る。 倒した魔物によっては名声、金が手に入ると言ったところだ。
過去の遺産が眠っている迷宮もあると噂されており、一攫千金もありえる。
誰しも冒険者になりたいと思うが、誰もがなれるわけではない。
冒険者は自分の命を掛け金としているのだ。
シュウリス学園都市冒険者支部の扉を開けるとあっと言う間に喧騒に包まれる。
様々な人種がおり、装備も人によって様々だ。
制服を着た職員も対応に追われているようだ。
「おはようございます。 ナオトさんでしたよね?」
「あっ、はい。 おはようございます」
前に登録した時に対応してくれた女性の職員だった。
確か名前は……、聞いていない。
「アシュリーです。 お顔に出やすいんですね」
クスクスとアシュリーと名乗った女性は笑っている。
今日は、ミィの登録と迷宮についての情報がほしい事を伝える。
「ミィさんの登録はすぐに出来ますが、迷宮の情報となりますと少々お金がかかりますよ?」
「問題ありません。 お金は幾ら必要なのですか?」
「金貨1枚必要です」
金貨1枚は高すぎないだろうか。
それも顔に出ていたのか、アシュリーは困った顔をしていた。
「実はですね、こういった情報は私達協会も調査しているのですが、基本的には冒険者の方からの善意の報告なのです」
迷宮がどこにあるのか。
どれほどの深度、つまり広さはどの程度なのか。
分布している植生、魔物、強さ等といった情報は金が生まれる。
もちろん、情報に信憑性はあるのかどうかは協会職員が派遣され改めて調査し、虚偽の報告でなければ報告した冒険者へ報酬が支払われている。
「そして、こういった情報を手に入れる場合ですが新しい情報を手に入れるとなると並大抵の実力では上手く行きません」
場合によっては、命は助かっても冒険者も普通の生活も出来ないような怪我を負っている場合もあるという。
高ランクの冒険者もまた例外ではなく、死と隣り合わせの職業だと改めて思い知らされた。
「情報量から、いくらかはそう言った命を掛けて情報を持ち帰ってくれた冒険者への支援金にも使われておりますので」
「そう言うことなら。 でも、金貨1枚だと高くないでしょうか?」
「そもそも、まだ依頼も殆どなさっていないナオトさんのようなまだ新米の冒険者はいきなり迷宮へ行こうだなんて思わないです」
「そうなんですか?」
「えぇ! もしくは、お金を払う事が出来ませんから自分で迷宮を探して潜るという方もいます。 もちろん、上手く行けば稼げますし」
「なるほど」
「また、迷宮ですが、ここシュウリス学園都市から近い場所のみが記載されています。 他の地域ではその協会支部で問い合わせ下さい」
それと、と言って人差し指をアシュリーは立てる。
「迷宮では、何が起こるか分かりません。 依頼も無いわけではありませんが全てが自己責任になりますので」
「わ、わかりました」
「迷宮の情報はいつでも待っていますので、どうぞ宜しくお願いします」
「無謀な事はしないで下さい」とアシュリーは言うと丸められた羊皮紙を差し出す。
金貨1枚を支払い、それを受け取る。 受け取ったとたん、いくつかの視線が集まってくるのを感じる。
アシュリーが手招きするので、屈むと耳に近付いて「迷宮の情報は高いので、ほしい方は多いんです」
でも、迷宮の情報を貰ってから受ける視線より、アシュリーが顔を近づけた時の方が殺気の篭った視線が多く集まった気がした。
特に、後ろに控えているコトネとミィの方を振り向くのが怖い。
しかし、振り向かなければ先へは進まないのだ。
「ひっ」
笑顔なのに、目が笑っていないコトネとミィが居た。
「さ、さぁ。 必要な情報は手に入れた事だし。 まずは協会を出ようか」
「はい、分隊長」
「行こうにゃ、ご主人様」
歩き出すと、2人は自分の両脇に立ち並んで進む。
身長は、2人とも低いのだが、謎のプレッシャーを放っているのだ。
厳つい冒険者や、麗しい冒険者も道を開けるように自分たちを避ける。
協会を出てから気を取り直すと、羊皮紙を開く。
シュウリス学園都市から近い迷宮の位置と簡単な説明が記載されている。
現在、学園周辺には2箇所の迷宮が確認されているようだ。
1つ目は、初めての採取依頼でキラービーと遭遇することになった場所だった。
正確には、キラービーの降りてきた山なのだが、『ウラエ山』という山らしい。
岩肌で最近までは何の変哲も無い山だったと言う。
ここ最近、迷宮化したそうだ。
確認されている魔物は、大型の蜂の姿をしたキラービーが中層に出ている。
他にも昆虫型の魔物の存在が確認されているらしい。
もう1つは、『ニハラ洞』。
地下へと続く洞窟の中に広がる迷宮だ。
地下13階層までは到達しており、まだ先がある事と可能性がある。
生息する魔物で確認が取れているのは、ゴブリンやオークと言ういわゆる人型の魔物が多い。
亜人とは違い、人との意思疎通を図ることはなく襲い掛かかってくる。
彼らは、雌が居ない為多種族の雌を攫い集落で繁殖するという。
冒険者が迷宮でゴブリンやオークの集落を発見した場合は、速やかに協会への報告が必要である。
報告を受けた協会は、討伐依頼を発布、集落にいる個体数が多い為に協会もかなりの数の冒険者を募って討伐へと出るのだ。
また、攫われている女性が居る場合は救助も必要だ。
そして、迷宮には共通する事がある。
迷宮には迷宮主と呼ばれる魔物がおり、その迷宮の頂点に立つ魔物だ。
迷宮主を倒す事が出来れば魔物も群も消滅し、迷宮の安全性が確保される。
迷宮主を倒すと、迷宮核と呼ばれる魔石を残す。
通常の魔石よりも魔力濃度も高く、高価で買い取られている。
しかし、迷宮は完全に消滅する事はなく一定の日にちが経つと迷宮主が復活するそうだ。
その為、今日まで迷宮を完全に攻略する事は出来ていない。
3人で顔を突き合わせて迷宮の資料に目を通す。
「どう思う?」
「私は分隊長に従います」
「僕も従うにゃ!」
近場だと『ウラエ山』だが、キラービー以外の昆虫類の堅い甲殻に標準装備の5.56mm×45mm NATO弾が通用するかどうかが問題だ。
片道で寄り合い馬車だと半日掛かる『ニハラ洞』では、魔物使いの襲撃の際に使役されていたゴブリンが主な魔物らしい。
ただ、迷宮となってから月日が経つので深層部には、より強力な魔物が生息している可能性もあるのだ。
2人は、自分に判断を任せたのだから、間違った選択はしたくは無い。
考えた結果、『ウラエ山』へと向かう事に決めた。
シュウリス学園都市を出てから、タブレットを開く。
陽もまだ昇ったばかりで、まだ辺りは薄暗い。
妖精を呼び出し、生産したばかりのM3ハーフトラックを配置する。
装甲兵員輸送車であるが、前輪はタイヤで後輪を廃し、後輪のあった部分には履帯を有している。
操縦手も合わせて、乗員は13人が搭乗出来るため現在の分隊戦力には十分だと思う。
後部の乗員席に分隊の保有しているM4カービンとベレッタM92、そしてコトネの持つスプリングフィールドM1903A4の各種弾薬を乗せて、万が一緊急任務が起きても対処できるようにしたのだ。
「イシダ分隊長! 分隊整列しました」
「了解。 これより、我々は『ウラエ山』へ向かう。 迷宮化しており前回遭遇戦となったキラービーとの戦闘が予想される。 気を引き締めていこう」
分隊の妖精の1人がSPを手に入れていたので、そのポイントで車輌技能を覚えさせた。
運転は彼女に任せ、分隊のうち3人は弾薬の護衛も兼ねて後方の乗員席に搭乗させる。
残った自分、コトネ、ミィと妖精3人は進む地面に問題は無いかどうか確認しながら進む事になった。
もちろん、周囲の警戒も忘れない。
「にゃっ! 分隊長、魔物が近付いてくるにゃ!」
「了解。 コトネっ!」
ミィの魔物の探知能力は凄かった。
妖精の索敵範囲の外より近付いてくる魔物を探知しているのだ。
大体の方向ではあるが、そこまで分かれば十分だった。
M3ハーフトラックを停止させ、距離が離れているうちに狙撃して倒す。
残った魔石は、妖精を2人組みにして回収させてから出発を繰り返していた。
『ウラエ山』麓へと到着、他の冒険者はもう迷宮へと入っているのか周囲には見当たらない。
妖精に迷宮の出入り口にあたる道の幅を確認させると、幾つかある道の中からM3ハーフトラックであれば問題なく通れる道を探させる。
万が一の場合は、M3ハーフトラックを盾にしての戦闘も有りえるかもしれない。
迷宮内部へとM3ハーフトラックを侵入させる。
特に死角に目が行き届くように分隊を配置する。
「分隊長、分隊長! 迷宮内部にゃんだけど、僕のはにゃも効き難いにゃ」
迷宮内部は魔力濃度が高いそうで、魔物の魔力が感知しにくくなるのだと言う。
ここでもミィの警戒能力を頼りにさせてもらおうと思っていたが、そう上手くはいかないようだ。
分隊全員に下達しておく。 ここから先は、何が起こるか分からないのだ。
『ウラエ山』は、岩山のようだ。 視界も広く、射線の確保も容易である。
M3ハーフトラックの速度は徐行で進ませており、先を急がせない。
歩きながら、タブレットを確認するとアイコンも全て機能しているようで、万が一の場合は基地へと戻る事も可能だろう。
ただし、こちら側の時間が進まない為に自分だけは残る必要はあるのだがそれは仕方ない。
万が一が起きないように立ち回れば良いのだ。
「今日は、とりあえず偵察を主任務とします。 山の中腹辺りまでは過去、冒険者によって確認されていますのでその先の偵察が出来ればよいなと考えています」
「了解「にゃ!」」
いつキラービーから襲撃を受けてもいいように、前後左右に気を配りながら迷宮内部を進む。
不意にM3ハーフトラックが停止する。
「どうしました?」
「イシダ分隊長、キラービーを確認! 数は3体。 正面にてこちらへ接近中」
「了解、処理してください」
M3ハーフトラックの後部乗員席に上がって周囲を警戒するコトネが前方の状況を確認する。
指示を出してすぐに前を進む妖精だろう、M4カービンの発射音が、2、3度続く。
静かになった。
「処理完了」
「了解、前進を続けましょう」
射撃音に寄ってきたのか、それからはキラービーの襲撃が度々起きた。
空中に居る為、空からも襲撃がある為全員でお互いの援護をする事になった。
「また来ます! 正面、数は6体!」
「崖側からも来るにゃ! 7体にゃ!」
コトネとミィが報告してくる矢先に、また新たに自分達の登ってきた方からもキラービーが現れる。
「後方にもキラービーです。 数は1、2……13体」
どこからこんなに沸いてくるのだろう。
こんなにいるなら、他の魔物はキラービーの餌食になっているのではないだろうか。
立射でもより実戦的な《オフ・ハンド》と呼ばれる姿勢でキラービーに狙いを付ける。
足の爪先とM4カービンの銃軸線は同じになるようにすると、姿勢に無理は無い。
利き腕では無いほうの手、自分の場合は左手だが親指と人差し指でV字になるようにしてその上に銃を乗せて保持する。
左手も力を込めてはいけない。 銃を支え、目標が動くならば銃口をそこへと向ける為に添えているだけである。
自分自身の呼吸でさえ、狙撃に影響を与えてくる。 人によって違うのだが、自分のタイミングである息を吸って吐き出して息を止める。
そうする事で、銃口の振れ幅が小さくなり、自分の狙いをつけた部分と照星、照門がまっすぐになるタイミングがある。
実際に、1度、2度、3度と引金を絞り、次々とキラービーの頭部ど真ん中へと叩き込んだ。
引金も、引く際には気をつけなければいけない。 力を入れすぎて引いてしまうと、狙いを付けた銃身が動いてしまい、目標に命中しない。
『ガク引き』と言うのだが散々注意させられた事だった。
キラービーの動きがもう少しでも早いと落ち着いて対処できなかったかもしれないが、現時点では分隊の火力でも十分に対応出来ている。
「残弾報告をお願いします」
「コトネです。 分隊の残弾はまだ十分にあります」
「わかりましたが、一旦ここで小休止しましょう。 この間に、消費した分の補給をしたいと思います」
「了解」
回収出来る分のキラービーの魔石と素材を妖精に回収させる間に、M3ハーフトラックの乗員席へ上がり座る。
空になった弾倉に弾薬を補充し、次に備える。
「きゃー!!」
突然の悲鳴に驚いて周囲を見渡すが、コトネやミィの悲鳴ではなかった。
ミィは、耳と鼻を動かしているが、視線は進む先を見据えている。
「君と君、それとミィも来てください。 コトネは分隊を率いて魔石と素材回収後に追ってきて下さい!」
「はいっ、了解!」
妖精のうち、1人は衛生キットを使用出来る衛生兵の代わりだ。
負傷している者がいれば、手当て出来るだろうと考えての事だった。
「よし、行きましょう!」
ミィを先頭に走り出す。 2つに分かれた揺れる尾が目の前で揺れている。
道沿いに進んでいくと、冒険者だろうかキラービーに囲まれているようだ。
すでにキラービー自体は射程距離内に捉えているのだが、その中心に冒険者がいる。
すかさず、射線が被らないキラービーに狙いをつけて狙撃していく。
仲間を倒されたキラービーが何体かこちらへと目標を変えて迫ってくるが、距離が開いているうちに数を減らしていく。
冒険者も、こちらに気付いたようで背中を見せたキラービーへ攻撃していた。
「にゃっ、この武器は使い辛い時もあるんだにゃあ」
確かに。 味方が射線の向こう側にいる場合の時も考えておかなければいけない。
最後の1体を倒し、周囲の安全を確保した頃にコトネ達も合流してきた。
妖精に負傷した冒険者の手当てを任せ、自分も周囲の警戒を続けていた。
なぜなら、冒険者のグループは女の子達だったからだ。
手当てする為に、着ている物を脱がせたりしているからである。
怪我の具合によっては、彼女達を都市へ帰すかどうか判断しなければならないだろう。
空を見上げると、陽はもう頂点へと届くところだった。
今日も読んでくれてありがとうございます。
更新が不定期で申し訳ありませんが、ぜひこれからも読んでもらえたら嬉しいです。