王女の護衛
ブックマークが50件を超えてしまいました!
とても驚いていますが、嬉しいです。
これからも頑張ります。
それでは、第11話始まります。
護衛1日目。
セレスティア王女の乗る馬車から先行して50mほど歩いたところには2人の妖精がいた。
身長は、この世界の子供と同じくらいだろうか。 その異様な雰囲気を持った人物はこれまた異様な格好である。
顔は目だし帽で隠れて見えず、この世界の人間がは分からない鎧を身に纏っている。
ボディアーマー、戦闘ヘルメット、剣や盾などは持たず、手には長い棒の様な物を持っている。
その長い棒は、分隊の主力火器のM4カービン。 そして、ホルスターには妖精個人で抜きやすいようにベレッタM92を装備していた。
学園へと続く道は、人の往来も少なくは無い。 それなのにも関わらず、異様な2人を避けて道を開けていく。
その2人の後を、セレスティアの乗った馬車と騎士の乗る馬が続く。 そして、妖精と同じ格好をした男がその傍を歩く。
「どうかの、ナオトよ?」
「はい、異常ありません。 むしろ、我々が逆に興味を惹いてしまっているかもしれません」
「そんな事はなかろう。 王家の紋章をあしらっておるからそのせいじゃろう」
馬車に視線を向けると、確かに旗がある。 赤地に金の刺繍でライオンの紋章があった。
道行く人は、足を止め、道端で井戸端会議をしている者も話をやめ振り返ってくる。
王家の紋章と言うのは、自分にとってはあまりピンと来ないがそれだけの対象なのだろう。
「にゃ、分隊長。 こちら異常無しにゃ」
後方の警戒はコトネとミィに任せていた。
先程から報告は事ある毎にコトネとミィが報告してきていた。
「次は私の番でしょう!」なんて声も聞こえるが、仲が良さそうで何よりだ。
学園に到着すると、学生服で統一された人の波が街の中と同じように割れていた。
どうも、前を進んでいた妖精2人のせいだったようだが、その張本人である妖精が立ち止まって周囲の警戒を続けている。
「仲間が先には進めないと言っています」
「うむ。 この先は学園の結界があるのじゃよ。 本当に許可された者しか入れんのじゃ」
学園の結界はいかなる理由かは分からないが、学生の中にはセレスティア王女の様な者もいるのだ。
それらを守る為と言われているそうだ。 裏を返せば、選ばれたもの以外は中には入れない。
シェルターのような物にも使えそうだが、有事の際は中の人を人質にする事も出来るのだろう。
あまり物騒な事を考えるのは止そう、悪い癖であるが王女と侍女が中へ入るのを見届ける。
「すぐそこに、ワシらのような護衛が待機する場所があるのじゃが、行くか?」
「えぇ、そうします」
目的の場所へ着くと、石造りのしっかりとした建造物である。
王女の屋敷よりまたさらに広く騎士の中には顔見知りも居たようで、声をかけているようだ。
どの護衛も屈強そうな男女ばかりである。 ただ、周囲を見渡す限り、ミィのような亜人はこの場には居ないようだ。
ミィに関しては目だし帽で顔を隠しているから、難癖付けられる心配は無さそうだ。
異様な格好の自分達に興味はあるようだが、遠巻きにして近付いてこない。
空いているテーブル席でカイラス団長と着くと学園の授業が終わるまで待機しているのだった。
護衛2日目。
学園都市を進む王女を護衛を続けているが、初日と違い学生が道を譲るといった事は無く日常の風景となったようだ。
こうした事を気にする者が少ないのかもしれない。
今日はミハイルが王女の傍で護衛し、自分とコトネ、ミィが先頭を進む。
装備は初日と変わらない。
しかし、想定していたより人通りが多く万が一、街中で襲われた場合手持ちのベレッタM92では周囲に被害が出てしまうか。
タブレットを起動、地図で周囲を確認する。
周囲には、赤い光点が灯っていることは無く学園の前へと到着する。
護衛3日目。
今日の護衛には、カルロス団長、ミハイルは居ない。
アメリとケイズという騎士だ。 彼らが先頭を進んでいく。
特に変わった事は無いまま、すでに3日目になった。
「あの、ナオトさん」
馬車の横を進んでいると、中から声が掛かる。
セレスティア王女の侍女のリィンという少女だった。
緑色の長い髪を三つ編みにして眼鏡を掛けている。
小さな窓から、顔を覗かせていた。
「あのですね、今日は姫様が学友から美味しいクレープと言う菓子があるそうでして」
「クレープがあるんですか?」
「えぇ、何でも新しいお菓子だそうですよ?」
驚いた、クレープなんて元々いた世界のお菓子だ。
どこかの誰かがこの世界に持ち込んだ物かもしれない。
「お小遣いもありますから、これで姫様の分をお願いしても?」
金貨を渡された為、コトネに頼んで買いに行かせるとセレスティア王女は甘くて美味しいと大変喜んでいた。
自分達にも食べてほしいと、また金貨1枚を持たされる。
全員分買っても、お釣りのほうが多いのだ。
多すぎますと言ったのだが、セレスティア王女は釣りを受け取ってはくれなかった。
氷の属性を持つ魔法で冷えた状態を保っているらしく、1つまた追加で頼んでおいた。
神様の為である。
屋敷へ戻り、セレスティア王女の屋敷の護衛に5人の妖精を残してタブレットから基地のアイコンをタップする。
手には、屋台で買ったクレープを持っている。
「お久しぶりです、神様」
「おぉ、ナオトか。 待っていたよ」
司令室の椅子から身を乗り出す神様の視線の向かう先には、自分がお土産で持ってきたクレープの入った袋がある。
「あの、お土産です」
「おぉ!! 感心感心!」
トテトテと歩いてくる姿は、小さな子供が楽しみにしていたお土産を貰う姿に見える。
姪っ子がいるからか、余計にその姿がダブって見えた。
ハムハムとクレープに齧り付く神様を見て心がポカポカとしてきた。
「これは、なかなか!」
あっと言う間に食べ終わると、自分の事をジッと見つめてくる。
もう無い事を告げると、しょんぼりとしてしまったのだ。
そんな姿を見ると、つい言ってしまうだろう?
「わかりました。 また次来る時には買ってきますね」
「絶対だからな」
目をキラキラとさせた神様の為に、次は多めに買ってこようとそう誓うのだった。
「そうだ、ナオトが私の為にお土産を持ってきてくれたんだ。 お返しをしないとな、タブレットを確認してくれ」
すごい事になった。 CPが5万ポイント溜まっておりさらにポイントをつぎ込めなかった海上兵器と航空兵器、その他の開発レベルが陸上兵器と同じレベル3まで上がっていた。
出血大サービスとはこの事ではないだろうか。
「上手く使いこなしてほしい。 力は戻っていないから上手く言えないがナオトの今回受けた依頼は十分気をつけるように」
「わかりました、ありがとうございます!」
タブレットにまた視線を戻す。
やはり第二次世界大戦頃の兵器が生産可能になっていた。
航空兵器の一覧で目を見張るのは、三菱A6M零式艦上戦闘機、通称『零戦』だろう。
他にも優秀な機体は多いのだがつい見てしまう。
1機当たりの必要ポイントが高い事からすぐに量産したりは出来ない。
海上兵器も、艦船が生産出来るようになっていた。 残念ながら、空母、戦艦、巡洋艦クラスは生産ラインには確認出来ない。
駆逐艦クラスが生産可能のようだ。 小型の掃海艇やボート類もあるにはあるが平野であるこの場所では必要ではない事からそっとリストを閉じる。
その他の装備についても大して代わり映えしないのが残念だった。
今、装備している物で十分だと思っている。
ポイントと貯めるかどうか悩みつつ、陸上兵器の生産リストを開くとあった。
車両関係が生産リストに載っているのだ。
「おぉ?!」
思わず声が出てしまうのも仕方ないだろう。
神様は、そんな自分を見ているからかニコニコと机に頬杖を付いていた。
どうも、陸上兵器開発にしかポイントを振っていなかったせいのようだ。
満遍なく、開発レベルは上げておいたほうが良さそうだ。
しかし、ポイントがなかなか貯まらない。
軽対戦車砲、軽榴弾砲、迫撃砲、野砲など各種装備と軽車輌が生産出来るようになっている。
M3ハーフトラックが5万ポイントで生産可能になっている。
分隊の移動に非常に良さそうに思えるのだ。 それ以外は戦車、自走砲の類はまだ無い。
「神様、ポイントは魔物を倒しても手に入るんでしたよね?」
「そうだよ?」
「どこか、良い稼ぎ場所みたいなところもあるんですよね?」
「無いとは言わないけれどもなぁ。 やはり迷宮に潜るのが一番だよ」
迷宮。 この世界に人が生まれた頃にはすでにあったとされるもの。
様々な形態の迷宮があり、魔物が生み出される場所だともされている。
魔素が溜まり淀んだ事で生み出される、研究者の中には迷宮もまた魔物であると言う。
生み出された迷宮は時が経つほどに、その階層を増やす事が知られており古い迷宮になると最下層に辿り着く事は出来ないとも言われていた。
また、核と呼ばれる膨大な魔力を秘める魔石があり、それを手に入れることが出来れば一生遊んで暮らせるとまで言われており、それだけではなく魔物の素材も品質が高い。
冒険者にとっては、まさに宝の山だと言われている。 もちろん、掛け金は自分の命と引き換えではあるが。
「もちろん、CPも魔物を倒せば手に入る、魔物の魔石や迷宮の核を手に入れればその迷宮は衰退し無くなる。 それもCPの対象だよ」
やるだけ損は無いような話ではあるが、王女の護衛を終えて迷宮に言ってみるのもいいかもしれない。
「今いるシュウリス学園都市の近くにもあるそうだよ」
「教えてくれて、ありがとうございます」
「またお土産、よろしくね」
「それでは、また来ます」
そう言って、基地を後にするのだった。
護衛を続けて1週間。
学園は、通常だと6日通って、1日休みという7日間をサイクルしている。 今日がその休みの日だ。
屋敷に侵入者なども無く、学園と屋敷の往復も問題が起きる事もない。
休日は、セレスティア王女は部屋でノンビリしているようで侍女が護衛中だ。
そのため、自分はと言うと屋敷内の警護についており、妖精達は500mの指揮圏内に2人ずつにして巡回している。
定時連絡でも異常が無い。 先程確認したのだが、カイラス団長も今夜到着するだろうという事だった。
陽も暮れ始めた頃、護衛の騎士団が到着した。
カイラス団長とミハイル達騎士団と一緒に門のところで出迎えていた。
セレスティア王女も一緒である。
フルプレートで、さらに顔も隠れて分からないがかなりの人数が到着したようだ。
確か、30名ほどとカイラス団長は言っていたのだが、それ以上はいる。
「カイラス団長っ!」
先頭の馬に跨っていた1人が降りて、カイラス団長の前へと走り寄る。
兜を脱ぐと、まだあどけない少女の顔が現れた。
銀髪を肩口で切り揃え、切れ長の瞳、整った鼻立ち、瞳も銀色なのだろうか。
冷たい印象はあるが、嬉しそうにしている少女の姿を見るとどこにでもいるような女の子に見える。
「近衛連隊第9師団、護衛団総勢120名到着しました!」
「ラフィ! お主か」
「はいっ、カイラス団長。 まさかみんなが……」
皆まで言うなというようにカイラス団長が首を振る。
しかし、気になる事があった。 ラフィと呼ばれた騎士以外は誰も馬上から降りずにいるのだ。
ピリピリと空気が張り詰めている中、見えない位置にいるつもりだろうが、屋敷の屋根からこちらを見下ろす位置にいるコトネからが見えていて剣に手を掛けている者がいるのだ。
「しかし、これほどの人数で来るとは……。 ラフィは何か聞いておるか?」
「はっ! 王よりこれを……」
書状だろうか、カイラス団長はそれを見ると黙ってしまった。
顔色もあまり良くないようだが、何事だろう。
「ナオトよ。 今日までご苦労じゃった」
「護衛の騎士団が到着するまででしたね。 お疲れ様です」
セレスティア王女からもお礼を言われた。 少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
自分達が撤収する事を聞いてか、剣から手をどける騎士の姿も見える。
「報酬は、冒険者支部を通して支払うでの」
「わかりました、それでは。 コトネ、撤収する」
タブレットを起動、警備をさせていた妖精を基地へ戻し、コトネとミィが合流してくるのを待つ。
挨拶を早々に済ませて、王女の屋敷を出ると早速冒険者支部へと向かい報酬を受け取り三日月亭へと向かう。
また今日から冒険者稼業へと戻るのだ。
この世界に現れているであろう勇者もどこかできっと出会えるだろう。
「今日から、またお世話になります」
「あらっ、てっきり王女様の部下になったかと思ったのに」
「いえ、今の方が自分にあってますから」
「そうかい! まっ、あんたがそう言うんならそうなんだろっ! 両手に花だねぇ」
ミィに気付いた女将のベルンが豪快に笑う。
そんなやり取りにホッとしながら部屋へと向かうのだった。
部屋に入ると、タブレットを確認する。
【王国の姫を護衛せよ クリア】
【獲得CP任務達成5000P】
特に襲撃とかも無く、弾薬の消費も無かった。
これは大変ありがたい臨時収入だった。 明日から迷宮の方へと出かけてみる事にしよう。
M3ハーフトラックの生産、試運転も試してみたいのだ。
これからが楽しみである。
「あの話は、物語、絵空事の話だと思っておったがの」
セレスティア王女の屋敷にあるカイラス自室にて、国王からの書状を確認したカイラスは燃やすようにと最後に綴られていた通りに暖炉に書状を投げ入れた。
今回の王女襲撃事件は、黒幕はまだ判明していない。
しかし、その容疑がかけられたのはセレスティアのすぐ上の兄の仕業ではないかとの事だった。
まだ何も掴めていないのだ。 実際に見た事があったあの魔物使いも王都にて生存が確認されている。
他人の空似というにはあまりにも似ていたのだが、生きているとなるとやはり彼が犯人ではないのだろう。
そして、首都付近に現れている謎の魔物の存在も奇妙だった。
強力な魔物は王都周囲から排除したはずだった。 迷宮もあるが騎士団が常駐しており外部への魔物の流出を抑えている。
新たな迷宮の出現も危惧されているが、その魔物は倒しても魔石が出ないのだそうだ。
霧のように現れたと思うと、霧のように消える。 屍骸も残らないのだそうだ。
昔、祖父から話してもらった事のある夢物語、勇者に倒された魔神の軍勢との奇妙な一致。
「何も、起こらなければよいがのぉ」
カイラスは一人呟くのだった。
この度の更新が非常に遅くなってしまい、申し訳御座いません。
ご意見、ご感想をお待ち致しております。
読んでくれる方がいてくれて嬉しいです。