先行き不安だが、やってみようか
第10話投稿いたします。
これも、読んでくれる皆さんのおかげだと思います。
冒頭はナオト視点ではありません。
シュウリス王国第3王女セレスティア。
王位継承権第3位であるが、上2人の兄は共に健康であり王位に付く事は無いと考えられている。
しかし、民からは慕われており兄よりも人気が高いとの噂もあった。
そんな彼女は、勉強のと言う名の王都より遠いこの地へと移されていた。
セレスティア本人も、それについては気付いてはいるものの王宮の息苦しさには嫌気が差しておりよい機会だと捉えて快くこの学園都市へとやってきたのだ。
しかし、貴族や王族となるとただ到着して終わり、と言うわけにもいかなかったのだ。
ここに来るまでに、護衛として付いてきてくれたカイラスの部下はほとんどが死んでしまっている。
それでも、このようなパーティーを開くと言うのだから王族と言うのは正直に言うと嫌な気持ちになる。
権威がどうとか、学園都市の権力者との繋がりは大事だとか言われても私は彼らの死を静かに祈っていたかった。
それが許される立場ではなかったのだ。
「ふぅ……。 やっと終わりましたわ」
「姫様は誰からも慕われておりますので、学園都市へいらしてもお会いしたいと誰も彼もいらっしゃるのです」
「そうかしら?」
「そうでございます」
「リィンも、いつもありがとう」
話しながらも、侍女がは手馴れた様子で、セレスティアの着ているドレスを脱がせ寝巻きへと衣服を替えてゆく。
リィンと呼ばれた侍女は、王都に居た時からずっとセレスティアの身の回りの事をしている。
黒のクラシックなメイド服を身に纏い、髪は深い緑色、長い髪を三つ編みにして眼鏡を掛けていた。
着替えが終わったセレスの後ろに立ち、髪を梳いていく。
「今日も、どこぞこの息子ですなんてお見合いでも無いのに紹介されて大変でしたわ」
「姫様は、お綺麗ですし仕方ありません。 皆様、とても素晴らしい方たちばかりでしたよ」
「全然、興味ありません」
ふと、セレスティアはパーティー会場に居た冒険者の事を思い出す。
カイラスから聞いたが、森で魔物の群に襲われていた時に助けに来てくれた冒険者達がいたという事。
それが、彼らだったと言う。 セレスティアは馬車の中いて守られていた為に姿は見ていなかったが不思議な人達だった。
3人いたが、2人は黒い髪と瞳で初めて出会った。 また、同じような格好をした隷属の首輪を付けた亜人の女性もいたのを覚えている。
普通は、亜人で奴隷にあんな綺麗な格好をさせるなんて事は聞かない。
でも、とても好感を持てた。 同じ人間なのにどうしていがみ合ったりするのだろうといつも思っていたからかもしれない。
または、小さな頃に読み聞かせしてもらった勇者の伝説に憧れていたのかもしれない。
人種の垣根を越えて助け合い、恐ろしいものと戦って打ち破ったという英雄譚。
確か、勇者の1人が亜人だろうと関係無いと人と亜人の橋渡しをしたのだ。
「姫様? 誰かを想ってらっしゃるようですね」
「えっ!? 嫌ですわ、そんな……」
「当てて見せましょう。 あの冒険者の男ですね。 名前は、確かナオヤでしたね」
「ナオトですわ」
にやりと笑うリィンの顔を見てセレスティアはしまったと思った。
名前をワザと間違って聞かせたのだ。
「もう、嫌ですわ。 リィンったら」
「申し訳御座いません。 しかし、何か気になったのならばまたお会いしては如何でしょうか?」
「そう、ですわね」
しかし、リィンの言うようにまた機会があればあのナオトという冒険者に会って話してみたいと思うセレスティアだった。
時計のアラームが鳴る5分前に目が覚めた。
現在の時間は、朝の5時半である。 ただし、時計が示しているのは日本に居た頃の時間である為この世界では当てにはならない。
ただ、どうも陽が一番高くなるのが、だいたい12時から13時頃である事、日の入りはだいたい19時頃と考えると時計としては十分に役立っている事だと考えていた。
何せ、まだこの世界に来てから時計と言うものを見た覚えも無いし、聞いた覚えも無い。 アバウトすぎるだろうと考えたが、逆に言えば時間に囚われていないとも捉えられる。
考え方の問題だろうという事にして、とりあえず現状どうするべきかと考える。
右手は、コトネの頭の下にある。 左手は、ミィが腕を胸元に引き寄せて掴んでいて柔らかい何かに当たっている。
肌着と、下はハーフパンツに着替えていた2人の姿は正直、目に毒である。 もちろん、良い意味でだが。
なんとか、そっと抜け出すとタブレットを開く。 今日から1週間はこの国のお姫様の護衛をする事になったのだ。
妖精を呼び出すべきか否かと考えるが、まずはどのような状況になるだろう。
この建物には、自分達しか居ないという事から本館の方だろうか。
結局、この日は迷彩服にボディアーマーを選ぶ。 頭はまたキャップを選んでおく。
迷彩パターンを都市型迷彩に変更できた為、それを選んで着替えるとホルスターにベレッタM92、弾納にはマガジンを4本用意しておいた。
タブレットで、カイラス団長の居場所を検索するとこちらの方へ向かっているようだ。
光点が1つのため、1人でこちらへ向かってきているようだ。 部屋を出て、すぐに1階へと降りる。
高低差があっても、副官や妖精との指揮圏内に変更は無いらしい。
ゲーム内でも、戦闘機同士でのドッグファイトも出来るのだから、3次元にも指揮範囲が対応していないとおかしいのは当たり前だった。
ドアを開けるタイミングで、ちょうど自分が降りてきたところ出会うように調整していた。
「おはよう! ナオト」
「おはようございます、カイラス団長」
「朝も早いのぉ。 初めて出会った時と同じ格好かの? 今日からだが、よろしく頼むぞ」
「もちろんです。 宜しくお願いします。 それでは、早速ですが護衛任務の確認を」
シュウリス王国第三王女セレスティア、それが今回の護衛対象の名前だった。
驚く事なかれ、今日初めて自分はそのお姫様の名前を知ったのだ。 カイラス団長も、自分がお姫様の名前を知っている流れで話を進めそうだった為、確認したのだ。
田舎者だから、お姫様の名前を教えてほしいと言うと、彼は驚いた顔をしていたが快く教えてくれたのだ。
年齢は、13歳でこの国では成人である。
王族の為、序列ではまだ上に2人いるそうなのだが要職に就くことも多く、このシュウリス王国学園都市での勉学に励むのだそうだ。
成人するまでは、この国の一般的な家庭でも親の元を離れる事は無いそうなので、王族であるセレスティアも成人して学園に入るのは普通である。
日本では考えられない事だが、郷に入れば郷に従えという事にあまり深くは考えない。 こういうものなのだ。
「セレスティア姫のお傍は侍女がおるでの。 さらにはワシら騎士団の2人が護衛として学園の行き帰りに傍についておる」
4人しか居ない為、2人が学園の往復を護衛する。
また残っている2人が、住まいであるここを守っているのだそうだ。
「過去に、邸内へ侵入されたと言う事もあったそうじゃ。 今はそんな事はあり得んのだが」
「それは……、返ったら刺客がいるとなればオチオチ帰る事も出来ないでしょうね」
「うむ。 本来は騎士団から派遣された30人で割り当てを決めるのじゃがそれが出来ん」
そこで、自分達に白羽の矢が立ったのだそうだ。
ゴブリンの群ならあっと言う間に蹴散らす事の出来る力を持った冒険者の一団である。
学園内部は、治外法権である。 学園には学園の法がある。 それを破れば法に則って裁かれるのだが、またさらに学園内部にも治外法権がある。
それが、大使館ともう1つは王族のいる屋敷であった。
屋敷の敷地内にはいかなる理由があろうとも学園側は兵士を一方的に派遣する事は出来ない。
それがあるから怖いとの事だった。 何か有るとすれば、屋敷内ではとも考えられるが外で襲われたらと思うとどちらも手薄には出来ない。
「また、どうしても来賓がある場合もあるが、やはり直接セレスティア姫が襲撃される事だけは避けたい」
カイラス団長は、自分達には学園の行き帰りには一番外郭になる外側の警戒、屋敷に戻ってからは敷地内の警戒をしてほしいそうだ。
万が一、襲撃があれば正当防衛が適用されるそうで襲撃者に対して反撃して、これを撃退してほしいとの事である。
かなり危険な任務じゃないかと思い直すべきかどうか。 襲われるとしたら、真っ先に盾となるのだ。
カイラス団長は、頼むと言って頭を下げてしまっている。
「1週間、君たちに頼むしかないと思ってほしい」
「王族なのですから、学園都市側もちゃんと兵士を派遣してくれるのでは?」
「これからの話はワシとナオトだけの話にしてほしい」
「わかりました」
昨日、パーティー前に確認してもらった男の素性に気付いていたそうだ。
王国に最近設立された魔物を使役して戦う兵団があるそうだ。
そこにいる1人だという事だ。
「名前はボルドという。 出自などの経歴が一切不明での」
隷属兵とは違い、奴隷を必要とはしない。
人間に対して害悪である魔物を使役する力を持った兵団団長がおり彼が従えた魔物をボルドなどの魔物使いに与えられている。
まだ大きな組織でも無く、表立った動きは殆どないという事なのだ。
「正直に言うと、魔物はまだ謎が多いのじゃ。 魔石を残す事からこの世界の力の源である魔素から生まれていると学者は言っておるがの」
魔物は生態が解明されていない。 多種多様であり人や家畜などに対して襲い、破壊活動を行う。
これが解明されれば、さらに良いのだが魔物を倒して手に入る魔石が人の生活の一部と化している為に切っても切れない縁が出来てしまった。
だからこそ、冒険者協会では魔石も素材も使えるから買い取ってくれる。
「おっと、話がそれてしもうた。 率直にワシの考えを言おう。 暗殺してきたのは姫を疎ましく思う王国の人間じゃ」
聞きたくは無かった。
大元を断たなければ、自分自身も相手の目標になってしまうではないか。
いやまて、目だし帽を使えば誰が誰かは分からないか?
「報酬は、騎士団の援軍が到着してから。 それだけではないぞ、姫と言う後ろ盾が出来る」
「後ろ盾と言っても、自由が効かなくなりそうですが」
「それは何とも言えんよ。 ただ、恩は絶対に忘れる事はない。 また、姫は亜人の奴隷については反対派での」
「ソレが何か?」
「なんじゃ? ナオトのところにもおるじゃろ?」
「あぁ、ミィですね? もちろん、助けましたしこれからもきっと助けると思います」
「それなら、良いではないか?」
亜人が奴隷だとか、奴隷がダメだとかは言わない。
この世界で当たり前の事を後から来た自分が、「ダメ、絶対」なんて言っても仕方ないだろう。
しかし、自分の目の届く範囲くらいならミィみたいに助けたいと思うのも、自分の考えなのだ。
カイラス団長の言うように、セレスティア王女が亜人奴隷の反対派と言う事と、今の護衛依頼との接点はないと思うのだが、すでに1度依頼は受けたとなった。
今更、嫌ですと言えるはずもない。 言わないのだが。
「自分の仲間に死傷者が出たら、どうします?」
「医療費はこちら持ちじゃ。 1番はナオト達が護衛しているからセレスティア王女に手が出せないと言うのが望ましいのじゃがのぉ」
抑止力になれと言う事か。
たった10人で何が出来ると言うのだろうか。
「お主の持つ武器は恐ろしいと思うたよ、ワシは。 魔法にも広域殲滅の物はあるが範囲内全てに対する攻撃での、敵味方関係無いんじゃ」
そのため、過去の戦争では両軍は距離が離れているところから広域殲滅魔法を放つ。
それを魔法障壁で防ぎ、徐々に距離を詰めて行くと、白兵戦へ移行する戦い方だと言う。
「それが、あの時は音がしたと思えば、われらを包囲しておった魔物はバタバタと倒れ、さらに魔物の増援にも対処しおったのだからのぉ」
恐ろしいと思うのも仕方ないと言われた。
それが広まれば、その力を他の者も恐れるかもしれない。 そうすれば、暗殺が容易ではないと判断するだろうとカイラス団長は考えたのだ。
「1週間後はどうしましょう?」
「そうだのぉ、何かあってもナオト達が駆けつける事が出来るという事が分かれば良いのじゃが」
かなり難しい注文をしてくる。
それについては、追々考えていく事にカイラス団長と決めた。
これから1週間、セレスティア王女の護衛依頼につくのだった。
コトネとミィは起きるとすぐに戦闘服へと着替えさせる。
問題は、ミィの分だったのだが、タブレットから倉庫の中を確認すると戦闘服だけは容易されていた。
神様からの贈り物だと説明が入っていたのだ。 うちの神様はとても優しい。
あ、新たに贈り物が増えた。 CPが1000ポイントだった。
これはとても嬉しい。 戦闘になって弾薬を消費した場合はこれで補給が出来るのだ。
時計を確認すると、針は午前8時を指している。
朝食は、離れへと運ばれてくる為に部屋でさっさと平らげてしまう。
パンとスープ、そしてサラダだった。
食べながらだが、コトネとスゥに朝にカイラス団長と話した事を伝える。
「わかりました。 分隊長の支持に従います」
「ボクも大丈夫にゃ! でも、危険にゃ?」
「分かっています。 色々と考えた事もありますので今日は、護衛対象であるセレスティア王女とこれからお会いします」
「わかりました(にゃ!)」
カイラス団長が呼びに来た。
分隊は装備は全て完全装備にしてある。 コトネだけは、スプリングフィールドM1903A4を装備させているが自分を含めてM4カービン、ベレッタM92、、ボディアーマー、戦闘ヘルメットと統一している。
コトネからは【衛生キットE】を外して、もう1人の妖精の持つ【衛生キットE】を持たせておく。
これもまた万が一を備えてであった。
また、全員が都市型迷彩へと迷彩パターンを変更している。
問題は、ミィだったのだがM4カービンは使いづらいそうだ。 その為、妖精の1人からベレッタM92をミィへと渡してある。
運動神経、動体視力など人と比べると格段に高い亜人のミィは、すぐに射撃を覚えてしまった。
動かない的なら百発百中になっている。 これも、基地内部が時間の流れが無い為に幾らでも訓練する事が出来た。
そして、副官のコトネ、ミィ、妖精達には、目だし帽を被せていた。
自分だけが顔を出している。
本館のホールにてセレスティア王女との顔合せだった。
ホールに2列横隊で並び気をつけの姿勢をしている。 自分はその先頭の列の中心から前に数歩前に出て立つ。
物々しい空気を感じ取ったのか、カイラス団長以外の3人の騎士団員にも緊張しているようにも見えた。
「楽にしてほしい。 このたびは私の為に来てくれて礼を言うぞ」
「自分達は、自分達のすべき事をしただけだと思っております。 セレスティア王女」
「それでも、あの日助かった事に変わりは無い。 して、この者たちは?」
「1週間で王都より新たな騎士団が到着するまでの護衛を勤めます」
カイラス団長が、王女に護衛について説明している。
その間も、何も言わず姿勢も崩さず、10人は待っていた。
全てを聞き終えた王女は、華が咲いたような笑顔で「宜しく頼むぞ」と言って部屋へと戻っていく。
これから、学園へと向かうのだ。 カイラス団長に合図をして10人中5人に人数を減らす。
自分と、コトネ、ミィと緑色の髪ので三つ編みにした妖精と赤いショートの髪の妖精を連れて行く。
妖精には、疲労度があるためこうしてローテーションを組むのだ。 そうすれば、全員が動けなくなる事になるという事態は避けれると考えての事だった。
ふと、視線を感じてそちらを見るとミハイルが何か言いたげに見ていた。
今日は屋敷の護衛に残るようで、騎士団からはカイラス団長と名前の知らない騎士が王女の傍に付くらしい。
王女は馬車で学園へと向かう為、何か怪しい物は付いていないか確認を騎士がしていた。 この世界の爆弾だったり魔法による攻撃だとまだ自分達には分からないとカイラス団長に言っていたからだ。
人通りの多い往来では何もしてこないという考えらしいのだが、自爆なんてされたらどうしよう。
妖精から合図が入る。 外には怪しい動きをするものはいないようだ。 カイラス団長へ合図を出すと馬車が動き出した。
これから、毎日となると気が遠くなりそうだが、やり遂げようと思うのだった。
いつもありがとうございます。
ご意見、ご感想お待ち致しております。
作者のモチベーションに直結しております。