【5】「学園組」
ーーー《異世界編【5】「学園組」》
如月と加賀は、学園までの道を歩いていた。片方は無表情、もう片方は初めて見る古い街の景色にはしゃぎながら、だ。
そんなギャップのある二人が並んで歩くーーーしかも両方ともそれなりに美形ーーーと、必然と人目を引いてしまうのである。
「うわっはぁー! 凄い! 凄い凄い凄い!」
「声が大きいですよ、加賀先輩。学園までは……あと二百メートルくらいですかね」
如月は脳内に描かれる地図で確認しつつ、道を案内する。そうして辿り着いた東部区画と中央区画に跨る「学園」は、まるで城を小さくした様な物だった。
「……地図で分かってましたけど、大きいですね」
「何じゃこりゃ!? すっげぇ!」
「だから声が大きいですよ」
如月の注意を聞き流し、はしゃぎ立てる加賀。如月は加賀を先導し、門の前へとやって来た。
門は両開きの鉄格子の様な物で、高さも四メートル近くはあった。その横に設置された受付に、二人は向かう。
「あ、入学希望者の方ですか? どうぞ、此方になります」
案内したのは十八歳前後の女性。恐らくこの学園の生徒だ。女性に案内され、二人はテーブルの前に立つ。
「此方が入学希望申請書になります」
二人は渡された二枚の紙をそれぞれ受け取り、羽ペンを取って記入を始める。
「代筆は……必要なさそうですね。では、書きながらでも構いませんので説明をお聞きください」
そう言って女性が説明を始める。それを聞きながら、二人は記入欄を埋めて行く。
この世界の教育制度は、当たり前だが地球の教育制度とは全く違う。そもそも識字率も余り高くなく、平民で満足に読み書きができるのは七割程度だ。貴族や商人などの識字率は当然高いが、必要に迫られない限りは余り重要視されない。
そんな世界の学園だが、年齢によっての学年は定められておらず、入学からの年数がそのまま「〜年生」という形になるのだ。
そして、この「学年」については、何の意味も存在しない。この学園の卒業の方法は、自主退学ーーー退学とは言うが、悪い意味ではなく「必要な知識は貰ったから、もう大丈夫です」的な意味だーーーと、教師によって認められ、卒業資格を得ての卒業だ。
学園には資格が幾つか存在し、これは本人がどれだけ学力を有しているかという保証になる。読み書き算盤ーーーではなく言語、基礎算数などの「基礎学力資格」。他にも初級魔法を扱える「初級魔法資格」などの魔法資格が存在ーーー。
「え? 魔法? 魔法!!?」
説明を聞いていた加賀が驚きと共に叫び声を上げる。周囲の人が声に反応して視線を向けた。
それに対して如月は「落ち着いてください」とだけ言って、再び説明を促した。如月は驚いては居なかった様子だが、脳内で「魔法」について考察を始めた。
(魔法……何らかの技術の比喩の可能性もあり。しかしながら街中で確認された動力不明の物体を動かす技術と考えると、僕達の知らない物である可能性もあり。科学技術はそこまで発展してなかったことから考えて……僕達が飛ばされてきた「この場所」は……地球どころか地球のあった宇宙や世界ですら無い可能性がある。立体交差世界論やマルチバースなどの他世界論は多く存在するが……)
そんな事を考えつつも記入を終えた二人は、受付の女性に紙を渡す。
「はい、えーっと……『ルート』君に『プラシア』さんね。今日から……十八日後に入学クラス分け試験があるので、忘れないでくださいね」
「分かりました。では、これで」
如月が返事をして、加賀を引っ張る。二人はそれぞれ年齢を一歳分下げて書いたが、不審に思われる事は無かった。
二人は宿に向かい、その後様々な店がある西部区画へと向かった。
◆□◆□◆
西部区画には様々な店が軒を連ねている。食品や衣料品などの生活必需品を初めとして、雑貨や書物、装飾品まで様々な物がある。
如月と加賀はそれぞれ別行動。両方とも一般的な暗殺者程度なら手も足も出ない上に如月作の武具を持っているので不意打ちでも負ける道理はない。
如月はまず、本屋へと赴いた。本を売っている店に入ると、本棚が所狭しと並ぶ中、数人の客が本を選んでいた。
如月もその内の一人と化し、つい先日覚えた言葉で書かれた本の山を漁って行く。
必要な本を何冊か選び出した後、ふと一つの本を見つける。
《魔法大全:序》
相変わらず無表情ながら本を手に取り、買った他の本当共に会計をする。この世界の本は中々高価で、一つ当たり千から二千フリルはする。だが、自分でその貨幣を創り出せる如月にとっては余り関係のない事だった。
購入した本を創造した麻袋に入れて店を出た如月は、南区画経由で宿に帰ることにして歩き始めた。
◆□◆□◆
運命の神様は悪戯好きなのである。
何故こんな結論に行き着いたかと言うと、今現在私が置かれている状況に起因している訳でございますよ。
あ、遅れましたが皆大好き《参謀》の加賀ちゃんです。え? 何? 自分で言うな?
……テヘペロッ☆
ちょ、待って待って、真面目にやるから!
こほん。えー、説明入ります。
右五メートルにナイフを持った男が一名。
左三メートルにもこちらは何かの棒? を持ったのが一名。見た感じはスタンロッドかなー?
っていう漫画の如き状態なのですよ。やだ、私の魅力値、高すぎ……?
いやマジでごめんなさいごめんなさい調子乗りましたすいません謝るからぁ!
ふぃー。まぁ、そんな状況で取るべき行動は?
暴漢Aがあらわれた! ▼
暴漢Bがあらわれた! ▼
どうする? ▼
・たたかう
・にげる
・どうぐ
・たすけをよぶ
………。ピピピッ。ピッ。
▼どうぐ
・如月っちの煙幕
・如月っちのスタンガン
・如月っちの片手剣
・如月っちの光学迷彩
……ピッ。ピッ。
加賀は 如月っちの煙幕 を使った! ▼
「うおっ!?」
「な……ゲホッゲホッ!」
落下させた筒から白い煙が吹き出す! ちな、私は口元抑えてるけど直接吸い込むと咳が止まらなくなるレベルの量だからご注意を。
「ひゃっふい!」
「うぐっ!?」
「……あぐ!?」
煙の中、暗視ゴーグルを付けて男達に一発ずつぶち込んで、煙を脱出。ゴーグルを外して袂にしまいます。
ほい、にんむかんりょー……あ。
「おーい、如月っち!」
「……やっぱり先輩ですか」
ありゃ。まぁそりゃ分かるよね。だって煙が酷い事になってるし。ま、別に良いか。
「今は帰り?」
「はい。先輩はどうしたんですか?」
「いや、アクセの店行って、なんか面白そうなの一つ買って帰ろうとしたらこうなった」
「なるほど。じゃあ帰りますか」
うん、これで話が通じるのはやっぱ五公会議クォリティ。凄く簡単。
さっき買ってきた指輪、なーんか「魔導具」って書いてあったし、すっごい面白そうだったから衝動買いしちゃったのよね。
魔導具ってことはやっぱ何か能力持ちなのかなー。
あ、スラム街の皆さんお騒がせしました。気にしないでください。
◆□◆□◆
「そういえば。加賀先輩」
「なーにー?」
道中、如月が唐突に話を始める。彼の手には先程購入した《魔法大全》があった。他の本は麻袋に入れられて背負われている。
如月が開いているのは一番始めのページ。因みにこの世界の言語は横書きが標準仕様だ。
「この世界の『魔法』という技術は最低でも基礎は学んでおくべきかもしれません」
「その心は?」
「まず、生活においては『生活魔法』という種類の規模が小さい魔法が使用されます。これは誰でも扱うことが出来て、最低でもこれは覚えておきたい所です」
「なるほどねー。それで?」
「はい。他にも『魔導具』と呼ばれる道具が存在します。街灯なんかがそれに当たりますね。それらもある程度魔力を使える必要があります。普通は親などからある程度は教わるらしいですがね」
「ふーん……でも、魔力とかそういうのって才能の一種で、全く使えない場合もあるんじゃない?」
「いえ、実はそうでもないんですよ。本から解釈すると『魔法は同位対称次元に存在する魔力を引き出し、それを扱う術』という事になります。例外もある様ですが、この本には『先天的な才能の入り込む余地は僅かなセンスだけで、後は本人の努力次第』だそうですよ?」
「なるほろー。まぁ、大なり小なり使えれば便利そうだし、取り敢えず私達で頑張ろっか、皆には私達が教えれば良いでしょ」
「そうですね。……おっと、もう宿ですよ」
如月と加賀が宿の中に入り、パタン、という音と共に扉が閉まった。
加「魔法だ! ヒャッハー!」
如「いきなりどうしたんですか?」
加「だって、魔法だよ!? ファンタジー小説の醍醐味だよ!?」
如「ライトノベルは余り読みませんからね……」
加「あとさー、なんで私はプラシア?」
如「僕は何故ルートなんでしょうね」
作「加賀は、加える、プラス、プラシア。如月は……実は如月、月、ルナ、ルート」
加・如「安直だ(ですね)」
作「酷い!?」
《ーー訂正ーー》
11/28 表記を修正しました
《ありゃ。まぁそうだよね。煙〜》
↓
《ありゃ。まぁそりゃ分かるよね。煙〜》