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五星の光(仮)  作者: 黒宮
一章〜異世界編〜
3/15

【2】「街」

《異世界編【2】「街」》


西村の報告によって分かった重要度の高い事実は以下の通り。


1:街に住んでいるのは人型の知的生命体で、社会を形成している。

2:奴隷制が存在し、奴隷には耳の長い種族や獣と人間が混ざった様な物もある。

3:文明のレベルは不明。建築様式は中世ヨーロッパやローマ帝国に近く、電気を用いた道具は存在しない。

4:しかし、動力が不明の街灯や機器が存在するので、文明が進んでいない訳ではない。

5:街は石造りの壁に囲まれていて、高さは七メートル前後。

6:街は半径五百メートル前後の円形で、街の中央部へ向かう程建物が豪華になっていく。また、街の南部はスラム街が存在する。


これらの事から、五公会議は仮説を立てる。


6:1、2より人類が存在し、また人類の進化系か亜種が存在する。

7:3、4より文明は科学とは別の方向へ進んだと思われる。全く違う文明ともなれば、風習などの違いも存在する可能性あり。

8:5より街を脅かす存在があると考えられる。道中、見たことない野生の動物に襲われた事からそれに対しての城壁とも考えられる。対国家用の城砦都市である可能性もあり。

9:6より街の中央部は特権階級の住居と予測。また、南部のスラム街は貧困層の住居であると考えられる。


また、西村は生活の風景などを観察し、更に次の事を告げた。


10:流通通貨は「フリル」で、サンプルを売買のよって入手。価値は旧日本の「円」とほぼ同様と判断。また、商人なども全員が使用している事から国家、または世界共通の通貨と考えられる。

11:文化は西洋に近いが、礼法は差異が存在する。しかし、忌避感を抱く様な物は無かった。

12:また、謎の組織が存在する。特に闇職業という訳ではなく、武装した人々などの出入りを確認。


「……と、ここまで纏めた訳ですが……羽葉先輩、行けそうですか?」

「問題ないわよ? 映像を見る限りは特に問題なし。ちゃんと《翻訳》も出来てるし」

「そうですか、では……《模倣(コピー)》で……はい、百フリル銅貨と千フリル銀貨です」


羽葉は如月から貨幣の入った麻袋を受け取り、腰に結ぶ。西村の持って帰った映像から作った旅人の服装なので、外見だけならーーー少し麗しいーーー旅人だ。本人曰く

「色気も大事な交渉手段よ?」

とのこと。これに誰もツッコミを入れない辺りが五公会議である。


「じゃあ、行ってくるわね。たっぷり『世間話』をして来るわ」


そう告げて街へ向かって行く羽葉を見送り、他の四人は西村が持って帰った音声と映像を確認し始めた。


◆□◆□◆


街の城壁の前に立ち、衛兵に顔を向ける。甲冑に身を包んだその姿は見る者を威圧するが、今更その程度の事で気圧されはしない。だが、気圧される少女を演じる(・・・)ことは重要だろう。

衛兵は二人、門の横に一人づつだ。門は開いているし、西村も《隠密(ステルス)》やら《光学迷彩(オプティカル・カモ)》やらを使ったのだろう。気配を絶ち、姿が見えないのであれば隠密行動の達人である彼女がミスをする筈がない。

そんな事を考えながら、衛兵の片方に声を掛ける。


「すいません、この街へ入りたいのですが……」


衛兵は顔をこちらに向けて、僅かに反応する。一般の兵より反応が薄い、これは衛兵長クラスかベテランだな。レベルが高いのか、偶々なのか……。まぁ、兎に角顔は覚えた。

数瞬の間を置いて衛兵が漸く応対する。


「あぁ、身分証明書はあるか? ギルドカード……は無いよな。冒険者じゃ無いだろうし」


ギルドカードなるものがあるらしい。冒険者、ギルドカード……西村さんの言っていた組織と関係が有るのだろう。


「ええ、その通りです。身分証明書……も持ってないですね。しがない旅人なので」

「道中は大丈夫だったのか?」


ええ、霧崎君の訓練受けてますし。並の兵士なら十人掛かりでも問題なしです。武器使用無しに限りますが。

如月君が創った武器も有りましたしね。五公会議の中での射撃精度は良くないですが、そもそも条件さえ整えば五公会議全員が十メートルの的にピンホールショット出来るとこから考えると基準が間違ってる気がします。


「問題有りません。両親に剣術を教わってますし。とは言っても細剣(レイピア)ですけどね」


マントを持って細剣(レイピア)をチラつかせると、衛兵も納得した様だった。


「そうか。まぁ、気を付けろよ? 偶にとんでもないのが出てくるからな、この付近は」


ん、情報ですか。無知を装いましょうかねぇ。


「そうなんですか? そこまで強いのは居なかったと思いますが」

「あぁいや、そんな滅多には来ないんだがな。偶にA−級の奴が出るんだよ」

「A−ですか?……どうやって対応を?」

「嬢ちゃんは怯え無いんだな……あぁ、常駐してる騎士団が総出でな……場合によっちゃ冒険者も駆り出されるぜ」

「まぁ、実際に見たわけでは無いですし」

「そうだな。まぁ、冒険者になるつもりなら知っておいた方が良いだろうよ」

「そうですね、情報感謝します。あ、街に入るのにお金は必要ですか?」


最後に通行料を聞いてみる。まあ、情報通りなら……。


「いや、この街は要らないぜ?」

「分かりました。ありがとうございます」


笑顔で衛兵の横を通る。笑みを向けた瞬間に若干たじろぐ辺り経験が足りません。五公会議の男共は見向きもしないですし。


まぁ、一つ目の任務は終わりですかね。


◆□◆□◆


ストリーミング再生される映像を見物する他の四人。彼らは真面目に言語解析を始めていた。


「……凄えな。何だコレ」


霧崎の呟きに同意する様に頷く女子二人。製作者である如月のみが無表情のまま解析を続けていた。

映像の画面下には羽葉の脳から汲み取った訳文が流れている。VR(仮装現実)のダイブ技術の大元なった脳波検出・分析装置の応用である。


「……よし、文法は終わった」

「早え!?」


最初に解析を終えたのは《参謀(カガ)》。流石に頭脳職なだけはある。


「……僕も出来ました。ただ単語のサンプルデータがもっと欲しいですかね」

「だから早えよ! 何なんだこいつら……」


続いて如月も解析を終える。ここまで僅かに数十分。脅威のスピードで新しい言語を習得する二人に、残った二人は苦笑する。

因みに、最初に終わった加賀や次点の如月が残りの二人を手伝うことはしない。今回は一人一人が解析をする方針なのだ。これは誰かが間違っていてもカバー出来るからであり、それに足る能力を全員が持っているからである。


残りの二人が解析を終えるまでの間、如月と加賀は必要な道具と今後の戦略について話し合う。


「どうするべきかね、コレ」

「参謀は貴方でしょう」

「まぁ、そうなんだけどさぁ……街に入る方法がなぁ……」

「道具の組み合わせでどうとでもなりますよ?」


そう言うと、如月は無言で筆記用具とメモを創り出す。


「西村さんの《光学迷彩(オプティカル・カモ)》と《隠密》を再現して、最悪城壁越えも考えるべきですかね? 動力とかの問題は有りますけど、一時的にならアレが使えますしね」

「え……アレ使うの? いや、良いけどさ……」

第二学園(ウチ)の技術の結晶じゃ無いですか、アレは。それにたった五人分なら改良も出来ますし」

「まだやる気……? アレ精神的にキツすぎるんだけど……普通にフック付きのロープじゃダメ?」

「城壁の上に証拠が残るので却下です」


真顔で呟く如月に、苦笑する西村。彼等の脳裏にあるのは、かつて兵士に運用させようと作った一着のスーツ。制御に必要な精神・情報処理・肉体的負担から、五公会議の面々と一部の精鋭にしか扱えなかった魔の兵器だ。


「まぁ、機能は絞りますから試験の時見たくはならないと思いますが」


無表情で淡々と事実を告げる《内政官(キサラギ)》を見て、加賀は微妙な顔を向けて、やがて諦めた様に溜息を吐いた。


「りょーかい。まぁ、技術とか道具とかは如月っちの専門だしね」

「終わったぞー!」

「……終わった」


加賀の声に次いで狙った様に霧崎と西村が声を上げる。如月と加賀は話し合いを中断して、四人で確認作業に移った。


◆□◆□◆


「じゃあ、取り敢えず三泊分宜しく」


街の東部、庶民街にある宿屋。極東連合では滅多に見られない木造の建築物の中に、羽葉が居た。


「はいはい、じゃあ……三千五百百フリルだよ」


人の良さそうな笑みを向ける店主に対して、羽葉は笑顔を振り撒きながら千フリル銀貨三枚と五百フリル半銀貨を渡す。


「毎度ありー」


店主の声を聞きながら、渡された鍵の部屋に向かう。

エントランスが食堂になっていて、昼飯時である今の時間帯はそこそこ人数が多い。そんな彼らの向ける視線が背中に突き刺さって居たが、無論羽葉は歯牙にも掛けなかった。


部屋に入った羽葉は、鍵を掛けてベッドの上で如月に渡された物をリュックサックから出す。


「リュックなんて始めて背負ったわよ……えーと……よし」


羽葉が取り出したのは、片耳ヘッドホンにマイクを付けたの様な機械だ。それを羽葉が耳に掛け、固定する。


『通信用のトランシーバです。使い方は後で説明しますが、光学迷彩搭載型なので人にバレる事なく装着できます。脳波を汲み取るので、声に発しなくとも念話で大丈夫ですよ。短時間で作ったので大きめですが、後で小型のを送るので大丈夫だと思います』


追加で渡された小型転送装置ーーー亜空間経由の空間透過という謎の技術の結晶だーーーは、まだリュックサックの中にある。今は必要無い。

此方の様子は渡された通信小型カメラで分かっているだろうが、此方からは向こうの様子が分からないのだ。向こうの四人とも連絡を取って、今後の方針を決めるべきだろう。そろそろ言語解析も終わる頃だろうし。


「全く、とんだ『天才』揃いよね」


そう呟いて、透明化した通信機の電源を入れた。


◆□◆□◆


羽葉が街の中でトランシーバを起動したのと同時に、如月が僅かに反応する。


「……来ましたか」


他の三人は如月の様子を見て疑問符を浮かべ、しかし続いた言葉で理解する。


「羽葉さんからの連絡です。会議を始めましょう」


その言葉の意味を汲み取り、三人は通信機を起動する。


《あーあー、羽葉よ。聞こえてる?》

《問題ないですよ。念話も問題なし……と》

《おお、なんだコレ。頭に音が流れてくるんだが》

《……何コレ》

《ひゃっほーい! 何コレすっごい面白い!》

《煩いですよ加賀先輩。まぁ、兎にも角にも今後の方針についての会議始めましょうか》


五人は念話通信状態という奇妙な体験をしながら、会議を始めた。

《ーー訂正ーー》


11/28 ルビ、括弧の修正を行いました。

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