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五星の光(仮)  作者: 黒宮
プロローグ
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五光

世の中、何が起きるか分からない物である。突然の成功や、奇跡にも似た超確率の偶然。運命に乗せられた人々は、それを崇拝と共に愛する。


《プロローグ「五光」》


「極東連邦」が出来て一世紀半が経過していた。日々進化の如く上がって行く仮想現実の技術は、教育にも浸透し始めていた。

この国の国立学園……極東連邦国立学園、通称「東連学園」は五つ存在する。連邦となる前の五つの国家の首都に一校づつ作られたこの教育機関は、所謂(いわゆる)「天才」の集う場所だった。

若くして学問を極めた者、特異な能力を持つ者、難解な演算式を暗算で紐解いてしまう者、etc…。

そんな東連学園の教育は、他の教育機関とは一線を画する物だ。


使用するのは約5億平方kmの仮想現実フィールド(ぶたい)。地球の表面……いや、地球の大地とその周辺を文字通り「全て」再現した空間。

その中で、五つの勢力をそれぞれの学園が「操作」している。一人の生徒が一人の「人間」となり、五つの勢力を操作する。最終目標は「世界制覇」、物理法則や亜空間法則、他の人間(NPC)、その他全ての要素を完全に再現した現実(リアル)で行う教育(ゲーム)だ。

この教育(ゲーム)の評価観点は一つ。「どれだけ自国(がくえん)に貢献したか」だ。

敵を討ち取るも良し、為政者として善政を敷くも良し、ただ生産をするも良し。

どんな方法を取っても良い。約5倍に加速された時間の中で進む教育(せかい)は、無限通りのパターンを持つ。


そんな中で最大勢力を誇る第二学園ーーー旧日本の東京に存在するこの学園は、五人の為政者によってその勢力を作り出していた。

最高議決機関「五公議会」。国の各担当者の五名による円卓会議で、国の方針、政策、果ては軍略までを決定する機関。彼らの会議は、いつも通り行われていた。


「如月君、お願い」

「了解。技術面においての量産化に関して特に問題は無し。各種素材、施設に関しても目立った問題は見受けられませんでした。ただ、ここから先の改良を施すには加工技術が足りない為、次回の運用までの改良は難しいかと。問題はありますかね?」


「内政官」如月(きさらぎ) (ゆう)。弱冠十五歳の為政者にして、国内の資源や技術、交通など全てを管轄する者。代表として表に出る事は少なく、五公会議の一員で有りながらその顔を知る者は少ない。銀髪の下にある素顔は美しいが、纏っている雰囲気と絶対に崩さない表情から「氷の美貌」とされる。

彼は単調に自分の「義務」を果たして行く。


「うん、十分だ。というよりもまだ改良する気だったのか?」

「ええ、設計図は出来ているのですよ。ただ、加工技術が問題なので其方にも手を回さなければならないので」

「用意周到なのはいい事な筈、なんだけどなぁ……」

「何を言うんですか、兵器は男のロマンですよ。というか貴方は毎回周りを見ずに突っ込み過ぎなんです霧崎さん」

「銃相手に突っ込める様な装備作るからだろうが」


「将軍」霧崎(きりざき) 秀斗(しゅうと)。十八歳の男子生徒で、役職通り軍を率いて敵に立ち向かう指揮官だ。無論彼自身も武力に長けていて、敵軍を正面から吹っ飛ばして行くその存在は一部に英雄視される程である。街中で歩けば必ずと言っていい程声を掛けられる様な顔なのに立場と威圧感の所為で誰からも声を掛けてくれない可哀想な奴でもある。

五公会議の中でも比較的マトモな人材である。


「はいはい、お喋りもそこまでにして。次は西村さんと加賀さん」


「外交官」羽葉(はねば) 美樹(みき)、十七歳の女子。交渉術に長け、凡ゆる交渉事を一任されている。他国との協定や貿易、はたまた内部の民間機関など様々な分野において交渉を行う。見た目は清楚ながら、手に入った情報の活用方法などから内面が黒く見られがちである。五公会議の保護者にしてお姉さんタイプ。後ろに束ねた茶髪の下には黒い笑顔。

常識人その2、ついでにまとめ役。


「……分かった」

「りょーかいっ」


「密偵」西村(にしむら) (よう)。十五歳の女子で、三桁を超える部下を持つ諜報部のトップ。「内政官」如月の同級生で、彼と同じく表舞台に出ない。「外交官」羽葉の交渉材料として情報を渡したり、「参謀」の作戦立案にも大きく貢献している。また、国内の反乱分子の早期察知も一つの役目。黒い髪を後ろに束ね、黒装束に身を包めば立派な(しのび)である。

無口なのは人付き合いが苦手とかではなくそういう性質だから、という認識だ。


「参謀」加賀(かが) 桐花(とうか)。十六歳女子、作戦立案担当。戦略・戦術のみならず国としての立ち回りなども「外交官」羽葉と共に考えている。立てる作戦の信頼性は高く、「密偵」西村と組ませた現在の成功率は相当なものだ。羽葉と同じく茶髪に黒い笑顔。五公会議の茶髪二人は(対外的に)危険物扱い。

明るく無邪気に策に嵌めて行くので「五公会議」以外からは新種の恐怖として扱われる始末。


「既に敵軍は壊滅寸前。指揮も酷くて逃亡を図る奴や捕虜になろうと投降するのも居る」

「うん、予定調和予定調和っと。ぶっちゃけ戦場での脅しって凄い便利なんだよね。追い詰め過ぎると手痛い反撃を貰うけど」

「窮鼠猫を噛む……かな」

「まぁ、定例報告は終わりってことで」


羽葉の一言によって円卓の張り詰めた空気が霧散し、同時に和やかな空気が流れる。


「終わりましたね」

「終わったなー、あ、如月」

「分かってますよ。はい」

「おう、悪ぃな。つっても仮想現実で電子ゲーム作るとは……」

「ただでさえ娯楽が少ないんですから。あ、こっち新作ですよ」

「おお! ……お前やった?」

「テストプレイ以外は特には」

「なんか超真面目な奴にゲーム作らせるって罪悪感があるが……」

「気にしないでください、大丈夫です」


「よし、終わりね」

「……ぷはー」

「やったーっ! お気楽タイムぅ!」

「あ、加賀さん」

「なんでしょー?」

「この前欲しがってたハーブティーあるけど」

「マジですか! 羽葉さん天使!」

「西村さんも要る?」

「……うん」


円卓の上が片付けられ、代わりにティーカップが置かれ、携帯ゲームが姿を表す。お茶会を始めた五公会議の面々は、普段の張り詰めた様子を見せる事なく時間を過ごす。


「あ、そうだ。西村さん」

「……何?」

「護身用に開発した小型の麻痺銃(スタンガン)だけど、見てくれない?」

「ん……りょーかい」


如月がアタッシュケースから取り出した銃に、五公会議の視線が集中する。全員が初めて見る新兵器に興味がある様だ。


「……スペック」

「名称:バウンス00-S-PT(プロトタイプ)。効果は即効性の麻痺、撃ち出す弾丸はプラズマコーティングor形成弾。コーティング弾は1型小型跳弾にプラズマをコーティングすることで最大2回、距離100mまで跳弾。プラズマ形成弾は空気中からプラズマを形成するから弾切れ無し、物体に命中するとスパークを起こします。

大きさは銃身90mm本体110mm、折りたたみも出来るので持ち運びにも便利ですよ」

「……凄い」

「まぁ、この国の技術力は舐めちゃダメっすよ。西村さん、x0y−5000z7000」

「了解」


如月が紡いだ言葉に反応して西村が手渡された銃を構え、即座に連射(・・)する。

それを見守る三人は驚愕した様子も無く、ただ不敵な笑みを見せるのみ。


独特のプラズマ放電が瞬時に二回瞬き、プラズマコーティング弾が射出される。空中に水色の軌跡を僅かに残しながら絵を描くように飛翔し、円卓を挟んで部屋の柱に着弾。僅かなズレから別々の角度に跳弾し、それぞれ左右の曲面に命中する。

二度目の跳弾を起こしたプラズマコーティング弾は、左右から西村の後方の柱の上に向けて飛翔する。着弾する数瞬前に影が飛び出す。


「素人ですか?」


如月が絶対零度の冷たい声を出し、西村から投げ渡された銃を構え、片手で射撃する。

寸分違わず狙った軌道を描くプラズマ形成弾に笑みを見せて、銃をアタッシュケースに入れる。

プラズマが空気中に放電を起こしつつ対象(ターゲット)の衣服を貫通して着弾。対象に僅かなショックとプラズマを浴びせ、その役目を果たして空気中に霧散した。


「……ッ!」


五人は腰から落下した黒装束に身を包んだ人間を退屈そうに眺めながら指示を出す。


「はぁ……いつも通りお願いします」

「……分かった。っつーか毎度俺なのか?」

「一応警察組織のトップでしょうが。諦めてください」

「わーったよ」


緊張感に欠ける声でのやり取りを咎める者は居らず、現れた制服姿の男達が黒装束の人間を連行するという状況に何の反応も示さなかった。


「……スペック通り」

「計算に狂いが無くて何よりです」

「……計算?」

「そう、試射はさっきのが初めてです」

「……えっ?」

「全部机上、ってか脳内のシミュレートの結果ですよ」

「……」


真顔で爆弾を如月にジト目で見つめる西村。そしてそんな様子を苦笑いで見つめる三人。


「まぁ、如月だしなぁ……」

「そうよね……」

「いつもどーり……だね」

「……」

「そうですよ。それに下手な実射よか正確な自信ありま……!?」


急に如月の声が途切れた事に対して反応する者は居ない。代わりにその場に存在した全員の視線は円卓の中央に集中していた。


「何です……?」

「こりゃあ……」

「……不味い」

「そうね……でも」

「もう詰んでるんじゃあ?」


各々の感想は誰に訂正されるでもなく空気中に消え、代わりに視線の先の異物が広がる。

その座標ーーー空間中に存在する、まるでガラスに釘を打ち込んだかの様な光景。そしてその奥に広がっている、詰め込まれた世界。

誰も声を出さずに、一つの共通解を導き出した。


「「「「「……バグった?」」」」」


瞬間的に広がった光に飲み込まれ、五人の小さき為政者達は姿を消した。


◆□◆□◆


《接続遮断確認》

《再接続確認・・・応答無し》

《脳波観測・・・該当波長無し》

《生命活動確認・・・異常なし》

《精神状態分析・・・エラー》

《《《《《該当パターン無し、使用者の精神状態または機器にエラーが存在します》》》》》


◆□◆□◆


本当の意味での「奇跡」は、実際に起きてしまえば常識など全く通用しない物を指すのである。



ーーーそれがどう転ぶかは、巻き込まれた者次第だろうが。

《ーー訂正ーー》

11/28 ルビ訂正

11/30 感想での指摘を受け、訂正を行いました

若干⇨弱冠

氾濫分子⇨反乱分子


御指摘頂きありがとうございました!

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