王妃さまの日常1
タルバ皇国第一皇女である私が、エトリア王国現国王リチャード•ブルーム•エトリア3世に嫁いできたのは、もう10年も前の話だ。
当時王太子であったリチャード8歳、私にいたっては5歳。庶民の結婚と比べ、王族貴族の結婚ははやいものだが、私の結婚はそれらを考慮しても、随分と早い。
しかし、それは当時の情勢から考えてもしかたのないことだった。
現存する国で最も古く歴史のあるタルバ皇国と、新興国であるエトリア国は長い間争い続けていた。
数十年にも及ぶ戦いは2国を疲弊させた。
とりわけタルバ皇国はもともと古いだけが取り柄の穏やかな気質の国で、新興国で勢いのあるエトリア国に徐々に押されていった。
このまま負けが確定する前に和平を結んだのが11年前。和平といっても、条件に国土の5分の1の譲渡と不平等な条約の締結。負けたと言わないのが不思議なくらい。
その上エトリアは友好の証として、王族同士の婚姻を望んだ。歴史の浅さに負い目があったエトリア国が、タルバ皇国の血を望んだことは不思議な事ではない。
けどねぇ。5歳はないでしょ。
一刻も早く友好の証をというのは分かるけどね。
私たちの結婚式はそれは盛大なものだった、らしい。
「らしい」なんて他人事みたいですって?
そんなこと言われても、仕方がないでしょ。
なんといっても、5歳。
いちおう、うっすーらと、記憶にあるような、ないような……。
そんな、曖昧な記憶でその時描かれた肖像画だけが、確かなものとして王宮の歴史の間に飾られている。
白い花嫁姿の5歳児と白い礼装の8歳児。
おままごとのような姿。
けれど、まごう事なき現実。
そう、事実なの。
私結婚してるの。
よって、私は今後花嫁衣装を着ることはない。
「花嫁衣装きたかったなぁ……」
いや、着たんだけどね。
乙女の夢だよね。
純白のドレス着て。
一番綺麗な姿で、みんなに祝福されて、大好きな人に嫁ぐ。
ものごころ着く前に済ましちゃったなんて悔しい。
「……王妃殿下。話聞いてます?」
地を這うような低い声で問われて、我にかえる。
「メラニー、せっかく美人なのにとっても怖い顔になっているわ」
「誰が、そういう顔させてる思っているんですか‼︎」
怒られちゃった。