手形
なんだ、なんだ??
「オイ、どうした?」
「だとしたら何だよ!悪いか!」
“だとしたら”の言葉が
一体何に係ってるのか理解し難い。
「……要するに何だ?」
「緑先輩が変な奴なんかに
取られんの嫌なんだよ!!」
「ハァ?」
馬鹿馬鹿しい。
流石に引くぜ、ソレ。
第一、アレ
「男じゃねーか」
「だから何?そんな事どうでも良い」
「止めとけ止めとけ、
アイツは今、S嬢と付き合ってるんだ」
「……アンタこそ何言ってんの?
緑先輩の相手はそんなんじゃないから」
「なんだ、相手いるの知ってはいるんだな?」
「……どこが良いんだか、あんなの」
「確かに俺もS嬢はどうかと思う。
俺的にはMの方が……いや、待てよ。
Sの方が屈服させた時の征服感が
ヤバそうだな」
「アンタの好みなんて聞いてねーし、
バッカじゃないの?」
「ま、とにかく人の趣味だからな。
どっちにしろお前よりそっちが良いから
選んだことには違いないんだし、諦めろ」
「アンタ、マジでヤな奴だな」
「男なんか好きになるヤツとかに
言われたくねーよ、キモっ」
バシッ!
「死ね!」
「……っ!」
何が起こったのか理解できなかったが、
熱を帯びた頬に徐々に思考が
追いついてきた。
(平手打ちされたのか?この俺が?)
俺は茫然自失で立ち尽くしていた。
理解できた今、
やり返そうにもその相手は既に
もういなくなっていた。
夜間照明とか洒落た施設ないのが
幸いして誰にも見られてはいなようで
助かったが、とんだ失態だ。
その後、俺は部室で着替えもせずに
家へと帰る羽目になった。
翌日、学校のトイレで鏡を見ると
手形がくっきり。
クソッ……あのガキ、力一杯殴りやがって。
「ダセぇ……」
今日は一日中、教室が騒がしい。
「……オイ、誰だよアイツ殴ったの」
「なんでもどこかの不良高に一人で
殴り込みいったってよ」
「マジか!?こえぇぇ……」
聞こえてる、聞こえてるっつーんだよ、
テメーら。
平手で殴る不良とかいねぇだろ、普通。
「日野、後で職員室こい」
……なんでだよ。
職員室で数人の教師に囲まれる俺。
(久々だな……こいうの)
教師連中の話半分受け流しつつ体育教師の
頭頂部の後退具合を観察していた。
(だいぶ進んだな……今6割ってとこか?)
「聞いてるのか?日野!」
「まぁ。所々」
暴力沙汰云々言われて違うといっても
お前が一方的に殴られるわけないだろと
生活指導の教師までも参加して同じ事を
何度も聞いてくる。
(何処かの不良を殴ったと言えば
気が済むのかよ)
もういい加減、キレそうになった時、
いきなり紺里が割り込んできて、
「いやー部活の態度が悪かったんで、
僕がちょっとヤキ入れちゃいました」
(……は?)
「え?」
「はい?」
「先生、もう一度お願いします」
“貴方が?この日野に?ですか?”と、
その場にいた教師が全員
固まっていたみたいだったから
その隙に脱出してきたんで
その後どうなったか詳細不明。
良くは分からんが、
あとは任せた、紺里。
部室に行ったら行ったで、
「そうそう皆、腫れ物に触るかのような扱いでさぁ、
誰も本人に確認したがらないから
三年の間で噂話だけが一人歩きしてんだよ」
「三年だけじゃありませんよ。
俺達の学年ってか学校中に広がってますって」
「一年の間では相手、あっちのスジの
人って言ってたんですけど、え?
違うんですか?」
お前らまで……
それでコソコソ言ってるつもりか?
近衛にいたっては堂々と来たは良いが、
「先輩、S嬢っスか?」
「……ウッセー黙れ」
お前と一緒にすんな。
「センパーイ、それ……」
ボカッ!
良いからお前は喋るな、中村!
どいつもこいつも……
「ねぇ日野」
お前もか?秋。
「監督まだ来てないけど
どうしたんだろうね?」
「え?さぁ……今日は来れねぇかもな」
「……え?」