エース激突!
紺里がハーフタイム中、
作戦を立てるでもなく何か喋ってるよう
だったが何一つ耳に入ってこない。
頭の中でさっきのクソ坊主の
顔が脳裏にべったり張り付いてて
ムカムカしてるその時、いきなり
そのフレーズだけが飛び込んできた。
「俺らもチーム鷺我にする?」
それは紺里が発した言葉だった。
「どういう意味だ?」
俺はスポーツをやっている以上、
自分らの監督は絶対だと信条のもと
逆らうつもりなど毛頭ない。
紺里は自分もそうであるように
こういう言い方しか言えないのだと
数年来の付き合いで理解してる。
だから、言葉を単に鵜呑みにしてねぇ。
そもそも、この人はテキトーに見えてても
俺らの事よく見てるんだよな。
アドバイスをしたがらないのだって、
自分らで考えろって事の裏返しだろ?
それくらいは俺でも分かっているつもりだ、
信用もしてる分、腹も立たない。
だからこそ、
いつも受け流すように決めていたのに
つい言い返してしまうくらいには、
この時切羽詰っていた。
「もっとやれるだろ?って事」
その紺里は俺を見たまま視線を
逸らそうともしない。
らしくない態度だ。
普段俺と目を
合わせようともしないくせに。
といより……理由は知らないけど
何だか俺に対していつも一歩引いてる
気さえする。
つまり……
それだけコイツも熱くなってるって事か。
秋の配ったドリンクを飲みながら
どう対策とるかミーティングを
してる最中、
「向こうの主将と楽しい雑談してんな」
紺里が近衛に切り出した言葉が
引っかかった。
『当たり前じゃん。それ以外に
この高校に何の価値あんの?』
少し離れた位置にいる近衛に
視線を向けた。
“――近衛”
誰しもが憧れる“鷺我”のエースの座を
アッサリ蹴って何故かこの学校に
やってきた中学からの不動のスーパースター。
目的はその近衛だとあのガキは
ハッキリ言った。
その為だけにあのエリート集団を
引き連れてこんな無名校に乗り込んで
来たんだと。
…………だから……何だ?
いいじゃんか、目的がそれで。
お陰でこっちは滅多に練習試合をしないって
お高くとまった天下の鷺我とやれるんだから
願ったりだ。
余計なこと考えるな、今すべきことは何だ?
現時点では悔しいが実力差は明らかだとして
今出来ること沢山あんだろ。
勝ちを急ぐ必要はない。
今日、例え勝てなくても
次、勝てれば良い。
サッカーをやっていなければ
俺には到底思いつきもしない発想だ。
後半に入っても攻めはことごとく
阻止されたが、それが全てじゃない。
こっちもこの攻め方が何故マズイのか、
それに代わる方法はどうすべきだったのか、
俺達に対して鷺我はどんな風に動いてるのか
全てデーター取りさせてもらう。
折角のチャンス、モノに出来ないで
どうするよ?
マネージャーしっかり記録とっておけよ。
見れば秋の奴、必死にノートを書くのに
余念がなさそうで、結構。
鷺我さんよ、いつまでもテメーらが
大将だと思うなよ?
いつか俺らから足元救われるかもだぜ?
そう気持ちを切り替えるだけで
ムッチャクチャ楽しくなってきた。
やっぱサッカーって面白れぇ!!
試合がもう終わると思った頃、
突然近衛動いた。
お前いつも動くの遅せぇよ。
そんな個人技もってんだったら
もっと序盤から点取れただろーが、ったく。
紺里じゃねぇけど
最初からヤレっての。
シュート後、割れんばかりの近衛コールが
鳴り響く中、当の本人はニコリともせず
ベンチ方向をみてる。
「!?」
その視線の先に秋の奴が親指立てて
近衛に示してるのが目に入った。
……オイ、まさか?
もしかしてずっと動かなかったのって
鷺我のやり方を俺達に見せる為か?
(ハッ!マジ大した奴だよ、お前は)
……えれぇ後輩持ったもんだぜ。
それに引き換え、
近衛にしてやられてさぞやあのガキ
悔しがって……
笑っていやがる?
悔し紛れの笑い方じゃねぇ。
心の底から嬉しそうに
笑ってんの、か?
何考えてるんだ?コイツ。
……訳がわからねぇ。