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殴・り・た・い

「アンタが主将とかどんなチームだよ」


「それはこっちの台詞だ。

お前みたいなクソ一年が、キャプテンとか

今年から全国は諦めたのか?

鷺我って案外大したことないんだな」


「……クククッ」


突然奴が笑いやがった。

さも楽しげにだ。


「何が可笑しい?」


その挙動の憎々しい事、この上なし。


「……いや、ソレ。

試合後にもう一度言えるかな?

って思ったら、ついね」


「ちょっとたまたま主将になったからって

一年が調子こいてんじゃねぇよ」


「たまたま――ねぇ」


「どうせクジだろ、クジ」


ハイハイ、もういいよ、

そう言いながら奴は背伸びをしつつ大欠伸。


どもまでも馬鹿にした態度だ。



「今回アンタはどうでもいいんだ。

緑先輩は見当たらないけど何処行ったか

知ってる?」


「緑?もしかして近衛の事か?

やっぱり鷺我はアイツ目的で

練習試合申し込んできたんだな」


は?と驚いた顔。


「当たり前じゃん。それ以外に

この高校に何の価値あんの?」


馬鹿にしたように笑うコイツを

野放しにしておかなければいけない

この状況が腹立たしい限り。


最近、あからさまに絡んでくる奴も

いなくなって退屈してた俺の前に

こんな憎たらしいオイシイ獲物の登場とか

まさに、もうどうしてくれよう状態で。


(殴りてぇ殴りてぇ殴りてぇ……

のたうち回るコイツ見てぇ)



チラッと周りを見渡すと、秋が

こっちに目を光らせていた。


“よもやその子を殴ろうとかしてないよね?”


とかその目は言ってそうで。


チッ、やっぱりいたか。


秋はこういう時に限って

勘が良くて困る。



(分かったよ……殴らねぇよ、今はな)


握った拳をなんとかジャージに

突っ込んだ。







一年で“鷺我”の主将になった。



その意味を俺は試合を通して

身を持って知る羽目になってしまった。



――認めたくはないが、

コイツ普通じゃねぇ。



動きに先ず無駄がない。

正確なパス回し、誰が何処で

どんな役割をしてるか確認した上で

最適なゲーム進行をしている。


近衛のプレイスタイルを彷彿とさせた。


アイツに受ける感覚そのまま、

奴にも共通のモノを感じる。


鷺我の奴らはその名に恥じること無く

多かれ少なかれ似たような能力を

持っているのだと思う。


……が、この二人は違う。


所謂、別格だ。



努力したからといって

誰しもがこうなれるわけじゃない。


一緒にやってるからこそ分かる、

圧倒的なセンスと実力。



近衛は、そこいて欲しい時、場所に

必ずいる。

それは同じFWのみならず

チーム全体に絶対的な安心感と信頼を

生んでいた。


が、このゲームに限りそうじゃない。


何度もパスをしようとして

いつもいるはずの近衛の姿がそこにない。


その原因はあの一年にある。


近衛をあそこまでマークしきれてる奴を

初めて見た。


正直、俺一人でここのゴールを狙うのは

流石にキツイ。


鷺我の鉄壁な守りといえばその失得点の

低さから今持って何処も抜けない程の

大会記録更新中のディフェンス。


「麻井、こっちだ!」


それでも何とか活路を見つけて

攻め込んではみるものの全てが

空振りとなってしまう。


ダメだ……パスが通らない。

やはり他のFWじゃ近衛の代わりはきかないようだ。


というか、

こっちの攻撃パターンは全部読まれてる。


それに比べ向こうの波状攻撃は

容赦なく続き、いまや攻撃時間より

守ってる方が断然時間が長くて

焦りばかりが余計無駄な動きになって

疲労を積み重ねさせていた。


……クソッ、息上がる。


こんなに試合がキツイと思ったのは

生まれて初めてだ。


鷺我が伊達に連勝記録を爆進してる訳じゃ

ないってことを嫌という程、

思い知らされながらだから余計。


(何だよコレ……歯が立たねぇ)


甘く見てた。


実力の差がこうも歴然としてなど

思いもしなかった。





やっとハーフタイムの笛がなって

ベンチに行こうとした時に

例の一年小僧と目が合った。


そして次の瞬間、満面の笑みで

笑いやがった。


(!!)


コイツ、

息すら上がっていやがらねぇ……


余裕ってか?

俺達に本気出す必要もないって訳かよ。



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