16金網越し
俺達が鷺我に行ってかなり経った頃、
再び戸神が姿を見せた。
(……来たのか)
金網に寄りかかっいたその横並びの
延長線上に奴の姿を発見して
俺は知らず溜息を漏らしていた。
チッ、何で俺はホッとしてんだ。
「来てるね、あの子。日野行かないの?」
「そうそう構っていられるか。
お前もそんなどうでもいい事言いに来る
暇あるなら自分の仕事しろ」
わざわざ言われなくても気が付いてる、
俺は秋に悟られるのが面倒で
つい粗暴な言い方になっちまった。
だがな、お前は知らねーだろうが
奴の目的は近衛であって俺には関係ねェ。
「テメェーらサボってんじゃねーぞ!ゴルァ!
蹴り入れられてぇのか?」
「何たるスパルタ。というか無意味な怒号」
「皆、震え上がってるじゃん暴力男」
いつの間にこんな傍まで来たのか
金網の越しの背後に立っている気配と
それを位置付ける声の響き。
「中村、杠~お前ら何喋ってやがる?
そんなに余裕あんなら
校庭10周走ってくるか?」
ひたすら無視。
「……無視かよ、ガキっぽい」
チッ、うっせーな。
「ウチにはウチのやり方があんだよ」
「恫喝による武力支配ねぇ」
「俺はお前じゃねぇ」
「――へ?」
「確かにお前はスゲーよ、俺はあんな風には
とてもじゃないが出来ねぇ」
「嫌味?」
「たまには素直に人の話、聞き入れろ」
「この間、鷺我でのお前を見たとき
俺なりにお前を見直したんだ。
実力も指導もお前の方が遥かに上だ。
ハッキリ見せ付けられて認めないほど
器小さくないつもりだ。
凄いものは凄い、違うか?」
アンタがそんな事いうとか裏あんだろ、
とブツブツ言ってる声が後ろから聞こえる。
「近衛に会いに来たんだろ?行けよ。
今休憩中だから許可すんぜ」
寄り掛かっていた金網から身体を浮かして
歩こうとして、その足を止めた。
金網の隙間から戸神の指が俺のTシャツの
裾を掴んだからだ。
「イイ……別に」
「……なんだ?」
「今日の目的は緑先輩じゃない……」
(……どんな顔して言ってる?お前)
「離せ」
「……っ!」
ビクッと反射的にTシャツを一瞬を
引っ張る形になったが、戸神は
すぐにその手を離した。
「良いから、そこで待ってろ」
俺は後ろを見ることなく、戸神が
指を離した感覚だけを確認すると
秋の方に向かった。
「こっち来い、行くぞ」
手招きをしてグランドと反対方向を指差した。
「……部員良いのか?放っておいて」
「マネージャーに指示してきたから
後はテキトーにやんだろ」
「いい加減な……」
「来るのか?来ないのか?」
「ったよ」
しぶしぶといった様子で俺の後をついてくる
戸神を一瞥してズンズン歩き出した。




