召喚に応じる気はない!
初投稿です。広い心で見てくださると嬉しいです!
私は極々平凡な人間である。どこにでもいるような容姿に良くも悪くもない頭の出来。…たとえ家の隣に完璧超人な幼馴染が住んでいようと、私自身は平凡な人間である。
「千由、好きだ!結婚を前提に付き合ってくれ」
「は?」
そんな私は今、完璧超人である幼馴染の内田和樹に告白されてる最中である。
「頭湧いた?」
「正常だ」
内田和樹というヤツはとても恵まれた容姿と能力を兼ね備えている。
誰もが羨む艶やかな漆黒の髪、切れ長の瞳。整った目鼻立ちに高い身長。成績優秀運動能力抜群のスーパーマン。どこの二次元から飛び出してきたと悪態がつきたくなる今日この頃である。そんな彼が凡人である私が好きだとのたまう。冗談も程々にしてくれないと、『幼馴染』というだけでも集まる数多の女子の敵意をさらに集めてしまうことに…
「千由…俺は本当にずっと昔から…」
その時だった。いきなり足下が光り出して和樹が飲み込まれる。
咄嗟に奴の腕をつかんだものの、何が何だか分からないうちに気付けば巨大な(たぶん)神殿で多数の人に囲まれていた
…和樹が。
「成功か…」
「おお…この魔力はまさしく勇者様…」
「やったぞ!」
ざわざわと白い服を身に纏った大多数が騒ぎだす。
私はといえば大きな陣の隅っこで、引き離された和樹を凝視してる(だって誰も気付いてくんないし)。奴は陣の真ん中で騒がれてることにも頓着せずきょろきょろと辺りを見渡していた。
そんな和樹の後ろから煌びやかなドレスを纏った美少女がやってきた。
「お待ちしていました勇者様。どうかこの国をお救い下さい」
あれ?これフラグじゃない?異世界に召喚された美形がハーレム作って勇者やるっていうどこぞの小説みたいな話が始まろうとしてるんじゃないか?
だったら巻き込まれたっぽい私はどうしようかなぁと遠い目をしていたら、美少女を無視していまだに視線をさまよわせていた和樹と目があった。
おい、来るな。来るんじゃない。後ろで王女だか聖女だかが説明してくれてるのに(完全に奴に見惚れている)何無視してこっち来るのよ。何その顔。お前は飼い主を見つけた犬か
「千由!ああよかった。ちゃんと俺の側にいたんだね」
「いやお前…」
空気読めよ。私すごい睨まれてんだけど!?お前誰?って視線ビシバシ感じる
「千由。俺はずっと前から千由だけが好きなんだ。…返事は?」
周りがこれだけ騒がしいのを一切合切無視して告白してきたお前は凄いよ。本気を感じる。…でもさ
「ごめんなさ」
「却下」
にっこり。和樹の笑顔に何がを感じて顔が引きつる。いやあの…拒否権は?
「愛してるよ千由」
最初から拒否権はないんですね。
頬を染め、熱っぽい瞳で見つめられて寒気がする。和樹気持ち悪い。そして周りの視線が痛い。
「〜〜〜〜〜!!」
美少女が睨み付けてくる。どうやら和樹に一目惚れしてしまったらしい。周りの人達も嫌な空気を醸し出していて思わず俯いた。
なるべく視線を合わさないように足下だけ見ていると、和樹が抱き締めてきた。昔からこいつにはちょくちょく抱き締められてきたが、この時ほど殺意が湧いた事はない。離せ。
「…で、俺達に何か用ですか?」
「っ!勇者様、私達には貴方が必要なんです!どうかこの国をお救い下さい」
和樹に抱きしめられてるから何も見えないが、美少女の必死な声が聞こえてくる。フラグだフラグ。帰りたい。
「勇者?」
「貴方は選ばれし救世主として、神の名のもとに召喚されました。現在この国は魔物に侵されて苦しんでいるのです。どうか勇者様のお力で魔物の頂点にいる魔王を退治しこの国に平和を与えてください」
嫌そうな雰囲気の和樹。こいつ結構面倒くさがりだしやる気も皆無なのだろう。
だが、ここでこいつが頷かなかったら私達はどうなる?むしろ私どうなる?多分地球に帰れない。分かりましたって言っておけ!
「嫌にっ!?…千由?」
案の定断る気だったので足を蹴ってやった。馬鹿者!!
「何?どうしたの」
甘い笑顔を向けてくる和樹。おい、顔を近づけるんじゃない!
「なんでそこで断るんだお前は!ここで頷かないと元の世界に帰して貰えないかもしれないじゃないか!」
「え?」
え。なにその「何言ってるの?」みたいな顔
「帰れないなら帰れないでここに暮らそうよ。大丈夫。俺は千由の為ならなんでも出来るよ」
「は」
「てなわけで、いきなり誘拐紛いなことをしたその他大勢の方々さようなら!」
「え」
奴はあろうことか私を抱え上げ、巨大な窓を蹴り割り外に飛び出した
「勇者様!?」
「勇者が逃げた!追え!追えー!!」
にこにこ笑う幼馴染様はどこにそんな力があるのか。林を森を突っ切り追ってを撒いて。
…これは私が悪いのか?いいや、そんなことはない。和樹のマイペースはもとからだし、そもそもこの世界がどうなろうと私の知ったこっちゃない!むしろ被害者私だよね!?
内心叫びながらもいろいろ諦めて溜め息をついた私は知らない。
数年後に幼馴染のハーレム候補者がぞくぞく現れ、さらに大変な目にあうことに。
帰れないなら永住しようじゃないか!な和樹は千由さえいれば何にも要らない人です。