表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

キオクナクナ~ルですっきり爽快! ~王国がどうなろうとどうでもいいです~

作者: マンムート
掲載日:2026/07/13



 夜会で王太子殿下はわたくしに告げました。


「オマエとの婚約を破棄する! そしてこのペネローペと結婚するのだ!」


 殿下のとなりにはわたくしの義妹。


 後妻の連れ子なので単なる平民ですが、多分、当人は侯爵令嬢だと思いこんでいるのでしょう。


 ちなみに名前はペネロペ。


 殿下はバカなので名前をすぐ間違えるのです。



 学園2学期の終わりの夜会という中途半端な時期なので、ボンクラ製造機――もとい陛下も王妃殿下もここにはご臨席しておりません。


 こういうところはこざかしいですね。



「それはつまり、わたくしに死ねということですね」


 わたくしは王太子妃教育だけでなく王妃教育も受けています。


 なぜか王太子教育まで!


 しかも完璧に。


 つまり、機密の塊なのです。


「オレがそんな冷酷な人間だと思っているのか! オレはオマエではない」


 まぁ失礼な。


「これは冷酷とかそういうことではないのです。わたくしは王妃教育も王太子教育も完了しておりますから」


 本来ならわたくしがそこまでの教育を受ける必要はないのです。


 ですが、ボンクラ製造機どもが、わたくしに仕事を押し付けるために受けさせたのです。


「だいじょうぶだ! さすがに10年間婚約者だった女を毒殺する趣味はない! 冷酷なオマエとは違うのだ!」


 この方の頭の中で、わたくしはどうなっているのでしょう?


 怪物でしょうか?


「だいじょうぶと言われましても……」


「これがある! キオクナクナ~ル!」


 ボンクラは胸ポケットから毒々しい紫の小瓶をとりだしました。



 ボンクラのボンクラな側近が、わたくしにも同じ小瓶を渡します。


 手に取ってしげしげと見れば見るほど、とっても信用できない感じのクスリですね。


 黒い縁取りがついた黄色いラベルには『キケン』。


 裏に貼られた注意書きには『飲む前にもう一度考えろ!』って記載されてますし。



「文字通り、記憶を消せるクスリなのだぁ! これをオマエが飲めば万事解決ぅ!」


「飲みません」


 いけません。食い気味に答えてしまいました。


「なぜだ!? 記憶が消えるんだぞ! 死なないで済むのだぞ!」


「殿下とのいろいろが消えるのは歓迎なのですが、記憶が全て消えるとなると、明日から生きていくことすらできません」


「なんだと!? オレとの甘酸っぱいメモリーや恋心が消えるのが嫌でないと言うのかっ!」


 最初からどこにもありませんけど。


「殿下とのメモリーとやらが消えた方が面倒がなくていいとは思いますが。赤ん坊のようにまっさらになったら困ります」


「そこは、本当に大丈夫だから! オレの顔を思いうかべて『この美しい殿方に関する記憶だけを消したい!』と唱えれば、当てはまる記憶だけが消える!」


 美しいねぇ……。


 自己肯定感だけあるのも考え物です。


「……」


「なんだその疑い深い目は」


「そう言って毒を飲ませる気ですね」


 このボンクラの婚約者から解放されるのは、願ったりかなったりです。


 ですが、最終的に毒を賜るとしても、こいつに渡されたいかがわしい毒で死ぬのはなんかマヌケでいやです。


「だ、断言するな! オレが言っているのだから信じて当然だろう!」


「いえ、殿下が言っているので、ホコリ一粒ほども信用できません」



 そうしたら、義妹があまったるぅい声で。


「ではぁ、殿下がぁおのみになればいーんですよぉ」


 そう言いつつ、豊満な胸を殿下におしつけます。


「お、おおう、ど、どういうことなのだ。むふふ」


 堂々と鼻の下を伸ばすあたり、流石は思春期の男ですね。


 きっとアレのことしか考えていないのでしょう。


 これでは義妹の身体を張ったお色気攻撃に秒殺されるのも納得です。

 


 にんまりと笑った義妹はわたくしを指さし。


「あの嫉妬深い上に冷たい女の顔を思い浮かべて『この最低最悪の婚約者に関する記憶を全て消したい』と唱えれば」


「なるほど! あの忌々しい女の記憶が抜けて、愛しいベネローベの記憶だけが残るのか! それはいい!」


 あ、また名前が間違っています。


 

 ボンクラは、わたくしの顔をにらみつけると、なにかモゴモゴと唱えながら、ぐっと小瓶をあおりました。



「うんまぁぁぁぁぁぁぁ! なんだぁこの液体はぁぁぁぁ!? 口の中がパラダイスじゃぁぁ!」


 どうもあの液体はおいしいようです。


 意外です。



 義妹がボンクラの耳元でささやきつつ、わたくしを指さします。


「殿下ぁ、あの女が誰か判りますか?」


「知らない顔だな……ペネロッピ、そもそもなんでオレは、こんな場所にいるんだ?」


「ええっ!?」



 なにをこの泥棒猫は驚いているんでしょう。


 わたくし関連の記憶を消したのなら、婚約破棄のことも記憶から消えるのは当然でしょう。



「殿下! 殿下は今からあの高慢チキンな女を断罪するんですってば! 社会的に抹殺してやるんですっ!」


「なんで? だって、知らない相手だし、結構美人だし。美人に悪い人っていないよ」


「な、なにを言ってるんですか! あいつはあたしをいじめにいじめた奴なんです! あたしを何度も階段から突き落としたんです!」


「そうなの? でも美人がそんなことするかなぁ? それにペネッピは、ぴんぴんしてるように見えるけど……足を引き摺ってもいないし、昨日だってベッドの中で――」


「こ、心が骨折してるんですってばぁ!」



 バカ達はほうっておきましょう。


 これで、薬効は証明されました。



 わたくしは、手の中にある小瓶を眺めました。



 中身が違ってこっちが毒薬というのもありえるわけですが。


 実家から生贄同然に、あんなボンクラに捧げられて人生達観したわたくしですから、どっちでも同じかもしれません。



 わたくしは、家族の顔を思い浮かべました。


 陛下と王妃殿下のお顔を。


 王太子殿下のお顔を。


 たまにあらわれて『全く兄も困ったものだ。義姉さんばかりに迷惑をかけて』と理解者づらをするだけの第二王子殿下のお顔を。


 王宮の仕事を。


 さまざまな機密事項を。


 実家の仕事を。


 わたくしにとやかく言う方々を。



 最後に、そういった全てに笑顔の仮面をかぶって対応していた自分を。

 


「このクソどもの記憶を全部消したいですわ」



 一気に飲み干しました。



 あ。おいしいぃぃぃぃぃぃぃ。



 ……。



 わたくし誰かしら?


 ぜんぜんわかりませんわ。




      ※      ※      ※


 ここは辺境のさらに辺境にある修道院。


 ある日、遠い遠い王都からわざわざ来てくださった方が、婚約破棄の後でなにが起きたか教えてくださいました。




 わたくしが記憶をなくしたせいで、わたくしにお仕事をおしつけていた王宮は大混乱。


 陛下と王妃は、突然無能になり。


 大臣も役人も書類は間違えだらけ。


 仕事はとどこおり。王国は麻痺状態。


 そうこうしているうちに隣の国に無礼な書簡を送ってしまい、今や国境は一触即発だそうです。



 ついでに実家も大混乱。


 社交の不始末を連発した上に、不正経理が露見して、たちまち没落。


 わたくしが社交の管理も経理もしていたそうですから、当然の顛末ですね。



 元王太子殿下という方は、廃嫡されて、わたくしの義妹と名乗っていた平民と結婚。


 今では落ちぶれ果てた実家の方々と仲良く、辺境の開拓村で深く果てしない森を切り開いているそうです。


 ただ元王太子殿下は、キオクナクナ~ルのお味がよほどお気に召したのか、なんと手元にあった5本全部を飲んでしまったそうで。


 王太子だったことも忘れ『もう一度アレを飲みたい!』という一心で、真面目に働いているそうです。




 全て、今のわたくしにとってはどうでもいいことですね。




 でも、辺境の修道院まで、わざわざ報せに来てくれた方には、一応礼を言っておきましょう。


「そうですか。こんな遠いところまで、わざわざご足労してくださって、どうもありがとうございます」


 わたくしの反応の薄さに、目の前の方は驚いたようでしたが、気を取り直して、


「何もかも忘れたフリはもういいんだよ」


「フリではありません。なにもかも忘れたのです」


 目の前の方のことも覚えておりません。


 第二王子殿下らしいのですが、その記憶のカケラすらありません。


「本当は機密事項くらいは覚えているんだよね!?」


「いいえ。まったく」


「で、でもっ、ボっ、ボクのことは覚えているだろう! 王宮で唯一キミを助けていたボクなら」


「いいえ」


「兄の後始末に奔走している被害者同士として、よく慰め合っていたじゃないか!」


「はぁ、そうですか。へぇ」



 そういうことがあったのかもしれません。


 ですが、全く覚えていないのですからどうしようもありません。



 ですが。


 かつてのわたくしが記憶から消したのなら、そういう扱いでいい人物だったのでしょう。



 つまり、クズですね。

 


「どうして!? どうしてボクまで!?」



 過去のわたくしにクズ認定されているからです。


 ですが、いらぬ波風立てるのも面倒なので。



「さぁ……何も覚えていないわたくしにそう言われましても困ります」


 そう返すと、第二王子殿下は、肩を落として帰って行かれました。



 あとで風の便りに聞いたところによれば。

 

 あの方は王太子になったそうですが、こちらも全然仕事ができないらしいです。


 第一王子の元婚約者、つまりわたくしの能力をアテにしていたらしいです。



 よほど仕事が忙しいのか、二度といらっしゃいませんでした。


 来なくていいです。



 ようやくわたくしは、ありとあらゆるしがらみから解放されて、わたくしになれたのですもの。




 修道院は静かで、よいところです。 


 得意な読み書き会計は、修道院の中でも役にたっております。


 毎日充実した生活ですわ。


 なにもかも忘れてるって、ほんとスッキリ爽快ですわね!


たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大臣とか文官とかおらんのかーい
ヒロインが何故かパソコンのデータベースサーバに見えて来た(おいっ) バックアップって大事よね。 そして薬の味をまた味わう事を生きがいに懸命に働いてる元王太子って意外と幸せだと思うの。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ