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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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異世界恋愛系 作品いろいろ

婚約破棄がすべてのはじまりでした。~夢は叶い、社会は変わる~

作者: 四季
掲載日:2026/05/14

 学生時代から眼鏡をしていた私は、女子学生で眼鏡は珍しいということもあり、時折そのことについてからかわれていた。


 だが私は眼鏡をやめなかった。

 なぜなら便利だから。


 視力を補う方法は他にも幾つかある。そのことは知っていた。が、あれこれ手間がかかる方法が多くて毎日となると面倒臭そうだったので、私は眼鏡一本で暮らしていた。年頃になって、周囲の女性たちが他の方法を選ぶようになっていっても、それでも眼鏡をかけていた。


 それによって失ってしまったものもある。


「お前さぁ、いつまで眼鏡かけてんだよ。もうちょっとさぁ、周りちゃんと見て、もっと女性らしくしろよな。……てことで、お前との婚約は破棄するわ」


 たとえば、婚約者。


 学生時代の終わりごろに婚約した同学年の彼アンバルは私が眼鏡をかけていることを良く思っていなかった。で、やがて関係の解消を宣言されてしまう。理由はもちろん眼鏡。彼にとっては女性に眼鏡というのは最悪の組み合わせだったようで。彼は顔を見るたび舌打ちするほど私のことを嫌っていた。


「視力はどんなでもいいさ。けど、眼鏡だけはぜーったいに嫌だ」


 婚約破棄を言い出した時、彼は、その理由をはっきりと口にしていた。


「俺が好きなのはな、眼鏡をかけていなくて清らかでちょっとドジっ子でけれども忠実で俺だけを見ていてくれて真っ直ぐに愛してくれて俺がちょっとわがまま言っても許してくれて常に俺のことを考えてくれていて常に尽くしてくれて口ごたえなんて一切しない女性なんだよ」


 そんな感じでアンバルには一方的に縁を切られた。


 眼鏡嫌いならそもそもどうして私と婚約したのだろう? とは思ったけれど。

 でも、そういう考え方の彼と関係を続けていても上手くいくことはなかっただろうと思うから、これはきっと定めだったのだろうと理解し受け入れることができた。


 それから少ししてアンバルは毒針を持つ昆虫に目もとを刺され落命した。



 ◆



 アンバルに婚約破棄されたのを機に新たな道に進んでみようと思い立った私は近所の眼鏡職人に弟子入り。


 そこから世界が広がり始める。

 まだ知らなかった無限の輝きがそこには確かに存在していた。


 師となってくれた眼鏡職人の男性は、少し気難しく無口な人だったので、最初は関わり方が難しかった。


 どんな風に接すれば良いのだろう?

 どんな風に振る舞えば迷惑をかけないだろう?


 その頃の私はそんなことをよく考えていた。


 けれども根は善良な人だったので、一緒にいて不快な思いをするばかりではなかった。


 そっけなさの中にも柔らかな部分が僅かに見える。

 なので彼は私にとっては良き師匠だった。


 十年ほどそこで眼鏡作りについて学び続け、やがて、ついに花開く時が来る――国内の眼鏡コンテストに出品した自作の眼鏡が大賞をとったのだ。


 受賞が決まったその日、師匠は、珍しく明るい表情を浮かべ、祝福の言葉をかけてくれた。


 それがとても嬉しくて。

 もう少しで泣いてしまうところだった。


 けれども涙だけは出さないように気をつけた。


 ……なぜなら、ここは始まりだから。


 この受賞で何かが終わったというわけではない。

 むしろ今スタートラインに立ったばかり。

 ここからが本当の物語の幕開けで、大切なのはこれからどんな風に動き歩んでゆくかということだ。


「師匠、今までありがとうございました。そして、どうかこれからも……ずっと、いつまでも、よろしくお願いします」


 言葉を紡ぐと、彼はそっと頷いてくれた。



 ◆



 眼鏡コンテストでの大賞受賞から八年が経った。

 私は今、自分の眼鏡屋さんを立ち上げ、眼鏡作り及び販売を行っている。


 見える世界を変えてくれる。

 生きる世界を磨き上げてくれる。

 そんな眼鏡を作りたい――その一心でここまで歩んできた。


 眼鏡をかけることを楽しんでほしい、そう思って活動してきて、少しずつ社会での眼鏡のイメージも変わってきたように感じる。

 私が若かった頃は眼鏡をかけている人は多くなくて、女子学生で眼鏡をかけていたら変わり者扱いだった。けれど今はもうそんな考えはない。年齢性別問わず眼鏡をかけている人はいるし、それをおかしなことと捉える人もあまりいない。


 私が社会を変えた、なんて言うつもりはないけれど。

 でも、もし私の活動によって少しでも何かが良い方向に変わったのだとしたら、それは嬉しいこと。


 ……師匠は一年ほど前この世を去った。


 私をここまで連れてきてくれたのは彼だった。

 彼と出会えたから眼鏡を作れる私になれた。


 今の姿を見せることはできないけれど、でも、きっと彼は見てくれているはずだ。空の上から。興味なんてない、とでも言いたげな顔をして、けれどもたまにさりげなく覗き見してくれているはず。


 師匠の命は終わりを迎えたが、その技術は私の中で生きている。


 同じにはなれなくても。

 受け継がれたものは確かにあるはずだ。



◆終わり◆

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