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第5話 見えない敵

 地下の空気は重かった。


 拘束された男は動けないまま、黙り込んでいる。


「誰の指示だ?」


 アルベルト殿下が問いかける。


 低く抑えた声。


 だが圧は強い。


 男は口を閉ざしたまま動かない。


「……話す気はないようですね」


 私は静かに言った。


「時間の問題だがな」


 殿下が短く返す。


 そのまま視線を男へ向ける。


「連れていけ」


 近衛が現れ、男を引き立てる。


 抵抗はない。


 完全に封じている。


 やがて足音が遠ざかる。


 静寂が戻る。


「……思ったより早かったな」


 殿下が小さく息を吐く。


「はい。ですが、これは一人ではありません」


 私は地下の奥へ視線を向けた。


 わずかに残る違和感。


 消しきれていない痕跡。


「まだあります」


「やはりか」


 殿下の目が鋭くなる。


「内部にいると見るべきだな」


「可能性は高いです」


 外部の人間だけでは、ここまで入り込めない。


 城の構造を理解している。


 つまり。


「内通者がいます」


 はっきり告げる。


 空気が一段重くなる。


 殿下はしばらく黙った。


 やがて静かに口を開く。


「……心当たりはある」


「そうですか」


 驚きはない。


 むしろ自然だ。


「だが、確証がない」


「なら、炙り出せばいいだけです」


 即答する。


 殿下がこちらを見る。


「できるのか?」


「可能です」


 私はわずかに魔力を広げる。


 この城全体に薄く巡らせるように。


「先ほどの痕跡を辿れば、接触した者が分かります」


「そこまで分かるのか」


「完全ではありませんが、絞れます」


 十分だ。


「やってみますか?」


 殿下は一瞬だけ考えた。


 そして頷く。


「頼む」


 私は目を閉じる。


 集中する。


 残っている“歪み”を拾い上げる。


 流れを逆算する。


 誰が触れたのか。


 どこで混ざったのか。


 ――見えてくる。


「……三人」


 小さく呟く。


「三人だと?」


「はい。完全に一致ではありませんが、この城内に三人、関与した可能性があります」


 殿下の目が細くなる。


「名前は?」


「まだ特定までは」


 正確に絞るには、もう一歩必要だ。


「ですが」


 目を開く。


「動けば分かります」


「どういうことだ?」


「揺さぶれば、反応します」


 簡単な話だ。


 隠している者は、刺激に弱い。


 殿下はわずかに口元を上げた。


「なるほどな」


 理解が早い。


「ならば、動こう」


「はい」


 そのときだった。


 ふいに視線を感じる。


 上からだ。


 私は顔を上げる。


「……?」


 微かな気配。


 一瞬だけ、誰かがこちらを見ていた。


 すぐに消える。


「どうした?」


 殿下が問う。


「いえ。今、少し」


 言葉を切る。


 確証がない。


 だが。


「……いますね」


 確実に。


 どこかに。


 殿下も空気を察したのか、視線を巡らせる。


「監視されている可能性もあるな」


「はい」


 むしろ、そう考えるべきだ。


 私は小さく息を吐いた。


「好都合です」


「何?」


「向こうも、こちらの動きを気にしている」


 ならば。


「誘導できます」


 殿下の目がわずかに見開かれる。


 すぐに、笑みへ変わる。


「面白い」


 短く言った。


「やろう」


 即決だった。


 その決断に、迷いはない。


「……頼りになりますね」


 思わず口に出る。


 殿下がこちらを見る。


「今さらか?」


「いえ。改めてです」


 素直に言う。


 殿下は少しだけ笑った。


「君にそう言われるなら悪くない」


 その声音は柔らかい。


 わずかだが距離が近づいた気がした。


 私は視線を逸らす。


「では、準備を」


「任せる」


 頷き合う。


 すでに方向は決まった。


 内通者はいる。


 そして、動く。


 ならば。


 捕まえるだけだ。


「……逃がしません」


 静かに呟く。


 地下の空気は、先ほどとは別の意味で張り詰めていた。

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