第4話 異物の正体
夜。
部屋に戻ってから、しばらく経った頃だった。
「……やはり気になりますね」
昼間に感じた違和感。あれは偶然ではない。
私は目を閉じ、意識を広げる。魔力を細く伸ばし、城全体へと巡らせた。
――すぐに見つかる。
「……ここですか」
場所は地下。魔導炉とは別の区画。
本来なら安定しているはずの領域。
「意図的に歪めている」
小さく呟く。
しかも巧妙だ。普通の術者なら気づかない。
だが。
「……隠しきれていませんね」
私にとっては明確だった。
立ち上がる。
「確認しておきましょう」
扉を開ける。廊下は静まり返っている。
夜の城は音が少ない。足音だけが小さく響く。
地下へ続く階段へ向かう。
誰にも気づかれず、下へ降りる。
――そして。
「やはり」
薄暗い通路の先。魔力の歪みが形を持っていた。
黒く濁った流れ。本来の循環に逆らうように広がっている。
「……呪術に近いですね」
完全ではない。だが悪質だ。
「放置すれば広がりますね」
城だけでは済まない。やがて国にも影響が出る。
一歩、踏み出す。
その瞬間。
「――誰だ」
低い声。
振り向く。
暗闇の中から男が現れた。黒い外套。鋭い目。
明らかに城の人間ではない。
「こんな場所に来るとはな」
警戒した声。
私は静かに答える。
「それはこちらの台詞です」
沈黙。
空気が張り詰める。
男の目が細くなる。
「……気づいたのか」
「ええ。むしろ気づかれないと思っていたのですか?」
「……面白い女だ」
男がわずかに笑う。
次の瞬間。
空気が歪む。
魔力の刃が放たれる。
「遅いですね」
私は手を軽く上げた。
それだけで、攻撃は消えた。
男の表情が変わる。
「な……!」
「その程度で通用すると思われていたのですか?」
一歩、距離を詰める。
男は反射的に下がる。
「貴様……何者だ……!」
「ただの令嬢です」
淡々と答える。
そして手をかざす。
歪みの中心へ。
「先に片付けます」
魔力を流す。
一瞬。
それだけで黒い流れが崩れる。
「なっ……やめろ!」
男が叫ぶ。
だが止まらない。
歪みは消え、循環は元へ戻る。
完全に。
「……終わりました」
静かに告げる。
沈黙。
男は動けないまま立ち尽くしていた。
「……あり得ない……」
小さな声。
私は視線を向ける。
「次はあなたですね」
男が息を呑む。
そのとき。
「そこまでだ」
低い声が響く。
振り向く。
アルベルト殿下が立っていた。
「……殿下」
「話は聞かせてもらう」
視線が男へ向く。
空気が変わる。
男が舌打ちする。
「ちっ……!」
逃げようとする。
だが。
「無駄です」
私は一歩前へ出る。
指を軽く鳴らす。
それだけで。
空間が固定される。
「なっ……動け……!」
男の動きが止まる。
完全に拘束された。
殿下が近づく。
「見事だ」
短い言葉。
だが重い。
「大したことではありません」
「いや、違う」
殿下ははっきり言った。
「君は想像以上だ」
真っ直ぐな視線。
疑いはない。
「……ありがとうございます」
小さく答える。
殿下は頷く。
男へ視線を戻す。
「誰の指示だ?」
沈黙。
男は口を閉ざす。
だが、もう逃げ場はない。
私は静かにその様子を見ていた。
――やはり。
この国にも問題がある。
だが。
「……ちょうどいいですね」
小さく呟く。
力を使う理由がある方がいい。
そう思えた。




