第八話:魔王城爆走中! 聖女(カメラマン)は見た!
「行くぞ、みんな! この勢いで魔王もぶっ倒して、エリュシスを封印してやる!」 「ああ、今の俺たちなら、神にだって手が届く気がするぜ!」
神域の水盤に映るジェイドとバッツの姿は、完全に「無双モード」に入っていた。 本来ならあと50話くらいかけて手に入れるはずの聖遺物や経験値を、葉子の魔力(慈愛)とアルヴィンのスパルタ教育でスキップしてしまった弊害である。
「やめてぇぇぇ!! まだ魔王城に行っちゃダメだってば! そこで戦うはずの四天王、まだ有給休暇中で実家に帰ってるんだから!!」
神域で私は、もはや液晶画面(水盤)を叩き割らんばかりの勢いで叫んでいた。 しかし、そんな私の絶望をよそに、ルナからの実況中継(念話)がテンション高めに届く。
『エリュシス様! 見てください! 魔王城の正門を、ジェイド様がキック一発で粉砕しました! ああ、今の脚のライン、逞しくて最高です。しっかり「眼(網膜)」に焼き付けました!』
(ルナちゃん、実況ありがとう! でもそれどころじゃないの! 魔王様、今パジャマでコーヒー飲んでる時間だよ!?)
魔王城の廊下を、勇者一行は風のような速さで駆け抜けていく。 立ち塞がるはずの魔族の兵士たちは、ジェイドが放つ「堕女神の(と勘違いされている)光」を見ただけで、「ひいいっ、エリュシス様の直属部隊だぁ!」と勘違いして、戦う前に道を開けて平伏していた。
「……おかしいな。魔王軍、意外と礼儀正しいな?」 「ジェイド、警戒を解くな。これはきっと、奴らの高度な心理戦だぞ」
クロウが真面目な顔で分析しているが、単に葉子の威光が強すぎるだけである。 そしてその背後では、ルナが聖典(という名の同人誌用ネタ帳)を広げ、筆を猛烈な勢いで走らせていた。
「ああ、ジェイド様の後ろ姿……。この緊迫感の中でクロウ様と一瞬視線を交わす、あの信頼関係。魔王城の不吉な装飾が、二人の美しさをさらに引き立てる最高のスタジオ(背景)になっていますね。エリュシス様、画角はこのままでよろしいでしょうか?」
(……いいよ、そのままで! じゃない! 止めてよルナちゃん、誰か止めてぇ!!)
ついに勇者一行は、魔王が鎮座する謁見の間へと辿り着いた。 そこには、急な来客に大慌てで王冠を被り直した魔王が、震える手で大剣を構えて待っていた。
「よ、よく来たな勇者よ……。だが、エリュシス様の加護があるとはいえ、私を倒せると……あ、ちょっと待って、まだ口上の途中――」
「問答無用! 喰らえ、エリュシスの……じゃなかった、必殺・ブレイブ・スラッシュ!!」
ドォォォォォン!!
魔王が愛用していた、数千年の歴史を持つ魔剣が、ジェイドの一撃でゴミのように砕け散った。 魔王は「え、嘘……」と呟きながら、後ろの壁まで吹っ飛んで突き刺さった。
(終わった……。私の大好きな『ラスレク』のラスボス戦前の熱いドラマが、全部台無しだよ……!)
私は玉座で灰のように真っ白になった。 一方、現場ではルナが倒れた魔王を完全に無視し、勝利の余韻に浸りながら肩を貸し合うジェイドとクロウを至近距離で撮影(神託送信)していた。
『エリュシス様、ミッションコンプリートです! 魔王、秒殺でした! 勝利の女神は、やはり我ら(のカップリング)に微笑みましたね!』
(ルナちゃん……もう、好きにして……。私はもう、この世界の行く末が怖いわ……)
勇者たちは魔王を討ち取った(と思い込んでいる)勝利に沸き立ち、聖女は最高の素材(写真)を手に入れ、女神だけが「原作崩壊」の恐怖に震える。 世界を救うはずの物語は、こうして誰も予想だにしなかった「スピード破滅ルート」へと突入した。




