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『推しを愛でたいだけなのに! 転生した悪役女神の「慈愛」がすべて「呪い」に変換されて世界が震えてる。』  作者: 沼口ちるの


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第七話:負けイベント消滅!? 予定調和をぶち壊す「愛」の暴走

迷いの森を抜けた勇者一行の前に現れたのは、原作における「中盤の壁」——真祖の吸血鬼、ヴィクトールだった。 漆黒の城を構え、原作ではジェイドたちの攻撃を鼻で笑い、彼らを完膚なきまでに叩きのめして「絶望」を植え付けるはずのボスキャラである。


「フフフ……。ここまで来るとは、良い餌だ。存分に絶望するがいい」


ヴィクトールが優雅に指を鳴らし、無数のコウモリがジェイドたちを襲う。 神域の水盤で見守る私は、手に汗握って資料集を確認した。


(よし、ここでジェイドたちが負けて、一度ルナちゃんの故郷に逃げ帰るのが原作ルート! そこで二人の絆がさらに深まる、超重要な雨降って地固まる回なのよ……!)


私は期待に胸を膨らませていた。 しかし、現場の状況は私の「原作愛」を置き去りにして加速していた。


「ジェイド様! 今、女神様より『特大の慈悲』が届きました! さあ、受け取ってください!」


ルナが叫び、聖典を掲げる。 (待ってルナちゃん、私はそんなの出してな――あ、さっき「ジェイドたち頑張れー!」って念じた時に漏れた魔力か!?)


ルナが放った「神託バフ」は、エリュシスのドス黒い魔力を聖なる光に偽装したものだった。 それを受けたジェイドの剣が、太陽よりも眩しい、だがどこか禍々しい紫色の光を放ち始める。


「……なんだ、この力は。負ける気がしないぞ!」


ジェイドが地を蹴った。その速度は、吸血鬼ヴィクトールの動体視力を遥かに超えていた。


「なっ……!? 速す――ぎゃあああ!?」


ヴィクトールの胸元を、ジェイドの一撃が深く切り裂く。 本来なら聖水や特殊な銀でなければ傷つかない真祖の肉体が、エリュシスの魔力を帯びた剣によって、バターのように容易く両断された。


(あ、アカン……! ヴィクトール様がワンパンで沈む! このままじゃ負けイベントが勝ちイベントになっちゃう!)


慌てた私は、影に潜んでいたアルヴィンに念話を飛ばした。 (アルヴィン様! 止めて! 吸血鬼さんを助けて! 彼はまだ死んじゃダメなの!)


影から戦いを見守っていたアルヴィンは、目を見開いた。 「……なるほど。エリュシス様は、この吸血鬼すらも『教育係』として生かしておけと。なんと底知れぬ慈悲深さか!」


アルヴィンは即座に乱入した。 漆黒の刃を抜き、ジェイドとヴィクトールの間に割り込む。


「そこまでだ、勇者。これ以上の醜態は、主の目を汚す」


「アルヴィン!? またお前か!」 ジェイドが剣を構え直すが、アルヴィンは問答無用でヴィクトールの首根っこを掴むと、そのまま窓の外へ放り投げた。


「貴様はまだ死ぬことを許されていない。地の果てで己の無力を呪い、さらに強くなって主の前に現れよ」


(アルヴィン様、ナイス! ……って、セリフが完全に悪役側だけど!)


ヴィクトールは「こ、この私がゴミのように……」と呟きながら、夜の彼方へ消えていった。 後に残されたのは、異常な魔力でハイ状態になったジェイドと、それを「尊い……」とビデオカメラでも回さんばかりの目で見つめるルナ、そして困惑するクロウとバッツだった。


「……勝った。あの真祖に、俺たちは勝ってしまったのか?」 ジェイドは自分の手を見つめ、震えている。


「ええ、ジェイド様。女神様が、貴方たちに『予定よりも早く世界を救え』と仰っているのです(というか、女神様の愛が重すぎてバランス崩壊してます)」 ルナは慈愛に満ちた(歪んだ)笑顔でジェイドを抱擁した。


神域の私は、ガックリと項垂れた。 (……ダメだ。原作がもう原型を留めてない。本来ならここで三日間寝込むはずのジェイドたちが、ピンピンしてるどころか自信満々になっちゃった……)


三上葉子32歳。 自分の「愛(魔力)」が強すぎて、大好きな物語をハッピーエンドの最短距離へ無理やり押し流していることに、ようやく恐怖を覚え始めていた。



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