第四話:類は友を呼び、聖女は神託を(誤)解する
翌朝、私は神域の隠し部屋で水盤を覗き込んでいた。 勇者一行はアインツの町を離れ、深い霧に包まれた「迷いの森」へと差し掛かっている。
「ここで原作通りなら、怪我をしたジェイドたちを、森に住む聖女ルナちゃんが救ってくれるはず……」
私は祈るような気持ちで画面を見守った。 すると霧の向こうから、清楚な修道服に身を包んだ、金髪の美しい少女が現れた。聖女ルナだ。
「……あ、出会った! ジェイドの怪我を見て駆け寄るルナちゃん。よし、完璧な王道展開!」
私はこのチャンスを逃すまいと、精神を集中させた。 ルナを通じて彼らを影からサポートするため、彼女にだけ届く『神託』を下すことにしたのだ。
『……聞こえますか……ルナよ……。私の声が……』
下界では、ルナがビクッと体を震わせ、空を仰いだ。 ジェイドたちが心配そうに声をかけるが、彼女はそれを手で制し、神妙な顔つきで呟く。
「……あ。この圧倒的なオーラ。そして、どことなく漂う『同族』の芳醇な香り……。エリュシス様、ですね?」
(え……。今、なんて?)
私の困惑を無視して、ルナは脳内で直接話しかけてきた。
「エリュシス様! お声がけ光栄です! 私、ずっとお慕いしておりました。貴女様が神域で描いていらっしゃる、あの……ジェイド様とクロウ様の『親愛の記録』、夢を通じて拝見しておりました!」
(……嘘でしょ、この子、私の私生活を夢で「観賞」してたの!?)
どうやらルナは、聖女としての高い霊力のせいで、私の「枯れたアラサーの妄想」を神託として受信し続けていたらしい。 つまり、彼女は私と同じ**「ジェイクロ(勇者×賢者)」**を愛でる同志(同担)だったのだ。
私は一瞬で彼女に親近感を抱き、ラスボスボイスで続けた。
『……良い心がけです……。ルナよ、私の「眼」となり、彼らに同行しなさい。そして……彼らの尊い瞬間を、私に共有するのです……』
「御意に! このルナ、命に代えても最高の角度でご報告いたします!」
ルナは力強く返事をした後、即座に「清廉潔白な聖女」の顔に戻り、ジェイドたちに向き直った。
「ジェイド様。今……『天の声』が聞こえました。皆さんの旅を助けよ、と」
「天の声!? 堕女神じゃなく、光の神からの導きか!」
ジェイドは感激した様子で彼女の手を取った。 ルナが「エリュシスの名前」を伏せ、あくまで「正義の神の導き」という体で話したおかげで、不自然な対立は回避されたのだ。
「ええ、そうです。ですから……私も共に行かせてください。皆さんの『絆』が深まるその瞬間を、一番近くで見守るために」
(ルナちゃん、ナイスフォロー! 嘘はついてない……嘘はついてないけど、下心が100%!)
こうして、ルナは「女神の眼」という名のスパイ……もとい、ライブカメラマンとしてパーティーに加わった。
「……ふふふ。これで高画質な『推し活』が捗るわ」
私は神域で鼻血を拭いながら、水盤に映る「ルナ越しのアングル」を楽しんだ。 しかし、ジェイドたちは知る由もなかった。 自分たちを癒してくれる慈愛に満ちた聖女が、実は「背後から自分たちのカップリングを女神に実況中継している」という恐ろしい事実を。




