第十話(第一部完):原作? 何それ、美味しいの?
魔王城の謁見の間は、もはや静寂に包まれていた。 かつての支配者、魔王は床に這いつくばり、アルヴィンの靴を舐めんばかりの勢いで震えている。
「あ、アルヴィン様……。私は、私はただ、エリュシス様の復活を祝う宴の準備を……」 「黙れ。主の庭を汚した罪、その命を持って償わせてもよいのだが」
アルヴィンは冷徹に剣を突きつけるが、ふと、神域からの「声(念話)」を感じ取って動きを止めた。
(アルヴィン様! もういい、もういいから! 魔王様をそれ以上いじめないで! むしろ、城の掃除係として再雇用してあげて!)
「…………。主は、貴様に機会を与えられるそうだ。この城を磨き上げ、次に主が降臨される際、一塵の汚れも残さぬようにしておけ」 「は、ははぁっ! 喜んで! 雑巾がけからトイレ掃除まで完璧にこなします!!」
こうして、魔王城は「エリュシス様・地上別荘兼ファンクラブ支部」へとリフォームされることが決定した。
一方、その隅でボロボロになっていた勇者一行。 ジェイドは折れた剣を見つめ、クロウは眼鏡を割り、バッツは白目を剥いている。
「……なぁ、クロウ。俺たち、何のためにここまで来たんだっけ?」 「……分かりません、ジェイド。ただ一つ言えるのは、あの女神に挑むなど、砂粒が太陽を消そうとするようなものだった……ということです」
絶望に沈む勇者たち。本来ならここで「打倒エリュシス」を誓う熱いシーンのはずが、あまりの格差に引退ムードが漂っている。 そこに、聖女ルナが満面の笑みで近寄った。
「皆さん、元気を出してください! 魔王もいなくなりましたし(掃除夫になりましたが)、世界は平和です! さあ、この勝利の喜びを分かち合いましょう。ジェイド様、クロウ様、肩を組んで! はい、チーズ!」
ルナの瞳の中で、女神への献上用「ジェイクロ写真集」の新作がまた一ページ増えた。
神域の玉座。 私は、水盤に映る「変わり果てたラスト・レクイエムの世界」を見て、深いため息をついた。
「……まぁ、誰も死ななかったし。推しは生きてるし。アルヴィン様はかっこいいし。結果オーライ、だよね?」
原作ルートからはマッハの速さで逸脱したが、これはこれで「私の作った新しい物語」なのかもしれない。 私はポテチを齧りながら(神の力で具現化した)、次のページ——もとい、次の展開を考え始める。
「次は聖女ルナちゃんと魔王の『お掃除指導バトル』かな。それとも、ジェイドたちの『再就職先』を探してあげる回かな……」
堕女神エリュシス(中身:32歳OL)の、推しに捧げる異世界生活は、まだまだ始まったばかりである。
【第一部・完】




