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『推しを愛でたいだけなのに! 転生した悪役女神の「慈愛」がすべて「呪い」に変換されて世界が震えてる。』  作者: 沼口ちるの


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【第一話】聖騎士団(全滅候補)を前に、詰んだ女神は愛を叫びたい

三上葉子(32歳、独身、趣味はBL妄想とラノベの読み漁り)の人生は、コンビニ帰りの突風で飛ばされた限定版小冊子を追いかけた瞬間に幕を閉じた。はずだった。


「……は?」


視界が開けたとき、私は「死」とは程遠い場所にいた。 豪華絢爛な神殿の奥。背中には物理的な重さを感じる巨大な輪が浮かび、指先からはどす黒い魔力が煙のように立ち昇っている。


目の前には、血反吐を吐きながら私を睨みつける美形の騎士。その背後には、ガチガチと歯を鳴らして震える数十人の聖騎士団。


「……殺せ、エリュシス! 貴様に世界を渡すくらいなら、我らバルキア聖騎士団、ここで枕を並べて討ち死にせん!」


エリュシス。 その名を聞いた瞬間、私の脳内ラノベデータベースが光の速さで検索を完了した。


(嘘でしょ……『ラスト・レクイエム』のラスボス、堕女神エリュシス!?)


三千年前の愛憎劇の末に発狂し、世界を半分物理的に消し飛ばした元凶。物語の中盤、バルキア王国の聖騎士団を塵一つ残さず消滅させ、読者に絶望を叩きつけた「悪役中の悪役」だ。 そして、原作通りならこの後、勇者ジェイド一行にボコボコにされて消滅する運命。


(ちょっと待って。私、今まさに聖騎士団を皆殺しにする直前のシーンに転生したの!?)


状況は最悪だ。私の左右には、私の意思とは無関係に「殺意100%」の闇の魔力が渦巻いている。 葉子としての理性は叫んでいた。 ――やめて! 私はBL好きの枯れたOLなだけなの! その騎士団長、よく見たら超絶美形受うけ属性じゃない! 殺すなんてもったいないことできない!!


「……あ、あの」


私は精一杯、震える声で語りかけた。


「皆さぁん、落ち着いてください。私は別に、皆さんと戦いたいわけじゃ……」


だが、エリュシスの喉を通った言葉は、禍々しい反響音を伴って神殿に響き渡った。


『……ひれ伏せ、塵芥ども。我が前に立つ不遜、その命を削って購え……』


「ひっ!?」「だ、団長! 堕女神が、我らをじわじわとなぶり殺しにすると宣言されました!」


「違う! 全然違う! 翻訳機能どうなってんの!?」


焦った私は、せめて彼らを傷つけないようにと、渦巻く闇の魔力を無理やり抑え込もうとした。 しかし、32年間「惰性」で生きてきた女に、神級の魔力制御などできるはずもない。


グォォォォン!!


暴走した魔力が、騎士たちを避けて背後の壁を直撃した。 三千年の封印に耐えた神殿の防壁が、まるで豆腐のように粉々に砕け散る。


「…………あ。」


「な、なんてことだ……。呪文も唱えず、余波だけで神殿の外壁を……!」 「我らが……我らが束になっても、指一本触れることすら叶わぬというのか……ッ!」


騎士団長が絶望に打ちひしがれ、剣を落として膝をつく。 その瞳には、かつての勇猛さはなく、ただ圧倒的な捕食者を前にした小動物の恐怖だけが宿っていた。


(あああ、違うの! 威嚇射撃じゃないの! ちょっと指が滑っただけなの!)


私は泣きたかった。彼を――バルキア王国の誇る美形騎士たちを、私は愛でたいのだ。 そうだ。とりあえず、この場を収めるために、彼らに「私は敵じゃない」という印を見せなきゃ。


私は記憶の中の『ラスレク』の設定を掘り起こした。 確か、エリュシスの対極にある善の女神は、祝福の証として「聖なる口づけ」を授ける設定だったはず。


私は最も近くで震える騎士団長に歩み寄った。 彼は蛇に睨まれた蛙のように硬直している。


私は彼の顎をそっと持ち上げ、最高に慈愛に満ちた(はずの)微笑みを浮かべた。


「……大丈夫。あなたを殺したりしません。これを授けますから」


私は彼の額に、そっと唇を寄せた。


……その瞬間。 私の唇から、呪いのような漆黒の紋章が彼の額に転写された。 エリュシスの力は、慈愛すらも「隷属の契約」へと変換してしまうのだ。


「……あ、あああああ!!」


団長が叫び声を上げる。彼の額には、不吉に輝く「堕女神の刻印」が刻まれていた。


「……団長が、魂を汚された……」 「我らの誇りが、あの悪女の所有物に……!」


「……え、待って。所有物? 独占欲? ……あ、それはそれで美味しい展開だけど、そうじゃないの!!」


私は混乱し、顔を赤らめて後退りした。 しかし、騎士たちの目には、それが「獲物を手に入れて満足げに悦に浸る魔性の女」にしか見えていなかった。


こうして、聖騎士団を壊滅させるはずだったシーンは、「最強の騎士団を、精神的な屈辱と共に一瞬で手中に収める」という、原作以上の絶望的状況へと書き換えられてしまった。


(三上葉子32歳。彼氏いない歴=ほぼ転生後の絶望歴。勇者ジェイド君が来るまでに、せめてこの誤解を解かないと、私マジで殺される……!)


夕闇に染まる神殿に、私の(声に出せない)悲鳴が虚しく響いた。



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