受験が近い女子高生は友人の父親を説いて人類の核兵器放棄をやめさせようとする
「宇宙人がいるだろうことはわかる?」
おおっと、話題が飛んだな。まあよかろう。
「宇宙は広いからね」
「フェルミパラドックスって知っている?」
「聞いたことがある気がする……宇宙人がいるのなら、宇宙的な時間感覚から、なぜ地球に来ていないのか、という矛盾のことだったか」
「よくご存じね」
女子高生によくご存じといわれることは何ともこそばゆい。しかし不思議なことに、無知ゆえの果敢さを感じない。この娘は、何かを知っている。
「あなたは、なぜ宇宙人が地球に来ていないと思う?あるいは、明確に来ている足跡を残さない程度にしか来ていないのだと思う?」
「政府が隠しているのか、あるいはこっそり来ているのかもな」
私は隠していないぞ!
「どうかしら。スペイン人がメキシコに到達したとき、アメリカ大陸を発見したとき、自らを隠した?力が強いものが弱いものに会う時、隠れる理由はないのよ。来ているのなら、政府が隠し通せないほどの露出が起こるわ」
「なるほど。
とはいえ、宇宙には宇宙の掟があるのかもしれない。地球人に会う時には隠れろ、とね。あるいは宇宙人は地球に関心がないのかもしれない」
「フェルミパラドックス的には宇宙人は単一種のみが存在するわけではないわ。幾千万もいるかもしれない。中には地球に関心がある種族もいるでしょう。掟?たとえ掟があったとして、誰も破らないわけはないわ。現に、地球人だって法律がありながらたくさんの人が破るじゃない」
「何が言いたいのだ」
「フェルミパラドックスから必然的に導かれることの一つは、たとえ時間的に可能であっても、主として恒星間の虚無を越すことは全く簡単ではないということよ。相当の覚悟をもって行動を開始し、強靭な精神で継続的にリソースを消費しなければならない。技術力の高い宇宙人であっても個人ではできず、種族としての判断になるということだわ」
言葉の選び方が、どうも高校生ぽくない。
「ふむ。ほかの可能性をすべて否定してはいけないだろう」
「言葉尻では、それはその通り。しかし、可能性にも高い可能性と低い可能性があるでしょう。この場合には低い可能性の事象について、その重要性の低さを鑑みても、ここで論じる必要性は無に近いということよ。」
「私は、可能性が高く重要性も高いことがらを納得するためにも、可能性の低い話についても一応聞きたいと思うタイプでね」
「申し訳ないけど、あなたと一晩中問答している時間はないのよ。」
それは、首相たる私が言うべき言葉では?しかし、この娘、どこか面白い。
「本当にお聞きになりたいなら、今度教えてさしあげます」
「結局何を言いたいのだ?」
「今まで地球に大掛かりな宇宙人の来訪はなかったけど、ここから数十年間の間に宇宙人の大掛かりな来訪がある。このことそのものが、宇宙人の技術レベルを計るきっかけ。そして、その目的は侵略」
それはまた陳腐な目的だ。
「宇宙人が侵略に来るとは尋常ではないな。話し合いや交渉だってできるだろう」
「茶化さないでよ。そもそも何を材料に交渉するつもり?」
「宇宙人が欲しがるものを取引しよう。」
「宇宙人は技術が進んでいるわ。さらに恒星間を超えて物を運ぶことは簡単ではない。だから工業製品や農業製品を宇宙人はあなたたちに求めない」
「よし、取引できないということだとしよう。それでも来るというのならば、宇宙人は我々に敵対するということか?」
「少し違う。宇宙人はあなたたちのことを何とも思っていない。地球人は、隣の星系に影響を与える能力すら持っていないから、宇宙人にとってはいないのと同然。私たちも、川向こうの家でボヤがあったとしても気にしないでしょう。宇宙人にとって地球人は敵対して絶滅させる価値すらないのよ」
それは残念。おお、敵対せずに侵略するということは、そういう意味か。
「侵略してまで欲するのは何なのだ?市場?彼らが一方的に何かを売りたいのか?」
「彼らが地球にものを持ってくることも大変だし、彼らが欲しがるものがない以上、市場は必要ない。」
「人類という労働力?」
「人類でさえ、奴隷を使うのをやめて機械力を使う。あなたたちより進んだものが、あえて人類を労働力に使うと思う?」
「では何ゆえに、宇宙人が大挙して地球に来るのだ。観光でもなかろう。」
「宇宙人が市場も資源も工業製品も求めない。人類も必要としていない。それでも来るとしたら?」
それを地球から除いてみれば、地球しか残らないではないか。海?水?それも資源だろう。とすると......。
私は小さく拍手した。
「なるほど、彼らは地球自体を欲するということか。彼ら自身のために。おそらくは移住先か何かか。」
「その通りよ。恒星間の移動よりもコストがかかるのは、地球型惑星を作り出すこと。だから、地球型惑星を奪いに来る。力ずくで」
「宇宙人が必ずしも地球型惑星を好む場合だけではないだろう」
「そのとおりよ。地球に来るのは、地球型惑星に興味を持ち、地球型惑星を好む宇宙人だけ。地球人だってそうでしょ?太陽系外惑星を見つける試みだって、結局は木星型よりも地球型を見つけたときの方が喜びが大きいじゃない。未来において探査機を送り込むなら、太陽系外の地球型惑星に送り込みたいでしょ?それと本質的には同じ」
なるほど。確かに。
「恒星間移動の際の距離は、方法によるけど移動者にとってあまり意味を持たないの。10光年先に行くのと、1000光年先に行くことはそれほど相対時間的には変わらない。だから、彼らは距離に関係なく好ましい星を探し出して移動する」
私には意味が通る話なのかどうか判断がつかない。一般的に理解可能なのか、この娘が知っていると主張する未知の論理のみで理解可能なことなのか、それさえわからない。この娘が私をだまそうとしているとは思えないが。
そもそも、受験が近い女子高生が、友人の父親をだまして人類の核兵器放棄をやめさせようという動機が見えない。客観的に見ればあまりに滑稽だ。
思わず笑いだすことを避けるため、もう一つ質問をする。
「しかし知的生命体が進化を続けた場合に、必然的に争いを求めないようになるのではないか?」
「それは、生存本能と言う抗いがたいものと、争いを避けたいというナイーブな思想のどちらが普遍的かと言うことに還元できるのではないかと思うの」
「つまり?」
「多様性を維持することにつながる適切な争いは、知的生命体種族の多様性の維持、すなわち種の生存につながるのよ。生存はある意味、動物としての本能的なもの。それが閉鎖系で起これば同族間の戦争という形をとるので、ゼロサムあるいはそれ以下になる。それでも、少なくとも、同族との争いすら必要悪と考える種族は全く少なくない。それは集団的本能として普遍的。
より多くの利を求めるためには、結果的に系を開放しなければいけないということになるわ。そう考える種族は多いのよ。ましてや相手が異種族の場合は自明。これは本能の観点だけではなく、思想的にも戦争が望まれているということ。戦争を避けるというナイーブな思想は、思想としても普遍性としても弱いのよ。
いずれにせよ、争いは、戦争は、本能の観点だけではなくて、実際上からも決してなくならないわ。平和は全員が望まなければ訪れないけど、争いは一人が望めば起こるのよ。」
お、最後の一文は重ねて名言だな。私自身が使いたくなってくる。出所を聞かれたとき、真夜中の執務室で女子高生からたたきつけられたと言ったら、みんな信じてくれるだろうか。




