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公爵家から人が来るという。
それも、家臣の人ではなく公爵家の奥様が。
それだけでお父さんは半ば気絶していた。
「そんなんでどうするのよアンタ! しっかりしなさい!」
「はっ! いやしかしだな……!」
相変わらずの両親を見ていたら、ちょっとだけ緊張が和らいだ。
奥様ってどんな方なのだろうか。貴族の人なのだから、きっときれいなんだろうな。
その翌日、奥様がやってきたんだけど。
きれいなのはもちろんなんだけど、よくわからない迫力ももっていた。
藤色の髪に夕日色の瞳。こんな神秘的な色合いの女性は見たことがない。服装は華美ではないけれど、それはここに来ることを想定していたからだろう。
隣で日傘をさしている女性も健やかないでたちで、オレンジの外はねの髪がきれいに揺れていた。
お父さんは気絶していた。
そこからなぜかワイン用のブドウを食べさせられる日々が始まった。
甘い果肉の種を出せと言われて意味が分からなかったけれど、それ以上に意味が分からないのが奥様の魔法だった。
私と同じ土属性。
なのに、なぜか植物の育成ができる。
そんなことができるなんて神父さんも言っていなかったのに。
たった一日で成長して実を付けて枯れてしまうけれど。
成長や収穫がしやすいようにと棚が作られて、茂みのベリー摘みが上を見ながらの作業になったから慣れなくて何度も顔の上に粒を落としたりもした。
でも最初のころと違って、ただただすっぱいだけじゃなくて、甘みも感じるようになって。
成長させた木はすぐに枯れてしまったけれど、摘んだ実はずっと残っていたから、ジュースにして飲んだけれど、今までのものよりずっと美味しかった。
それに。
魔法が使える私だから気づいた特性がある。
その日は教会に魔法を習いに行く日だったから、ついでにそのジュースを持って行った。
神父さんに飲んでもらう。
彼は一口飲んで、くわっと目を見開いた。
「なんです、これは……!」
「はい! いま、うちで作っているブドウから作ったジュースなんですが……」
「公爵家の方にはご報告申し上げたのですか!?」
「え? えと、奥様が作られたので……」
「なんと……!」
立ち眩みでもしたのか神父さんの上体が揺らいで、次いで肩をガッと掴まれた。
「なんというものを持ち出したのですか貴女は……!」
「えっ? えっ? なんですか……」
「魔力回復が可能な飲み物など前代未聞です! それを奥様がお作りになっているなんて……公爵家の極秘情報ではないのですか?!」
「そうなんですか?!」
でもすごく派手に魔法を使っているだけだし、魔力回復薬を作るなんて聞いてない。
ただおいしいワインが飲みたいから原料から作り直すために来るんだって……。お父さんは、おじいちゃんから聞いた方法で生産していただけなのに、なんで怒られるんだって気絶しかけてたけど。
これ、公爵家の極秘事項?
え! どうしよう!
「このことは、公爵家からの発表があるまで秘密にするように」
青ざめた神父さんに言われて、私も真剣にうなずいた。
それから満足のいくものを作り終えた奥様は、それで葡萄酒を仕込むようにと指示を出し、謎の高笑いを残して去っていった。
お父さんは気絶しかけていた。
魔力回復薬のことは誰も触れていないし、奥様にしたって気づいている様子もない。
本当に極秘事項なんだろうか。奥様にも極秘にされているってことなのだろうか。
わからないことだらけだ。
でもなんでか、お父さんとお兄ちゃんがやる気に満ちていて。
「お前の土魔法にも期待しているからな」
なんていわれてしまえば、こっちもちょっとやる気になる。
奥様みたいな魔力はないけど、回復薬はあるし。
……もしかして、私が使うために、気づかないふりでそのままにしていた……?
なんて、都合よすぎな考えかな。回復量だって、私にすれば全快するけど、奥様からすれば微々たるものだろうし。
「でもなにもいわれていないし、使ってもいいかな……?」
そのままにしてたら劣化しそうだし。
ちゃんと使えるなら、あとで結果を報告しよう。そのほうが喜ばれる気がする。




