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市中を走っているときから思っていたのだけど。
「揺れがすごくないかしら」
「そうっすか? 全然揺れなくて旅行用とはいえさすが公爵家の馬車って思ってたんすけど……」
揺れてないのかこれで。
確かにクッション性のいい座席ではあるけれど、結構ダイレクトに揺れているんだけど。
「馬車の性能がいいなら、道かしら」
そっと窓から外を見てみる。
当然舗装なんてされていない道だ。これじゃあどんなに慎重に進んでも揺れるにきまってる。
まして何時間もこの箱の中に押し込められるというのに。
「……どうにかならないのかしらね」
「奥様が魔法を使うのはダメなんすか?」
「え?」
「だって奥様、地属性なのでしょう? 貴族として重宝されないのに魔力だけ多くてもってお嘆きだったじゃないっすか」
なるほど。……なるほど?
地属性ということは、大地に関する何かに干渉可能ということなのだろう。
そして、身分差を覆すほどの大量の魔力。
「やれっていってるようなものね」
魔法の使い方として、蛇口をひねるとか血流のようにとかいう説明を聞いたことがあるけれど、何をどう取り繕ったところで感じることから始めるのでアホの理論でしかない。
ということは、その方式だったら私にもできるということだ。
数式やら魔法陣やらルーン文字やら精霊と会話が必要とか、知識に基づいた学術じゃないよね、たぶん。レジナの話の感じから、簡単に使えるみたいな印象だし。
「こうかな……?」
おへそのあたり、という話もよく見た。丹田の位置というやつかな。
鍼灸のツボの一つだっけ。人中にある急所の一つだっけ。詳しいことはわからないが、なんかしらあるんじゃないだろうか。
うんうん唸っていたら、レジナが不思議そうな顔をした。
「どうしたっすか」
「ええと……久々すぎて、魔法ってどう使ったかしら……って」
「奥様は面白いことを言いますね! 五感に紐づくどこかじゃないっすか。たまに第六感の人もいるっすけど」
そうなのか。
触感がトリガーの人って全身から魔法を発したりするんだろうか。
それはそれとして、私の場合はどれなのだろう。
すっと地面のほうへと視線をやる。
平らになれ。と念じたら、心なしかすらっとした気がした。
ふむ?
これだけじゃわからないので、前方の地面すべてに対して平らになればいいのにと願ってみた。
途端に、馬たちが歩みを止める。
「わっ、なんすか」
「お、奥様っ!」
護衛たちに交じって馬上の人になっていた執事さんが寄ってきた。
見た目にそぐわぬ馬術の腕の持ち主だ。
「魔法を使われたのですか!?」
「それがどうかしたの」
「馬たちが驚いております……」
そんなの見ればわかるわ。
使うなってことを言いたいのかしら。
「だからなんなの。道が悪くておしりが痛いの」
「奥様に傷がついてもいいんすか?!」
「そっ、そういうわけでは……!」
あたふたする執事。
同じく近付いてきた護衛の人がこほんと咳払いをした。
「街道には魔物が出現する事もございますし、戦時であれば敵国の人間が来ることもございます。悪路であれば侵攻を遅滞させることが可能ですので……」
「そういう事です!」
いや執事なんでしょ。
あなたは自分で説明できなさいよ。
それはさておき、理由があって整備していなかったらしい。
軍事行動の妨げね。
「断るわ!」
「奥様!?」
私が目指すのは、悪妻。
困ったことをして離縁されるのが役目であり、目指すところだ。
であれば、嫌がられることをしないはずがない。
整備されたくない? 全力で取り組もうじゃないの!
「こんな状態で馬車を走らすなんて、私を蔑ろにしているとしか思えないわ」
「け、けしてそのような」
「私がそう思うということが問題なのよ!」
ここから先の道も全部真っ平らになってしまいなさい!
そう念じたからか、道がちょっときらきらっとした。遠目ではちゃんと形が整ったのかは分からない。
「そ、そんな……」
「こんな大規模な……!」
「早く出して頂戴」
「あっは、はいっ!」
合図と共に進み始める。
が、先程と比べて騒音も揺れも少ない。それに心なしかちょっと早くなった気がする。
「さすがっす、奥様!」
「そうかしら。これくらい普通では?」
「桁違いっすよ! 土属性なら視覚を使うっすから、見える範囲ちょっとくらいが対象なのに」
視覚と紐づいているのね。
でもそれ、使いすぎると目が悪くなるってことかしら。
「土属性の人って、眼鏡をかけている人が多いのかしら」
「農民が眼鏡っすか?」
ああ、貴族は土魔法使わないんだっけ。
それは検証のしようがないわ。
いや、他の属性ならわかるかもしれないわ。
「ねえ、火魔法や水魔法なんかは、何と紐づくのかしら」
「あれ? 辺境で教えてもらえなかったっすか?」
「実はそうなのよ。もの知らずで恥ずかしいわ」
頬に手を添えてうつむくと、レジナは得意げな顔をして鼻から息を吹いた。
「教えてくれてうれしいっす……! 私、奥様に信頼されてるってことっすね!」
そうなるの?
ニコニコ笑顔の彼女の手を握る。
「頼りにしているわ」
「お任せくださいっす!!」
それからレジナに魔法のことを教わった。
属性はおおよそ六つに分かれていて、地水水火風体だそうだ。
どのような魔法でもそれぞれのいずれかに無理やりこじつけるらしい。体系的な学術ではないから、分類だって適当だ。該当の属性に割り当てられた人が使った魔法を、他の同属性の人が使えたらこの属性に分類される魔法だ、みたいな認定のようだ。
名前にファイヤーとかウォーターとかわかりやすい名前がついているならまだしも、ポチとかミケとかだったらもうどういうものかわからないらしい。ペットの名前を呼んだだけじゃなくて?
「土は視覚っすが、火は触覚、風は聴覚、水は味覚と嗅覚、身体強化は第六感とそれぞれ関連があるとされているっす。適度に使うと五感も強化されるし、使いすぎると劣化するらしいっすね」
さらりと先ほどの疑問が解決した。
やはり使い過ぎはよくないようだ。
「まあ一般論っすけどね。現に私は、風使いっすけど第六感で使うっすから」
「へえ、そうなのね」
「結構珍しいんすよ? 浄化もできるっすから」
それ風魔法なの?
本当に分類の仕方がめちゃくちゃだ。まあ、困らなければなんでもいいか。要するに、だれが何をどれくらい使えるかが本題なのであって、わざわざ仕分けしなきゃいけないわけでもない。
「っと、奥様、そろそろまた魔法を使ったほうがいいと思うっす」
「そうなの?」
「いつもより進みが早いっすからね、先ほどの魔法の範囲につきそうっすよ」
そっと車窓から外を見てみるが違いが判らない。
だけど、さっきみたいにガタゴト揺られて運ばれたくないので、さくっと道を馴らす。
驚かれるような規模らしいけれど、疲労感はさほどないから、本当に魔力だけは多いらしい。
それにしても、これだけじゃあ地味よね。
貴族が土属性を厭う気持ちがわかる気がする。
それに、成果が見えにくいというのはあまりよろしくない。
あんなに渋られるようなことを継続しているのだ。アピールしておかないと。
悪妻アピールかあ。
うーん……。
「ふ、ふはっ、ふはははははは!」
「わっ!? なんすか?!」
悪役といえば高笑いよね!
「この先まで道を均してやったんだもの!」
「えっと……よくわからないっすけど」
「ふははははははは!」
さすがのレジナもドン引きしている。
方向性は間違っていないようね。
そこからまた、レジナにいろいろと聞きながらの旅路となった。
たまに外を見て魔法を使い高笑いをしながら。
途中で馬を休ませたり、都度休憩をはさんでいた割に、早めに目的地としていた宿場町についた。
思った以上に魔獣が出なかったこと、馬がそこまで疲れていなかったことが要因らしい。
それもこれも道が平らだったからだ、とレジナは大絶賛していたけれど、執事さんは渋い顔のままだった。
そして私は、心地よい疲労感に、宿につくなり眠りについた。
どんなに魔力が豊富でも、一日中使い続けていたようなものだから、さすがに疲れてしまった。座りっぱなしだったこともある。
でも、外の景色が見れたのは良かったかな。どこまでも続いているような平原とか雑木林とか街道とも呼べない道とか、そんなものしかなかったけど。牧歌的といえば、うん。そういうことにしておく。
それはそれとして、街の外の様子を見れたのは大きい。発展のレベルがわかるというか。
ともかく、今日は全力を尽くした。
明日もこの調子でいやがらせを頑張っていこう。




