7
奴隷たちの様子を見るに、食事はちゃんと与えらえられているようだった。
普段何をしているかといえば、この国の言葉を覚えたり、奴隷商が別でやっている商売の商品をそろえたり。彼らは一様に隷属を示すための刺青が入れられていて、浄化魔法を使って痛みを与えられるようになっているのだとか。
「教育が足りないわ」
「ですが、我々ではこの程度しか……」
「ここの奴隷は主に何に使われているの」
後ろ暗い販売先じゃないかなっていうのはわかるんだけども。
ざっと見る限り、耳がとがっていたり、鱗が生えていたり、獣耳が生えていたりする。種族が違うことは外見からもわかるし、この店のある場所が表側の社会とは縁遠い場所であるということを考慮すれば、自然とどういった用途になるかは見当がつく。
「一番高いものはそうですね、個人の享楽を満たすため……」
だろうな、耳の長い種族なんか、私の目で見ても美形揃いだし。
少し薄汚れているけれど、洗えばきらめきだすんじゃないかと思うくらい元がいいし。
「あちらの牛の獣人を買っていかれますね。ばぶみを感じるとか」
「なんて?」
「童心に返って甘えたい放題できると好評で、彼らも温厚ですし、扱いも悪くないので」
どういう……ことだ……。
なんにせよ、ある種の需要を満たすために売買が行われていることだけは確かなようだ。
うん、ある種の……。
思った感じとちょっと違った気がするけれど!
「もっと高等教育が必要だわ。少なくとも、読み書き計算は最低限」
「はい」
「それから、貴族社会のマナーも覚えてもらうわ」
「といいますと」
「私が買ったのよ、全部。公爵夫人に仕えるのにマナーがなってないんじゃしょうがないわ」
悪妻になるために購入したものではあるけれど。
買ったものを使わず放置とかもったいないじゃない。
「その、見目の良い男や女には夜の仕込みもしますか」
「いらないわ」
貴族の女性なら貞操に気をつけなきゃいけないとかそういう事があるだろうし。
少なくとも直系の後嗣を生むまでは夫以外との性行為など論外だろう。
そもそも同衾するつもりもないから、無用の長物である。
旦那の方も本命の王女様がいるわけだし。彼女がだめなら一応は嫁がいるし。その中で別の女性に手を出すとか、流石にないでしょう。
「他の貴族家に貸し出す際に必要になるかもしれませんよ」
「いらないわ」
同じことを二度言わせるな、という雰囲気で睨みつけたら、商人の男は肩を落として恭しく礼をした。
失礼な言動であったと言いたいらしい。
「ま、思ったよりは清潔みたいだけど、もっと身ぎれいにさせることね」
「はい」
まあ、このくらいでいいだろう。
奴隷たちに少し顔を見せて、会話を聞かせて、待遇が変わるってことが分かればそれだけで十分だ。
レジナもなんかドヤ顔しているし、問題ないってことだろう。
「頼んだわよ」
「はい」
さて帰るかな。
と思って身を翻した、その目の端に子供が映った。
そんな小さな子でも奴隷身分としてここにいるのか。そう思ってそちらに目をやれば、緑の髪色の少年、少女?と視線がかち合った。
「エトリュードですか?」
「なんですって?」
「そもそもは女性種族だったのですが、性別を持たない種が生まれたようでして、総じてエトリュードと呼ばれるようになっています。一般的な話ではありませんが」
確かに性別的な特徴はない。
男の娘みたいな感じだろうか。どんな格好しても似合いそうな美しさではある。
「種族特性は、自然との調和です。エルフよりは綿密で、ドリアードよりは冷静に自然を操る、と言われています」
「そうなの」
しかし、この子だけやたらと目につく。
なんだろう。うーん。
「あなた、馬は好き?」
ずっと目があっているから話しかけてみる。
その子は、少し不思議そうな顔をしてから、ゆっくりと頷いた。
「そう」
競馬場ができたら馬の世話役として送り込もうかしら。
今はまだ建築途中だし、することもないから引き取ってもあれだけど。
そのまま奴隷商あらため公爵家使用人の教育棟をあとにする。
外で待っていた執事の人に支払っておくように伝えたら白目になって震えていた。
これでも公爵家の婦人なので予算は割り振られている。品位保持費とかいうらしいけど、そもそも離婚をするので社交をする気もない。
ならこういうところで使わないとね!
ドレス一着作るより派手でいいでしょうよ。
何はともあれ、当初の目的はすべて達成……とするには、いささか計画途中のものもあるけれど。
悪妻として名を馳せるのに十分な下準備はできたんじゃないかな、と思う。




