6(5)
街道から外れているため人があまり来ない村。
開拓民の主導者の子孫だということで村長になった彼のもとに、領主一家に嫁いできたという貴族の娘が訪れた。
急なことで戸惑うことしかできないが、もてなさないという選択肢はない。
こんなところでは宿屋もないので、一番立派で頑丈な自らの家を差し出すほかはないだろう。
先ぶれの騎士に歓迎する旨を伝え、彼は家族全員に急いで部屋中の掃除を命じた。
もとよりそこまで汚してはいないが、貴人が来る以上は誠意を見せなければならない。
しばらくして、話の貴婦人がやってくる。
薄紫の髪に琥珀の瞳、隣には快活なオレンジ髪の少女を連れている。
正確な地位などわかりもしないが、貴族相手に無礼はできない。
村長は軽く言葉を交わし、自宅を彼女に明け渡した。
「はあ……誰ぞの家に泊めてもらわねばな」
「いきなりきなさったんだから、仕方ないことよ」
翌日から、貴婦人は村の南側へと視察へ向かっていった。
向こうには畑もない。
いったい何をするんだと興味津々な村人を抑え、彼はいつも通りに仕事をするように指示を出す。
昨晩の間に、それとなく随行の騎士に目的を聞いたのだが、わからないという答えだった。
つまり、極秘で動いているということなのだろう。
そんなものに関わっていたら、命がいくつあっても足りない。
だから、彼女の後をついてきたらしい怪しい集団もそのまま通した。
そして、新たな客人となった。
騎士たちは野外でもいいといって広場に野営をしている。
交代で貴婦人の護衛に立っているようだった。
新たな集団はどうするのかと思っていたら、騎士たちに交じって野営を始めた。
その翌日から、南に出かけて行っては何やらやっている。行くときも戻るときも非常に楽しそうな様子であるため、村人たちだけならず、村長の好奇心にも火がともるほどで、なんだかみんながそわそわと落ち着かない状態になった。
「おい、ちょっと覗いてきたけど、すごい広い広場になってた」
「馬たちを集団で走らせてたな」
「すごい楽しそうだった」
「女の人は岩山の方に行ってるな」
本当に何をしに来ているのかわからない。
ただひとつわかることは、彼らの邪魔をしてはいけないと、それだけだ。
その翌日、貴婦人は村長の家を出て行った。
ついでに村には新しい建物が増えていたし、今までの家も補強されていた。
岩山を削ったその部分をレンガ状にして再利用したらしい。
女性は自分で作った洞穴のほうで寝泊まりをするとのこと。
貴族だというのに、だいぶ破天荒だ。そもそも、こんなところにやってくる時点でおかしくはあるが。
「村長っ」
「今度はどうした」
「岩山の方、なんかできてる!」
そちらは貴婦人が何やらしているほうではないか。
洞穴の拡張をしているだけではないかと思いながらも様子を見に行けば、確かに何かができていた。
複雑に波打つ衣を身に着けて、険しい顔をした男性像がにらみ合うように二つ。
いったい何を示しているのかわからず唖然としていたら、彼に気づいたらしい騎士が近づいてきた。
「どうかしたか」
「あ、あの、あれはなんでしょうか……?」
「ああ、あれか。我らにもわからん」
アッサリと答えられ、村長は困惑する。
「だが、悪いものではないだろう。おそらくは辺境の戦士だ」
「辺境の……ですか?」
「ああ、奥様はもともと、辺境からいらっしゃった方だからな。土地を見守る戦士像を建立することは珍しくないし、ここを守護する戦士を象られたのだろう」
そうなのだろうか。
再度、戦士像を仰ぎ見る。
恐ろしい形相ではあるが、確かに、その分だけご利益がありそうだ。
「はは、奥様は慈悲深い方のようですね……」
「ああ、型破りではあるがな」
そのままじっと作業を見つめていると、戦士像がぴかりと光った。
いったい何が、と思うが、特に変わったことはない。
「今のは……」
問いかける前に、騎士は夫人のところへと走っている。
異変がないかを確かめるためだろう。
手持無沙汰になって、村長は村まで戻ることにした。
貴族の来訪によって、少しだけ活気づいた村。
ここに多くの人々が去来し、一大発展することになるとは、彼はつゆほども思っていなかった。
***
「ローズウェルの若奥様は奴隷に興味があるようですわね」
「ああ、聞きましたわ。派手なことをなさるわよね」
親睦を深めるための夜会であるが、そこかしこで話題になるのはローズウェル家に嫁いできた女性のことばかりだ。
新婚だというのにいきなり領地に移動したと思ったら、一般的な休暇期間が終わるころに王都に戻ってきた。
そしてすぐに、下層民が住む区域にある奴隷商を訪ねている。
あまりにも不可解な動きなので、噂にならないほうがおかしい。
「王都の暮らしは慣れないのかもしれませんわね」
「自然豊かな場所でお育ちになったでしょうから」
その旦那といえば、数日前に職務に復帰している。
結婚前と同じく王女と仲睦まじく過ごしているとの話もあり、こちらの噂も盛り上がっていた。
魔力量が多いから結婚したものの、家を顧みない悪妻に嫌気がさし、恋心が忘れきれず王女と逢瀬を重ねていると。
どちらにせよ醜聞だ。
ローズウェル派閥は苦虫をかみつぶした顔で静観するしかなく、彼らを嫌うものはいつ離婚をするだろうかと口さがない。
そもそもが魔力ありきで身分差のある婚姻である。
だからこそ慎ましくせねばならないというのに、嫁がこれ。
面白おかしく広まるローズウェル家の話が社交界を席巻していた。




