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建設に必要な資材を持ってこなければならない。
そこに至ってやっと思い当たった。予算ってあるのかな?
工員を雇うときもそこらへんは執事の人にお任せしていた。多分、全体の金額も把握しているのだろう。ならたぶん、足りなくなりさそうなら注意されるに違いない。
その時にはさらに出せと言い張ればさらに悪妻らしいだろう。
そもそも気にしても仕方ないことだった。怒られようとも使い尽くすのだから。
ともかく、資材の手配と到着まではすることがないからと、彼らは村の端に住居を作り出した。
そのうちここが滞在拠点になるだろうからと周辺の整備もしている。
護衛団もいやにやる気で、彼らとともに建築をしていたり馬を走らせたりして楽しげだ。身辺警護はどうした。
まあ、別にいいけども。
資材の手配もろもろも彼らが勝手にやってくれる。
紹介状を書いてくれと言われた時こそ焦ったが、執事の人に代筆させて書き上げた。
こういうものを代理で書いてもらうことは別に珍しくもない。と思い込むことにする。
監督という名のもと、昼寝をしたりたまに様子を見たりしていたが、暇だ。
することがないので、近くの岩肌を変形させて穴倉住居を作った。
何かで見た、岩山を掘って作ったホテル。あれを目指そうと思って。
さすがに家具は持ち込みになるだろうけれど、それ以外のところは土魔法で作成だ。
蠟燭を支える台座に彫刻を施す細かい作業が大変だった。
模様に関してはレジナから独創的という評価をいただいた。センスなんてなくても生きていける。
ある程度の形が整ったので、いったん放置して、空いてる壁面に仏像を彫っていく。
私がそうだと思っているからそれでいいんだ。こっちの世界の神様の形なんて知らないし。
「奥様、なにしてるっすか?」
「像を掘ってるのよ」
「そうっすね! 神像じゃないっすよね、偶像崇拝で教会から異端審問されるっすよ」
何それ怖い。
「単なる趣味よ。神様じゃなくて、その周辺にいる護衛たちって感じかしら」
「神様の護衛っすか……? うーん、神話にはいませんが、確かに護衛は必要かもっすね!」
こちらの神様はパワーイズジャスティスな唯一神なんだろうか。
ともかく、心血を注ぐこと三日。阿吽像が出来上がった。
記憶を呼び出してだからこう、自分の手心が加わっているので迫力はないんだけど。頑張ったから。全力を出したからこれでいい!
「守り神っぽいっすね。強そうっす!」
変な形にしわがよった顔だから、むしろあの部分が顔とはわからないくらいの出来栄えではあるが。
元ネタ知らないだろうし、私が発案者にしておけば何の問題もない。
心の中でだけ盛大に謝っておく。
「奥様の事業が成功するように、私も祈っておくっすね!」
「そう、ありがとう」
何となく、阿吽像の表情が凛々しく引き締まったような感じがした。
若い娘がいいのか、君たち。
それからしばらくして、資材が届いたので護衛から数人を残して王都に戻ることにした。
工事状況の監視と連絡員とのことだけど、どうかしら、馬で思いっきり走るのが楽しい様子でもあったし、それが目当てかもしれない。
まあ、いいものが出来上がるというのなら構わないか。商人でも差し入れしておこう。
「それで奥様、戻ってなにをなさるんすか?」
「奴隷を買うわ」
「えっ」
さすがに驚いたのか、レジナが固まった。
そういえば、普通にいると思ってたけど、奴隷の利用が禁止されているとかそういうことはあるのだろうか。
「も、もしかして私はお役御免ですか……!?」
あ、そこ?
特に止められる感じではないようだ。
「そういうことではないわ。ただほしいだけよ」
「そ、そうっすか」
ほっと胸をなでおろしている。
ついでに、この国での奴隷の扱いについて確認しする。
法的に守られた存在か、そもそも、どういう層が奴隷落ちするのか。
「いくつかあるっすね。敗戦国の生き残り、借金奴隷。犯罪奴隷もたまにいるっすが、そういうのは大体国が鉱山に送るっすから」
「そうなの。違法……というか、どこかから誘拐なり鹵獲なりされたようなのはいるの?」
「いるっすよ。大々的に販売はされてないっすけど」
微妙に闇が深い。
元はロマンス小説家なんかじゃなかったかしら、これ。
そういうのとは無縁の世界を基軸にしていたから話題にも出てこなかっただけだろうか。
「でも、そのほうが面白そうじゃないかしら」
「そうっすね!」
この、全肯定いいのだろうか。
君は止める役割を持つべきじゃなかろうか。
「そういうのを取り扱ってるところ、知ってるっすよ!」
あろうことか薦めてくる。
なんでこの子は侍女になれたのだろう。それともこの世界はこれが普通なんだろうか。
わからないけど、私は頷いた。
少なくとも貴族の馬車が堂々と乗り入れるところではない。
そこに身を隠すでもなく訪れた。
「これはこれは、ローズウェル公爵家の若奥様ではないですか……このような場所にどのようなご用向きで?」
暗に、こちらのことは知っているといいたいのだろう。
つまり、牽制されている。
安物のシルクハットに、サーカス団が着るような光沢のある燕尾服。
流行も素材も全く気にしていない、お仕着せの対応は、さっさと帰れという警告なのだろう。
顔は……多分、普通。白髪交じりに藍髪を後ろになでつけて、片眼鏡をかけた様はいかにも道化に見える。
「変装の趣味でもあるの?」
「それは……どういったことで?」
「ところで、あなたの言うこんなところに来た目的なんて、一つしかないけれど」
「さようでございますか……しかしながら、若奥様のお眼鏡にかなう者がここにあるとは……」
「レジナ」
名前を呼べば、侍女がすっと前に出てくる。
その顔を見て奴隷商が小さく息を飲み込んだ。
「”ハウンド”……なるほど、それで、こちらに」
「私、面白いものが好きなの」
意識してにっこりと笑うと、男もにやりと笑う。
こちらの言いたいことを正確にくみ取ったのだろう。
「かしこまりました。それでは、若奥様にお似合いの、若くて屈強で、見目麗しい青年を……」
「店」
「は?」
「店ごと全部買うわ。一人ずつなんてめんどくさい」
「……はぁ?!」
今度こそ男は素っ頓狂な声を上げた。
「別に、嫌ならそれで構わないわ。騎士団がここになだれ込んでくるだけだから」
「そ……それはっ」
「金を受け取って私の指示通りに奴隷を扱うか、貴方が鉱山奴隷になるか、好きなほうを選びなさい」
これは選択肢ではない。
店の奥から屈強な男がのっそりと現れる。こういう無謀な輩を排除するための用心棒だろう。
奴隷商がそれを手で制した。そして、笑う。
「いやはや……私もこの商売は長いので、同じような方は何人も見てきました」
「御託はいい」
音もなく奴隷商の背後に立ったレジナが首筋に短剣を突き付けている。
そんなこと……できたんだ……。
「あなたの次の言葉は、譲る、だけよ。それ以外を発した時点で頭と胴体が永遠に分かれるわ」
そういえば黙り込む。
「じゃあレジナ、始末して頂戴」
「譲ります!」
考える時間も、反撃の時間も与えてはいけない。
どう考えたって戦力的に劣っているのはこちらなのだ。権力で押し切れるうちに押しつぶさないと。
いやね、ここに来るにあたって護衛とかは店の外に置いてきたからさ……実質、戦えるのはレジナだけっていう。
思ったよりはやるみたいだけど、細いしか弱い女の子があの用心棒相手に戦えるとは思えない。
「同じような客を相手取ってきたにしては、素早い決断ね」
「……”ハウンド”を出してきながら、なんという皮肉……」
そのハウンドって何?
わからないけど、サクッと決まって良かった。
「じゃあ、ここのオーナーは私になったから、これからはこちらの指示通りにして頂戴」
「わかりました、マスター。貴女のお望みのままに」
小ばかにしたような先ほどのしぐさから打って変わって、礼節と敬意をにじませる所作で奴隷商が礼をする。
もとより教養のある男なのかもしれない。
「じゃ、奴隷の様子を見るわ」
通されたのは応接室。
それなりの装飾のされたソファから立ち上がる。
「あんまりいい品じゃないわねぇ」
「……これより改善いたします」
男の案内に従って屋敷の奥へ。
レジナがそろそろと寄ってきたので、頭をなでてあげた。
これだけで上機嫌になるのだから、かわいいものよね。




