第7章:重力に抱かれて
足が、沈んだ。
風ではなく、大地が彼女を掴んでいた。骨が、土に吸い寄せられるようだった。肺が、重さを覚えた。空では決して感じなかった、圧のある空気。それが肌の内側に入り込んで、内臓をわずかに震わせる。
隣で、土がわずかに跳ねた。
振り返ると、ノアが倒れていた。顔を伏せ、両手で地面を探るように這っている。砂にまみれた背が、かすかに上下していた。まだ意識はある。
「……ノア?」
自分の声が、空と違う響き方をした。風に乗らない。音が、すぐ近くに落ちる。リヴィははっとして、自分の喉を押さえた。
「声が……重い。」
ノアが顔を上げた。唇が何かを言いかけて動くが、言葉にはならなかった。代わりに、彼の目が空を見上げた。
リヴィも振り返る。
空が、あんなに遠い。
あれほど近くにあった青が、いまや薄く、無音の膜のように天井に張りついていた。まるで、もう二度と戻れない場所のように。
風は吹かない。浮石も、浮かない。ここは、“軽さ”の支配しない場所だ。
彼女は、ゆっくりとノアに手を伸ばした。
「ここが、地上……?」
ノアは無言でうなずいた。その目が、少しだけ笑ったように見えた。
風がない。空もない。でも、彼はまだ隣にいる。
リヴィはふたり分の重さを受け止めるように、地面に膝をついた。
──地上という場所が、彼らを抱きしめていた。