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空境のリヴィア  作者: 田島
第一部 空
2/11

第一章:風の資格を持つ少女



朝の鐘が、空に溶けた。


青と銀が混じる夜明けの空に、無数の浮遊島が影を落としている。その中心にある大陸〈セレス〉は、風に祝福されし浮遊の地──人々はそこを「空界」と呼んだ。


リヴィ・アストレアは、白い制服の裾を風に揺らしながら、学舎への通路を歩いていた。


高いところにいる、という実感はない。あまりにも空が日常だから。島々を結ぶ滑空船が静かに空を渡り、鉱夫たちは朝一番の浮石採掘に向かっていた。空の文明は、風と浮力によって築かれていた。


足元を滑るように走る〈風路盤〉の列車に乗りながら、リヴィは胸元の〈風の紋章〉に手を添えた。それは生まれながらに持つ者にだけ与えられる資格──風を感じ、操作し、空に生きることを許される“証”。


「……でも、ほんとに“空だけ”が、生きていい場所なの?」


呟いた声は、誰にも届かない。車窓に映る自分の目だけが、揺れていた。



授業はいつものように進んでいた。


空の律法、浮石鉱の活用、風の紋章による昇降操作。そして──「地上の呪い」について。


「地上は、かつて神を裏切った人類が堕とされた禁忌の地です。重力という罪を抱え、空を捨てられた者たちがいた──」


教師はそう語る。誰も疑わない。けれど、リヴィだけが筆を止めていた。


見たこともない。触れたこともない。ただ、言われ続けてきた。


“下は呪われている”“地上に触れてはならない”


なぜ? 誰が決めた?


その日、リヴィの視線は黒板ではなく、教室の窓から空の向こうを見つめていた。



放課後、空学舎の図書室にこもったリヴィは、古い記録を探していた。


浮石以前の技術、風以前の力──だが、そこに地上の記述は一切なかった。


「封印されてる……?」


ぽつりと漏らした言葉が、部屋に残った。


何かがある。何かを、隠されている。


リヴィはその夜、風の紋章を起動させながら、いつもの場所へ向かった。


そう、あの“大陸の縁”へ。


まだ、彼女は知らない。


この違和感が、自分の運命を、空そのものを覆す引き金になることを──。





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