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空境のリヴィア  作者: 田島
第一部 空
1/11

『風の縁、重力の名』

“空に住む私たちは、地上を知らない。”


それは当たり前のことだった。

けれど、当たり前が正しいとは限らない。

触れたことのない真実、見たことのない希望、そして踏み越えてはならない「境界線」。


これは、少女がその一歩を踏み出す物語。

空の縁に立つあなたへ、この風を届けたい。


朝の光は青白く、空の大陸〈セレス〉の端を霧と共に撫でていた。


リヴィはその霧の向こうに立っていた。靴の先が今にも空へ滑り出しそうなほど、大陸の縁に近づいて。


毎朝ここへ来るのが習慣だった。母には「風の紋章の訓練」と言ってある。嘘じゃない、たしかに風を感じ、紋章を起動させる練習はしている。でも、本当の理由は──


“下”を見たかった。


見えない地上。神に呪われた場所。けれどリヴィの胸の奥に、小さく震える違和感があった。


なぜ誰も見たことがないのに、そこを憎むのか。


「……また来たのか」


声がした。振り返るよりも先に、霧が渦を巻いた。そして“現れた”。


いや、“這い上がってきた”のだ。空の裂け目から。


少年だった。前に会ったときと同じ、素足、奇妙な服装、そして胸元に埋め込まれた──光る石。


「……あんた、ほんとに地上から?」


「何度も聞くなよ、リヴィ」


「信じられないもん。そんなところ、誰も行ったことないのに」


「君たちが行かないだけだ。地上は、ある。人もいる。空に届く技術も」


リヴィは無言で少年を見た。彼の背には小さな機械の翼があった。羽ばたかずとも、彼は浮いていた。風の紋章なんかじゃない──重力を拒む何か。


「その石……何なの?」


少年は手で胸元を押さえた。


「“ゼロの核”……重力を無に還すもの。僕たちは、神を信じなかった」


「……罰は?」


「ないよ。罰なんて、誰かが作った幻だ」


リヴィの胸に、何かが音を立てた。


「……見せてよ。地上を。私、見たい。空の外を、自分の目で」


少年の目が細くなり、口元がわずかに笑う。


「じゃあ、行こうか。この大陸の“外”へ」


リヴィは躊躇した。


もしこれが誰かに見つかれば、“風の資格”を剥奪される。生きていけない。家も、名前も、何もかも失う。


でも──


「行く」


その言葉は、風よりも早く空へ放たれた。


**


二人は空の縁を飛んだ。風の紋章ではなく、重力の無い“歩行”で。


リヴィの足が雲を蹴る。信じられないことが目の前にあるのに、恐怖よりも高揚が勝った。


「ほら、見えてきたよ」


少年が指をさした。


遠く、霞の中に、もうひとつの“空”が見えた。いや、空ではない──大地だった。森、塔、川、光。そのすべてが、彼女の常識を壊す。


「地上……本当に、あったんだ……」


「君の歴史は、これから変わる。空と地上がもう一度繋がる日が、近づいてるんだ」


リヴィは目を見開いたまま、その風景を心に焼き付けた。


禁忌なんてどうでもよかった。


この空の終わりが、新しい“始まり”になるなら──


彼女は、飛ぶ。


物語は、ここから始まる。


ここまで読んでくれて、ありがとう。


リヴィが見た“地上”は、彼女にとって希望であり、禁忌でもありました。

この世界にはまだ多くの謎が隠れています。

少年の正体、ゼロの核の意味、そして空と地上を分けた神話の真実……


空の終わりで、君は何を見る?

また、次の風の中で。

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