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マリアの画策・1

(あの・・・・煮え切らない若造どもが~~~っ!!)


 セバスティアンは激怒していた。二人をくっつけるために共同生活を提案したというのに、ドミニクとパトリシアは互いに不可侵の紳士協定を結んでしまったからだ。


(わけのわからん取り決めなんかしおって!! これではまるで不可侵条約のための紳士協定じゃないかっ!!?

 なんでこうなる? なんでこうなってしまうんだ!?

 好き合う同士が一つ屋根の下に住もうって言うのに不可侵の紳士協定を結ぶなんて、どういうことだっ!!

 不可侵どころかお互いに侵入しまくれよっ!! 頼むから侵犯(しんぱん)しまくってくれよっ!!

 そして、さっさと結婚して子供を作って私を安心させてくれっ!!)

 

 幼いころから二人の面倒を見て来たセバスティアンの心境はもはや二人の親に近い。腹が立つのも当然だろう。苛立(いらだ)つのも当然だろう。心の中で毒を吐くのも同情の余地しかない。

 しかしセバスティアンは筆頭伯爵家の執務(しつむ)の一切を任されている超優秀な人物である。心の中で散々、悪態(あくたい)をつきながらも表情には一切出さずに「では、お屋敷にお戻りくださりませ。パトリシア様のお荷物は当家の使用人が運びますので、どうぞご心配なく。」と笑顔で言った。・・・・いや、実際には相当に表情が引きつっていたのだが、その表情をドミニクとパトリシアは知らない。お互いの美しい顔を熱く見つめあっていたのだから・・・・。


セバスティアンの険しい表情を知る者は後から来た使用人たちだけだった。上司の恐ろしいまでの不機嫌な表情は仕事に影響が出る(しるし)。普段は部下に優しいセバスティアンが鬼軍曹になりかねないことを示しているのだ。使用人たちは「ああっ!! 執事長がブチ切れておられるっ!! こうなったら一日中、不機嫌なままだぞっ!!」と、恐怖した。そして今日こそは絶対にミスをしないでおこうと固く心に決めるのだった。


 そんな家人(けにん)の心労を知らぬドミニクとパトリシアは、のんきに人目を引く花柄の馬車に乗ってドミニク家に戻るのだった。

 そうして二人が家に戻ると馬車から降りて来た二人を使用人たちが出迎えに現れた。

「旦那様。ようこそお戻りくださいました。」

「パトリシア様。ようこそドミニク家へ。どうぞゆっくりなさってくださいませ。

 何か必要なものがあれば何なりとお申し付けくださいませ。」

 セバスティアンが先に使いの者を送り、家中の者たちがパトリシアの滞在を驚かぬように手配したおかげだった。使用人たちは準備万端で二人を出迎えたのだった。

 

パトリシアの部屋(・・・・・・・・)に通してやってくれ。」

 ドミニクがそう言うとメイドたちがパトリシアを部屋に案内する。

 メイドたちに案内されながら立ち行くパトリシアは振り返ってドミニクに小さく手を振った。

 小さく手を振るというのは幼いころから二人にとっては「またすぐに会いたい」の合図だった。そしてそのパトリシアの気持ちは言葉を交えなくても以心伝心(いしんでんしん)。ドミニクは確かにその気持ちを受け取って笑顔で(うなず)くのだった。

 ちなみに「パトリシアの部屋」というのは幼いころから家族ぐるみで付き合いをしているパトリシアはこれまでに何度も短期間の滞在を当たり前のようにしてきたので、本邸宅内には元々、パトリシア用の部屋が存在したという事だ。こうなれば(すで)に通い妻状態と言って差し支えない関係だが、この度はさらに一歩踏み込んだ同居生活を最低でも事業が軌道(きどう)に乗るまでの数年は確実に行う事になるだろう。


 言うなれば事実婚(じじつこん)なのだっ!!


 だがっ!! 無自覚な二人はっ!!

 律儀に紳士協定を守ろうと努めていたっ!!

 以心伝心のジェスチャアが正しくお互いへ伝わることを心の中で喜んでいても。

 小さく手を振るパトリシアの愛らしさに胸がキュンとなろうとも。ドミニクの男性特有の信頼感と包容力のある笑顔に心()かされそうになろうとも・・・・・

 二人はそんな心理に(あらが)ってまで、お互いにかわした約束を守らんがために必死で恋愛感情を押し殺そうとしていたっ!!


 お互いに求めあっているにもかかわらず、頑張ってその欲望を抑え込もうと努力している(さま)をセバスティアンは易々(やすやす)と見抜き、天井を見上げて思わず小さく愚痴(ぐち)(つぶや)いてしまうのだった。


「あの・・・・馬鹿どもめ・・・・」


 そんなセバスティアンの背中を見つめて、その心情を察する者がセバスティアンに声をかけた。


「あらっ・・・・あのバカお姫様。また来たのね?

 全くいい気なものよね。人の気持ちも知らずにさ・・・・」


 その声を聴いたセバスティアンは背後から近づいてくる人物の声に反応して振り返って見つめた。


「なんだマリア・・・。今日は男の子の日(・・・・・)なのか?

 いつも言っているだろう。お前は我がマルティーニ家の跡継ぎ。

 男の時は男らしく(・・・・・・・・)女の時は女らしい(・・・・・・・・)言葉を使いなさいと。」


 セバスティアンに(たしな)められたマリアと言う執事姿の人物はペロリと舌を出すと「ごめんな親父。あの女が来ると、つい、女が出ちまうんだよ。」と答えた。

 年のころは15歳。その年齢に比べるとさらに幼く見える小さな背丈。そして、頭から突き出した大きなキツネ耳とお尻から出ている大きな茶栗色の尻尾が彼女をなお幼く見せていた。


 二人の会話に出てきた「跡継ぎ」「親父」というキーワードからお察しだろうが、このマリアと言う人物はセバスティアンの実子(じっし)でマルティーニ家の跡取りであった。

 マリアは若いころに放蕩(ほうとう)していたセバスティアンが旅先で助けた蜈蚣(むかで)の魔物に襲われていたキツネの妖精族の姫君との間に生まれた子だった。


 セバスティアン・マルティーニ。筆頭伯爵家の執務の一切を任されている彼の教養の高さは彼の出自に由来(ゆらい)する。元々、貴族の最下級とはいえ貴族階級である「大騎士」の称号を許された大富豪の家系である。セバスティアンはマルティーニ家で大変高等な教育を受けて育った。その教育は物書き算盤にとどまらず商業、武術に権謀術数(けんぼうじゅっすう)まで含まれるものであった。


 幼いころから優秀だったセバスティアンは将来を期待された少年だったが、彼自身はマルティーニ家の4男坊という事もあり、いずれは実家を追い出され独り立ちする日が来る運命だった。普通は将来に備えて野心を抱くものだが、優秀過ぎるセバスティアンは苦労せずとも出世するだろうことは誰の目にも・・・・そして本人の目にも明らかだった。そのため将来には大して危機感を感じておらず、若いころはむしろその境遇を利用して各地を巡って見聞(けんぶん)を深めると(しょう)して放蕩(ほうとう)し、旅の先々で出会った様々な美女と逢瀬(おうせ)を重ねる日々を送っていた。


 そんなセバスティアンが18歳の時に出会ったのがマリアの母マティアスだった。

 蜈蚣の魔物に村を狙われたキツネの妖精族「スール族」は旅人に助けを求めた。

 助けを求められたセバスティアンは最初は驚きはしたものの、スール達の境遇を哀れに思って蜈蚣の魔物を退治する約束をした。スールは泣いて喜び、現世(うつしよ)から自分たちが住む妖精郷(ようせいきょう)へとセバスティアンを案内した。

 セバスティアンはスールの村で大変な歓迎を受けた。そして、その夜。セバスティアンは家宝の聖剣アンダルシアをもって蜈蚣の魔物を退治したのだった。


 魔物を倒し村を救ったセバスティアンはスールの族長に大変感謝され、族長の屋敷で宴をもって大変な歓迎をされた。その上、蜈蚣の退治をしてくれたお礼として族長は自分の娘であるマティアスを差し出した。

 族長は言った。

「どうか、セバスティアンよ。我が姫の夫となって我らが住む妖精郷に住んではくれまいか?」

 現世の住人であるセバスティアンは、その申し出を聞いた瞬間は正直、「そんなことをいわれてもな・・・俺には帰るべき世界がある。」と考えていた。

 しかし、族長に案内されたマティアスを見た瞬間にその考えは霧散(むさん)した。

 マティアスはあまりにも美しかったのだ。

 そして、親の意思で無理やり人間と結婚させられるマティアスもセバスティアンを見るまでは、結婚に乗り気ではなかった。だが、セバスティアンと同じようにマティアスもまた美少年だったころのセバスティアンを見て心を失うほどの感動を覚えた。

 

 二人は一目会った瞬間に恋に落ちたのだ。

 そしてセバスティアンは妖精郷に住みマティアスと結婚することを決意した。

 それから3年後に子供を作った。

 生まれたのがマリアだった。

 3人は深く愛しあい、とても幸せな日々を送った。

 

 しかし、いくら深く愛しあっていてもセバスティアンは所詮(しょせん)は人間。現世とは時の流れが異なる妖精郷には体が適応できず、やがて妖精郷を去らねばならなくなった。

 そうして悲しい別れのあとに現世に戻ってきたセバスティアンは驚愕(きょうがく)した。妖精郷で過ごした僅かな時間の間に現世では80年の時が流れていたからだ。セバスティアンは慌てて実家に戻ったが、その時にはすでにマルティーニ家は没落(ぼつらく)し、廃絶(はいぜつ)してしまっていた。

 そこからセバスティアンの奮闘が始まる。世界各地の戦争に参加し、名声を上げ、やがてその戦功はドミニクの父親の目に留まり、気に入られて彼の家人となった。そして優れた教養と武術家でもあったセバスティアンは後にドミニクの教育係となった。

 

 しかし、10年後に異変が起きる。セバスティアンの枕下(まくらもと)にマティアスが現れて、マリアを置いていったのだった。

 なんでもマティアスが言うには、マリアは人間とのハーフだからセバスティアンと同じように妖精郷には長く住めない体だという。こうしてマリアはセバスティアンと一緒に暮らすことになる。

 

 ただし、マリアが抱えていた問題は人間とスールのハーフという事だけではなかった。

 妖精でも人間でもないマリアは、男でも女でもなかったのだ。マティアス曰く、「肉体が成熟するにつれ精神も安定して男女どちらかの性別に安定するでしょう。」とのこと。

 マリアはそんな理由があって日によって男女を使い分けている。大人になったときに男女どちらになるか分からないからだ。一応、現時点のマリア自身は女のつもりだが、セバスティアンはマティアスの助言に従ってマリアに男女の両方の教育を行っているのだった。

 

 それは、いつかマリアの性別が確定したとき、その性別がどちらになってもマリアが困らないようにするためのものであった。

 あまりにも厳しい運命。この運命はマリアに()せられた天の試練であり、我が子にそのような重荷を背負わせてしまったセバスティアンが抱える心の十字架であった。


 そんなセバスティアンの心を(いや)してくれるかのようにドミニクは過酷な運命を背負ったマリアを家族同然に受け入れてくれた。自身の事を「お兄様」と呼ばせて、実の弟妹(ていまい)のように可愛がった。

 食事は同じテーブルで同時に行い、マリアが幼いころには本を読んであげたり、遊んであげたり、一緒に風呂に入って洗ってやったりと大変な可愛がりようだった。


 マリアはいつしかそんなドミニクを兄以外の感情で(した)うようになっていた。

 だが、マリアはわかっている。それが過酷な運命を背負う自分には叶わぬ恋だと(あきら)めている。

 ドミニクにはパトリシア以外に似合わない。二人が()()げることを幼いころから二人を見ていたマリア自身が望んでもいた。


 しかし、しかしだ。

 だからこそ、マリアはパトリシアが許せない。腹立たしい。

 それは決して嫉妬心(ジェラシー)からくる憎悪の感情ではない。ドミニクと同じように自分を妹のように可愛がってくれているパトリシアの事をマリアは実の姉のように慕っているからこそ、いつまでたってもくっつかない二人にやきもきするし、さっさとドミニクを誘惑しないパトリシアの不甲斐なさが女として歯がゆすぎるのだ。


(まったく、あのアホお姫様め~~~っ!!

 私が男だったらむしゃぶりつきたくなるだろう綺麗な体をしておいて、なんでさっさと誘惑しないのよっ!!

 花の命は短いのよっ! 乳首だっていつまでもバラの様なピンクのままじゃいられないんだからねっ!!

 これじゃパトリシアのために引き下がっている私がバカみたいじゃないっ!!

 可哀想すぎるでしょうがっ!! わ・た・し・がっ!!)


 考えれば考えるほど歯がゆくて苛立(いらだ)たしいし、腹立たしい。

 もはや我慢の限界に達したマリアはセバスティアンに耳打ちをする。


「親父。これはあの二人をくっつけるこれ以上ないチャンスだ。

 俺に任せてくれないか? 必ずあの二人をくっつけて見せるぜ。」

「・・・・本当か? どんな作戦があるんだ?」


 マリアの言葉にセバスティアンは目をむいた。若いころはその美貌と名声で数多くの女性を(とりこ)にしたセバスティアンだ。女性の心理には敏感である。当然、自分の娘が抱いている(はかな)くも切ない胸の内も察している。そして、同時にマリアがパトリシアを慕っていることも知っている。

 だから、マリアがこんなことを言い出したことに目をむいて驚き、同時にマリアの情緒(じょうちょ)が心配にもなった。


 しかし、マリアはセバスティアンが抱えた不安は杞憂(きゆう)であることを証明するかのように自信たっぷりの笑みを浮かべて言った。


「私はこれからしばらくの間、女の子になります。

 そしてパトリシア様を押して押して押しまくるの。彼女の女子力を全動員してお兄様を誘惑するように私が導くの。そうすれば、いくらお兄様だって男。たまらず手をお出しになりますわ。

 その瞬間に私が部屋に押し込み、既成事実の瞬間を押さえてあげるのっ!!

 どうかしらっ!? ねぇ、お父様っ! ステキな作戦じゃないっ!?」


 マリアの作戦を聞いてセバスティアンは軽い眩暈(めまい)がした。

(こ、これが年頃の少女の発想か?

 何と浅はかで品のない事を・・・・育て方を間違ったかな?)

 セバスティアンは我が子の痛い発言に頭を抱えたくなったが、しかし・・・・すぐにそれが妙案(みょうあん)かもしれないと考え直した。

(い、いや・・・・。もう何年もくっつきそうでくっつかない二人の事だ。

 マリアの言う通り、多少強引な手段でも取らなければ進展するわけがないのかもしれない・・・・)

 

 セバスティアンはしばらく「うーん」と(うな)って考えたが、考えたところで(らち)が明かない。行動しなくては可否を決められないことだと諦めた。

(ええいっ!! 良い方向に転ぶか、悪い方向に転ぶか。それは悩んでも答えなど出ない事だ。

 所詮(しょせん)、結果論にしかなりえない。

 失敗して ”ああすればよかった ”、成功して ”やってよかった ”、と思う事も全ては行動一つで決まること。今、その決断の時であるならば、娘に運命を(たく)してみるのもいいかもしれない。)


 そうしてセバスティアンは決意する。マリアをじっと見つめて「・・・・大丈夫か?」と尋ねて確認した。これは作戦の結果だけの問題ではない。ドミニクに対し恋慕(れんぼ)の情を抱く我が娘の情緒を心配しての質問でもあった。

 しかし、それこそ杞憂(きゆう)である。セバスティアンの娘、マリア・マルティーニは変わらず揺らがぬ自信に満ちた表情でもって答えた。


「任せてっ! お父様っ!!

 私、ちゃんとやり遂げて見せるもんっ!!」 

 一抹(いちまつ)の不安を抱えるセバスティアンは顔を引きつらせた苦笑いの表情で承諾(しょうだく)の意を伝えるために大きく(うなず)くのだった。

 そして、そんな父親の心配とは裏腹にマリアは心の中で(覚悟なさってお兄様っ!! 私がパトリシアの魅力で骨抜きにして見せるんだからっ!!)と、ガッツポーズを取るのだった。



 セバスティアンからパトリシアを誘導する作戦の了承を得たマリアはすぐに女性物のドレスに着替える。それはドミニクにプレゼントされた高級な衣装だった。

 フリルがたくさんついたドレスはピンクに統一されている上に、局部が引き締められてマリアが持つ女性らしい曲線を際立たせるものだった。もちろん、まだ未成熟なマリアの肉体では、乳房もわずかな(ふく)らみしかもっていないし、腰はドレスの内に生地を足し入れなければならないほど小さな臀部(でんぶ)である。・・・・・これはこれで男性を興奮させるのだが・・・・それでもドレスを着たマリアはレディの様であった。

 マリアはその姿のまま堂々とパトリシアの部屋にノックもせずに入っていく。


 部屋の中ではパトリシアは着替えの最中であったので、突然の訪問者に驚き悲鳴を上げた。

「きゃあっ!! ・・・て、マリアっ!?

 もうっ!! ノックくらいしなさいよっ! 女の子の時は淑女(しゅくじょ)らしくなさいっ!!」

 恨み言を言いながら、脱いだ服の生地を抱えて肌を隠したパトリシアが恨みごとと説教をする。だが、マリアは気心知ったパトリシアに怒られてもシレっとした表情で悪びれる様子はない。

「あら、ごめんなさい。でも大丈夫よ。私、半分は女の子だから。」

「同性でも駄目ですっ!」

 パトリシアは訪問者がマリアと知って安心して肌を見せる。

 パトリシアはマリアが半分男であっても気にも留めない。何故なら、パトリシアはマリアの肉体が女性らしい部分が多い事を知っているし、彼女の精神面が女性部分が多い事を知っているからだ。


 だが、それゆえにマリアがパトリシアの美しい肉体に憧れる思い、嫉妬する心を認識できないでいた。

 マリアは見た。

 下着部分以外は露出しているパトリシアの肌のきめ細かさを。

 程よく鍛えられていながらも骨格は女性らしさを失わない罪深い色気を(たた)えたボディラインを。

「・・・・きれい・・・」

 マリアは思わず吸い付くようにパトリシアに抱き着き、胸に顔をうずめる。

「・・・・・パトリシア様。本当に綺麗よ。ステキな肉体。憧れちゃう。

 きっと世の殿方は私のような子供の体よりもパトリシア様の様な体に恋い焦がれるのでしょうね。」

 マリアはそう言いながらパトリシアの肌をさするようにしてまさぐった。

 途端(とたん)にぞぞぞっ!!と、パトリシアの背筋に寒気が走る。

「ダメよ、マリア。(わたくし)にそういう趣味はありませんのっ!」

 パトリシアはそう言いながらマリアの両手を振りほどく。鍛え上げられた女騎士の力の前に少女マリアは無力だった。


(ああ・・・カッコいい。)

 (たくま)しい女騎士の力は同性であるマリアに憧れを抱かせた。思わずうっとりと姉同然に慕っているはずのパトリシアを見つめてしまう。

 多くの後輩女子から憧れの目で見られることに慣れているパトリシアは少し困ったように笑いながらもマリアの髪を撫でてやった。マリアは嬉しそうに目を細めると喉を鳴らしながら尻尾を振って喜んだ。


「それで? マリア。何か御用があるのかしら?」

 マリアからのセクハラから解放されたパトリシアの質問はマリアを正気に戻した。

 慌てて姿勢を正すとドレスの端を両手で掴み上げて深々とお辞儀をする。

「パトリシア様。当家にようこそ。

 ご滞在の内は私がパトリシア様の一切の世話をするようにセバスティアンに命じられました。

 なんなりとお申し付けくださいませ。」

 信頼するセバスティアンの指示と聞いてパトリシアはなんの疑いもなく妹同然に可愛がっているマリアがずっとそばにいてくれると知って喜んだ。

「あら? セバスティアンが?

 それはとても助かるわ。ねぇ、マリア。私、お夕飯の前にお風呂に入りたいのだけどいいかしら?」

 パトリシアが何の疑いも抱かずに自分を信じてくれたことを察知したマリアはお辞儀の姿勢のまま床を見つめていやらしく笑った。


(お風呂ですって? ちょうどいいわ。

 お兄様に献上する前にせいぜい、綺麗になっていただかないとね・・・・)








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