side01 自由と命の天秤
匠真が死んだら私も―――
彼女は昨日、そう言った。
その言葉の続きとなるであろう言葉は、ニュアンスは違えど、『足切りに遭う』だろう。
つまり、彼女は殺される可能性がある。
ならば完全に守るか、餌にするか。
こういう時、会長はなんていうだろうか―――いや、聞かなくてもわかるな。絶対に守るべきだとのたまうのだろうな。
昨日の女―――美晴という生徒は、現在俺のベッドで寝ている。なんだかんだ、学校内での保護に意味を感じなかった俺は、先生に見つかる前に早退して、一晩を明かした。
この状況―――男女仲を疑われそうなものだが……そんなものは馬鹿な連中しか想像しないか。
彼女は昨日昼下がりからずっと昏睡状態になっており、息はあるものの意識は戻ってこない。
まあ、所詮落下時のショックで寝ているだけだ。遅くとも数日たてば腹が減って起きるだろう。起きなきゃ、俺が栄養剤を流し込むからそれでいい。
「ん……」
そんなことを思った矢先、彼女が目を覚ました。
「大丈夫か?」
「んぅ……あれぇ、ここどこ?」
さすがに寝起きということもあって、彼女の意識ははっきりとしていなかった。
しかし、だんだんと状況を理解していき、自分が本当に知らない場所で寝ていることを理解する。そのうえ、そんな知らない場所に一緒にいるのは俺だ。
当人にそんな覚えがなくても不安になるだろう。
彼女は、ベッドをめくり、着せられた服をまさぐって乱れていないかの確認をとった。
「そんなにキモオタとやらに抱かれるのが嫌か?安心しろ、お前に微塵の興味もない」
「それ、失礼なんですけど……まあいいや、服とかも乱れてる様子も―――」
そこで彼女の言葉が止まった。気づいてしまったのだろう。
服は乱れていないとはいえ、自分の着ている服が見らぬもの―――しかも、下着がすべて脱がされていることに。
それを感づいた俺は、彼女に聞かれるよりも早く答える。
「汚い服で俺のパーソナルスペースに入るのは許さない。だから着替えさせた」
「私、たぶん今まで寝てたよね?」
「俺がやった。看護師が無作為に興奮すると思うか?そういうことだ」
「あ、あんたはそうでも私は……!」
「不特定多数の前で脱いでるのに、たかだか俺に見られた程度でなんだ。うるさいぞ」
彼女は顔を真っ赤にして、無言で抗議する。
他の男となにが違うんだ?好きでも奴も、その中にもいただろうに。
わからないな。そう言った感情の起源が。
こういった輩のせいでわからない。なにが楽しいのかも、全部だ。
「ねえ、教えてくれない?」
「なにをだ?」
「匠真たちが使ってたあの力のこと……」
「知ってどうする」
「わかんないよ。でも、私見ちゃったから―――もう、第三者じゃいられない」
その言葉は簡単に口にできる割に、どれだけ重い言葉かわかっていないようだった。
いや、もしかしたら―――
「知れば地獄を見ることになる」
「今もそうだよ……?恋人だった人が死んで、その人に殺されかけて……」
「知ることで、普通の生活にすら戻れないことも、世界に絶望することもある。それでも知りたいか?」
「うん……!」
彼女を顔を見ると、明らかに覚悟が満ちていた。
一度死を経験したからか?まあいい。確かに彼女言う通り、もうこいつは他人でいられない。
「おそらくこれからお前を巻き込むことになる。いけ好かないが一般人を巻き込むことは不本意だが仕方ない。そして、先に謝っておこう。お前を危険に巻き込むことに」
俺はそう言って、彼女に指輪を渡す。
「これは……?」
「発信機だ。基本的に位置情報は常に俺に送られる」
「なんでそんなものを……」
「足切りが怖いんだろう?殺されるかもしれないんだろう?なら守ってやる」
「っ……あ、ありがとう!」
彼女は感激の表情を見せて、右手の薬指に装着する。
「これから話すことは、すべてに現実に起きること。または、起きたことだ」
そう言って、俺は今回の件の概要を話し始める。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
人は遠からず滅ぶ。そんな時代の前に、人を神に近い存在にしようとする者たちがいた。
神にさえなれば、全知全能の存在になれば、人は生存できる。そんな高尚な目的のために、あらゆる人間が犠牲になった。
犠牲を重ねていく中で、ある技術が誕生する。
それがとあるエネルギーをネット回線の中を走らせることができるようになる技術だ。
このエネルギーを使えば、どこにいてもネットさえつながれば強力な恩恵を受けることができる。
例えば、体に流し込み、全身に巡らせれば、人知を超えた力を獲得できる。
例えば、全身に纏うようにエネルギーを巡らせれば、己を守る体へと変えてくれる。
それを単純化―――または一般化されたものが、今回の問題を起こしている超能力アプリと呼ばれるもの。
前述の通り、アプリの起動と同時にエネルギーが素体に流れ込む。それによって、俺の言うリアクトに人間が成り果てる。
ただ、今回の問題には一切関係ない。
そして、最近頻発している連続無差別殺人について。
どの事件においても、円形の破壊痕がついており、手口が一緒だからと同一人物のい犯行と決められていた。
ただ、そんな破壊痕があっても、どんな道具を使ったのかそう言った犯行の手口が証明できず、おそらく捕まっても立件ができないだろう。
リアクトの厄介なところだ。人知を超えているゆえに、通常の捜査では事象を確認できても法で裁けない。
ならば、俺がやるしかない。
この世界において、唯一奴らを裁くことのできる力と権利を持っている俺が。
だが今回はかなり面倒な状況になっている。
相手は集団的に問題を起こしており、足切りや集団カテゴリでの情報操作をうまく利用し、俺をかく乱してくる。こういう時、一人であることに少々厳しさを感じてしまう。
だが尻尾はつかんでいる。
今回の首謀者は、現在通っている高校にいる可能性が高い。これ以上、奴がエネルギーを完全覚醒させるまでに殺したいところだ。
「そのために俺はお前を使う。相応の対価は払おう―――だが、これはお前の行動が招いた結果でもある。少なくとも、怪力の能力者の排除をするまで、お前に自由はあると思うなよ?」
俺はそう言って、美晴を指さした。
PVは付いてるけどブックマークは付かない……
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