side02 導き出してくれた人
『お前が誰かだなんて関係ないだろ。今、お前がここにいることがダメなんだ。なぜそれがわからない!』
『僕はここにいなきゃ……そうすれば、母さんも父さんも、兄弟姉妹だっているかもしれない!僕を迎えに来てくれるんだ……』
『本当に聞きわけがないな!もう、お前の求めるものが現れることはこの先ありえない』
『そんなわけない!僕は待ち続けるんだ。この地獄から助け出してくれる家族を……』
『この馬鹿が!』
僕の前に立って怒鳴ってくる男を僕は知らない。
いや、正確には顔だけは知っている。だが、僕はわざわざ有象無象の名前は覚えない主義だ。まあ、そもそも、ここにいて僕たちが名前で呼ばれることはない。
知らないのも当然だ。
しかし、なぜか僕の居場所は赤く燃え上がり、内部の人間たちは混乱していた。
犯人は十中八九目の前の男だろう。でなければ、僕に対してここを出ようだなんていわないはずだ。
彼の言葉に僕が答えることはない。
『僕の居場所は―――僕で決める……』
『なら、この場所はお前の決めた場所なのか?』
『……違う。でも、ここが僕に与えられた場所。ここ以外での僕に意志などない』
『さっきも言ったが、俺がここを連れ出してやる。この世界だって変えてやる』
『無理だよ。奴らは日本を中心に、活動拠点は多岐にわたる。奴らを掃討するだなんて土台無理な話だ。それに、世界を変えるだなんて無理だよ』
僕の言葉に、彼はそれは違うと言ってくる。
彼がなにを根拠に言っているのかがわからないが、興味を示さないのが一番だ。
『俺とお前ならできる』
『なにを根拠に……』
『そんなことは考えなくてもいいんだ。とにかく俺の手をとれ』
『なんでそんなに僕に―――』
なぜこだわるんだと言おうとしたが、それと同時に彼の手に触れてしまったことで言葉が止まってしまった。
それと同時に、彼のイメージが僕に流れ込んでくる。
そこで理解したのだ。彼がどうして僕にこだわるのか。なぜ彼がなのか。
『君が選ばれていたんだね』
『そういうことにはなる。もう、これ以上の言葉はいらないな?』
『ああ、僕を頼むよ。君の思惑の通りに、この世界に神を―――いや、新たなる世界の王を生み出すために』
『すべては王のために』
『それが僕たちの約束だ』
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僕は目を覚ました。
またあの夢だよとは思うが、悪い気分ではない。まさに僕の生きる意味だ。
「だがこうも同じ夢ばかりを見ていると飽きるな……」
そうつぶやくが、それにこたえるものは誰もいない。
とりあえず、時刻が7時を回っているので僕はサプリを飲んで学校の制服の袖に腕を通した。
今日も僕の友人がお弁当を作ってくれるのだろう。
正直、味がわからないので、そういった感想を求められているのではないのかと思ってしまい、なんだかという気分になる。
今まではそんなことはなかったのにだ。
昔は、目の前で誰が傷つき、誰が死のうとなにも思わなかった。
僕の今の気持ちに整理をつけないといけない気がする。来るべき日に、僕はどうにかなってしまいそうだ。
今は特に問題もなく過ごせているし、誰にも悟られずに対処もできている。しかし、来る日に必ず僕は彼女から拒絶されるだろう。人は人ならざるものを拒むから。
だから期待してはいけないんだ。
本の中のように、誰かと結婚できるなどと、人並みの幸せなど得られると。それは必ず幻想で終わることになる。
僕は幸せになってはいけない。僕自身の罪にケリをつけるまでは。
「まあ、そんなときは一生訪れないだろうね。人が人である限り、かな?」
少し自嘲気味に呟いて玄関の扉を開ける。
外の空は僕の悩みなどないかのように綺麗で雄大に広がっている。僕の悩みがちっぽけだとは思わない。しかし、この一瞬だけは忘れていられそうだ。
登校は、一人暮らしながら数駅離れた所に住んでいる。
あまり学校に近すぎると、いいように使われると本で読んだから少し離れた場所にしたのだが、よく考えれば僕にこれと言った友人はいないし、そもそもちゃんと調べたら一人暮らしの家に乗り込んでくるのは大概大学生以上ということだった。
高校では基本が実家暮らし。そもそも、学校に何人が一人暮らしをしているのか。少々気になることでもある。
そんなこんなで僕は高校に到着した。すると、珍しく遭遇する相手がいた。
「おはよう、零蘭君」
「ああ、おはよう―――紀里谷花音」
いつものように教室でするような挨拶を昇降口でする。
「ここで零蘭君に会うのって初めてじゃない?」
「確かに―――僕はあまり時間に余裕を持ってこないからね。となると、君は寝坊でもしたのかい?」
「ううん、今日のお弁当作りに苦戦しちゃって少しだけ遅くなっちゃった」
「いつもすまないね」
「大丈夫だよ。一人分も二人分もかわら―――」
「それは同じメニューだから負担にならないんだろう?だから、ここは僕の感謝を受け取ってくれたまえ」
「い、いいよ。私が好きでやってることだし」
好き……か。好きだとなんでもできるのだろうか?
「お礼はいつかさせてくれ。今までのことを考えたら、いつか大きな貸しとして返したい」
「そんなの気にしなくていいよ。一緒に趣味の話ができる人ができただけでうれしいんだから―――でも強いて言うなら、これからもこのまま本のことについて話していきたいな」
彼女は優しい。どこまでも底抜けにという感じだ。だが、それが非常にありがたい。
対価を求めずに僕と話をすることを望んでくれている。多分僕は今、彼女のいる生活に心地よさを感じている。
僕は約束のために生き、戦う。
しかし、彼女に何か危険が及ぶのだとすれば、僕と手自分の制御がきかないのかもしれない。
「……どうしたの?」
「なんでもない」
「えー?なにか面白い本でも見つけたの?」
「違うさ―――僕は君のためなら、なんでもしてしまいそうだ」
「ふぇっ!?―――それってどういう……?」
僕は変なことを言ったつもりはないが、彼女は顔を真っ赤にしてしまう。
やはり彼女は面白い。傍にいればいるほど、楽しいなにかを見つけられそうだ。
僕はあの時誓った。
僕の友人は自分の手で守る。たとえ、弱くても、果てしなく強くても……だ。




