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潮騒が灼く  作者: やう
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2.光芒

 誰かの話し声が聞こえる。

「…ラ、お前の嫁ぎ先が決まったぞ。カルサイト家のご子息殿だ。上手くやりなさい。」

「まあ!これ以上ないお相手ではないですか。」

「我がアンダリュサイト家もこれで貴族の後ろ盾ができる。期待しているぞ。」

「ご子息様といえばまだお若かったですよね」

「御歳17になられるとか…」

 父とメイドの会話だ。この時は、まだカルサイト様にお会いしたこともなかったのに。急に婚姻だなんて驚いた。みんな、他人事だと思って。

「…はい。お父様、素晴らしいご縁を有難うございます。この家の娘として誇りを持って努めますね」

「うむ。婚儀はごカルサイト殿がご成人なさってから行う。あと3年…」

 今になって思えば、この猶予は短すぎた。


 ーーカルサイト殿も成人なされた。婚姻の前に話をしてこい。

 ーーまだ冷えるだろう。これを飲むといい、体が温まる。

 お父様、何をしているの!

 ーーブロッサムパールと名付けたのだ。


「お嬢様、お降りください!!」


<><>


 薄らとした光に目を開く。

 白いカーテンの隙間から覗く光は、雲の隙間から注ぐ日の光のようで綺麗だ。

 室内は白色で統一されており、女が寝転んでいるベッドは普段使用している自室のものより幾分か硬い。

(ここ、どこだろう…。あ、カルサイト様のお屋敷…)

 しかし伯爵家の部屋にしては作りがあまりにも簡素だ。

 不思議に思いながらもカーテンを開けるために上体を起こそうとしたが、体が軋み、思うように動かない。

 のろのろと体を伸ばしていると、不意に扉をノックをする音が聞こえた。返事をすべきか逡巡しているうちに、ノックの主は扉を遠慮なく開いた。

「アゲートさん、失礼します。…あら、起きていたんですか」

 入ってきたのは若い女性だ。白い、清潔感のある白衣を着ている。

「アゲート?あの、ここは?」

「ここは病院ですよ。あなた、おとといの夜に運ばれたんです。覚えていますか?」

 そう言われて記憶を探る。見知らぬ土地で暗い雨の中、体調も悪く、途方に暮れていたことを思い出す。

「あ…。ありがとうございます。」

「いいえ。気分はいかがですか?」

「良い、と思います。」

「それはよかった。では、食事をお持ちしますね。その後検査をして、異常がなければ退院となります」

 そう言って看護師の女性はいくつか体調に関する質問をしてから、立ち去った。

 目が覚めたばかりでぼんやりとしていた意識が、段々と鮮明になる。

 看護師は先ほど、病院に運ばれたのは一昨日、と言った。それではあの日から丸一日以上眠っていたことになる。

 そして、虚ろな意識の中で助けを求めたひと。あの男性が病院に連れて行ってほしいと言った彼女の願いを叶えてくれたのだろう。

 見知らぬ女のために雨の中話を聞いてくれた男のことを思うと心が温かくなった。

 暗くて視界が悪くはっきりとは見えなかったが、男の透き通るような黒色の瞳を思い出す。

(助けてくれたのが、あの人でよかった)

 今思い返すとかなり切迫した状態だったとは言え、見ず知らずの人間、ましてや男性に助けを求めるなど正気を疑われるような行為だった。

(でも…何故か、あの時は男性に声をかけなきゃいけないと思ってて…。偶然だったけど)

 言い知れぬ不安感に白い布団を握りしめる。

(それに…私はカルサイト様の屋敷へ向かう途中だった。でもアイボリーとコーラルが途中で…)

 ノックの音に我にかえる。次いで、「アゲートさん、失礼しますよ」と言いながら先ほどの看護師が食事を持って入室してきた。先ほどから「アゲート」と呼ばれるが、誰の名前だろうか。

 初めて味わう風味に驚きつつも食事を終え、検査を受けたのち、無事退院となった。

 起きた時から抱いている疑問は解消されることはなかったが。

「迎えいらっしゃいましたよ」

 迎え?家のものだろうか。迷惑をかけたことを、謝らなければ…。そう思い顔を上げた彼女の前には、陽の光の下では初めて見る、見覚えのある男が立っていた。

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