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潮騒が灼く  作者: やう
11/13

11.港町

「どうですか?」

「悪くねえんじゃねえの」

「海の色も捨て難いのですが…」

「あんたは本当に海が好きだな」

 昨日に引き続きアゲートに泣かされたその後、陽が真上から少し傾いた頃、オリエーラとアゲートはトレルの呉服店にやってきていた。

 オリエーラは現在、一張羅となってしまった白いワンピースの上からアゲートの上着を羽織ったチグハグな格好である。目にはサングラスをかけているため、怪しさ満載だった。

 服が一着だと不便だろうというアゲートの好意に甘えてオリエーラのための服を買いに来たのだ。

 通りに面した店内に所狭しと並べられた色とりどりの服たちはオリエーラの初めて見る型、色彩のもので何が妥当かわからなかったため、気になった物をアゲートに見せて選んでもらっている。

「これは、短い…ズボン、ですか?」

「ああ。短パンだな」

「タンパン…。アゲートさんも履きますか?」

「それ、女物」

「えっ!ではこの上に履くものは…」

「下はそれ一枚だけ履くんだよ」

「な、なんて破廉恥な……」

「買うか?」

 ごくっと唾を飲んだオリエーラに向かってアゲートはとんでもないことを言い出す。

「い、いえ!足を出して歩くなど、はしたないので遠慮…あ、では此方の少し長めのタンパンを」

「………ダサ」

「………。ではあちらのワンピースに……」

「興味あるなら買えば?短パン」

「え…………」

「試着してみろよ」

「え」

 オリエーラは太腿も隠れないであろう短いズボンと他にも気になっていた数着を渡され、試着室へと案内される。

「ほら。着替えてこいよ」

「で、ですが、着方が分からず………。手伝っ」

「無理」

「少し待ってろ」とため息と共にそう言ってアゲートは奥にいた女性の店員を呼んできた。

「試着、手伝ってやってくれませんか」

「は〜い」

 女性の店員は黒髪を頭の上で束ね、白いシャツに黒いショートパンツという格好で出てきた。

 成程、タンパンの下からスラリと伸びる脚が健康的で爽やかに見える。温暖で活気のあるトレルの街並みにはぴったりだ。

「おい」と声をかけられて振り向く。店員を不躾に見過ぎてしまった、と反省して慌てて振り向くとアゲートが屈んでオリエーラの耳元に手をやり、呟く。

「…邪魔だろうがサングラスは外さないでくれ」

「どうしてですか?」

「……どうしても」

 眉を寄せた表情でそう言われ、分かったと頷くと「サンキュ」と呟いてアゲートは屈んでいた背を伸ばし、壁に背をつけて腕を組んだ。待っていてくれるらしい。

「よろしくお願いします」

 そう言ってオリエーラは店員と共に試着室へと入った。


「えー!お客さん色白っ!」

「そうでしょうか…?」

「うんうん、ウチこんなに日焼けしてない人見たことないわ〜」

 試着室でアゲートから借りている上着を脱ぐと途端に店員が驚いた顔をして詰め寄ってきた。

「え〜!白っ!細っ!肌もめっちゃ綺麗じゃん!羨まし〜!ウチ自分のスタイル気に入ってんだけどお客さんも超魅力的だね〜。この服とか、うーん何着ても似合うね!」

 店員はオリエーラをマジマジと見つめては感動した様子であれこれと感想を言う。人に見られることに慣れていないオリエーラは戸惑った。

「あ、あの、私、こういった服を着たことがなくて…。着方を教えていただけますか?」

「えっマジ?良いよ良いよ、手伝うよ!でも珍しいね」

「その、国外から来まして…」

「マジ〜?!外国の人だからこんなに日焼けしてないんだ!オススメの日焼け止め薬とかある?」

「あ、それでしたら”アンドレート製薬”の物を使っています」

「え、超良いやつじゃん!ウチもそれにしよっかな〜。あっ、これはボタンだからこことここを留めて…こっちを開けるとオシャレ」

 ノリの軽い店員はあれこれとオリエーラに話しかけながら手際よく着付けを手伝ってくれる。着替えの邪魔になるためサングラスを外さないかと問われたが断り、掛けたまま着替えを行った。確かに邪魔ではあるが仕方がない。

「お客さん、外のイケメンはカレシ?」

「彼っ!いえ、恩人です」

「なになに、訳アリ〜?」

「ふふっ、内緒です」

 店員に勘違いされて否定する。アゲートにはもっと素敵な人が居るだろう。しかしそう思うとなんだか胸の辺りが重くなる。

「……?」

「へえ〜?てかショーパン超似合うんだけど!やだ!足白〜!綺麗〜!」

「そうでしょうか…?」

「うんうん、良いね。サイズもぴったりだしこのまま履いて帰ったら?」

「そ、れはまだ私にはハードルが高いかと…」

「そう?まあ日焼けしたら大変だもんね。じゃあ私のニ推しはこれ!どう?」

「私も気に入っています」

「OK〜!1人で着れる?」

「はい。もう大丈夫です。手伝ってくださってありがとうございました」

「ううん〜!仕事だから当然!それに私もお客さんみたいな可愛いヒト見れて役得だったし?」

「ふふ、私も、とても親切なあなたに会えて嬉しかったです」

「可愛いー!ありがと!良かったらまた来てね」

「はい、是非」

 オリエーラは試着で店員に似合うとお墨付きをもらった海の色のワンピースを着て試着室の外へ出た。待っていたアゲートと目線がかち合う。

「お待たせしました」

「ん。買う物ある?」

「はい。何着かあります。あの、支払いをしてくるので外で待っていてくださいますか?」

「え、俺払うけど」

「いえ、その…。少々他にも買いたいものがありまして…」

「ふーん?ま、良いけど。ならこれやるから払ってこい。足りない分は出せるか?」

「こ、こんなにいただけません!」

「まあ余ったら返してくれ」

「……ありがとうございます。では…」

「ん」

 相変わらず親切なアゲートの言葉に甘えてワンピースなどを数着、そして必要になるだろう下着類と、遂に最後まで気になっていたショートパンツを買ってしまった。

 諸々恥ずかしくてアゲートには買っているところを見せられないため、会計を自分でするよう伝えたのだ。

 その後、出国手続きを行うため役場に行き、手慣れているアゲートに教えられながら申請書類を提出した。

「ま、これで問題なければ一月位で受理されてセンダルクに帰れるだろ」

「はい、ありがとうございました」

「飯でも食うか?」

「はい!是非!」

 オリエーラはアゲートの作る食事でトレルの料理が美味だと知っているため喜ぶ。

 昨日今日とアゲートがオリエーラに遠慮しないよう言い含めていたお陰で、アゲートの言葉に素直に感謝できるようになっていた。

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