魔物学園の文化祭で歌を君に
「さあ、文化祭の最後を飾るのは、3ピースバンド『フェアリーテール』です」
ここは多くの【魔物】が共存する世界。
魔物達は15才になると全寮制の学校で共同生活をする。
エルフのアイクは、同じ里で育った人魚の女の子レラに密かに好意を寄せていた。
別々の学校に入学した後も手紙で連絡を取り合ってきた。
二つの学園の交流の機会、合同文化祭が始まる少し前にレラからアイクへの手紙に記されていた。
『軽音部のライブに出るから必ず見に来て』
アイクは手紙の通り、ステージを客席から眺めていた。
「あの子、レラなのか」
スポットライトの先には鮮やかな衣装をまとい、二本の足で立つレラがいる。人魚は行事の際、魔法で人間の姿にしてもらえる。それでも魔物界の種族の中で最も美しいとされる人魚の歌声は健在だ。
雪女のカンナによる精密なリズムを刻むドラム。魔女のエマによる重厚な低音を放つベース。そしてレラの軽快なギターと、遠くからでもよく通る歌声。だが――それだけではない。
「うお、なんだこれ?」
「きれー!」
レラの歌声に呼応してステージに真っ白の神殿が現れた。極彩色の魚達が悠々と泳ぎ、頭上から蒼白い光の帯が降り注ぐ。観客達は深海の都市に迷い込んだような感覚に包まれる。人魚の歌声には聞いた者に美しい幻を見せる力がある。
「皆さんこんばんは、フェアリーテールです!」
一曲歌い終えたレラがMCを始めた。
「皆さんに謝らないといけません。今日の歌は、皆さんに向けた歌ではありません」
予想外の発言に観客がざわつく。
「私には、――好きな人がいます! その子は幼馴染で、同じ里で育って、いつも私の歌を笑顔で聞いてくれて、彼を振り向かせたくて、彼のために歌いました」
「――!」
客席のアイクが目を見開いた瞬間、視界が真っ暗になった!
暗闇が晴れていく。目に飛び込んだのは観客を背にしたレラだった。
「レラちゃん、これでいい?」
「うん、ありがと」
魔女のエマによる瞬間移動の魔法でステージ上に招かれたのだ。
「小さな頃からずっと好きでした。これからもずっと、アイクと一緒にいたい」
「……っ!」
突然の告白にアイクは、――――そっとレラの手を握り頷く。もはや二人の間に言葉などいらなかった。
会場は歓声に包まれる。その後、ラストの一曲は祝福のムードの中、大いに盛り上がったという。
文化放送の「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」の
「タイトルは面白そう」のコーナーで読まれたネタを
ブラッシュアップして生まれたこの短編小説
文化祭というキーワードでまっ先に思いついたのが
軽音部のライブでした
けいおん然り、ぼっち・ざ・ろっく然り
何年か前に見た声優さんのライブ
二つの学校の合同学園祭という設定を見て思いつきました
活動報告はのちほど……