第八十六話 刻印の意味
一日目のお祭りが終わり、少しだけ街は静かになった。
私はベッドの上で横になっていたのだが、なかなか眠気が訪れない。
「眠れない……。図書室に行ってみようかな。」
図書室はこの前案内してもらって気になっていた。
きっと珍しい書物もあるかもしれないし、読んでいたらきっと眠くなるはず。
私は軽く服装を整えてからそっと部屋から出る。
「なんかちょっと不気味。」
窓の外の景色は相変わらず闇が広がっていて大きな月が夜空に浮かんでいる。
お城の中にはベネディッタ様が使役しているという亡霊がふらふらと壁から壁へと消えていく……いきなり現れるので毎回びっくりしてしまう。
「……足音??こっちに近づいてくる……。」
私は後ろの方から聞こえてくる足音から逃げるように図書室へ急ぐ。
そのうち足音が違う方向に行くだろうと思っていたが、私ではない足音はずっと追いかけてくる。
無意識に早歩きになっていたようでいつの間にか図書室へと着いた。
「足音はもうしない……よね。私の思い込み……ひっ!!」
一瞬後ろを振り向いたがなにもいないしなにも聞こえない……安心したのも束の間、私が振り向いた方とは逆の方から肩を叩かれる。
私は肩を震わせてその手が置いてある方に恐る恐る顔を向けた……そこには、優しく微笑むラン様がいた。
「すみません、驚かせてしまいましたか??」
「ラ、ラン様!!びっくりしました……。」
「ふふふ、申し訳ありません。隣の部屋からベッドを抜け出した悪い子の足音が聞こえたので追いかけてきたのですよ。」
「……ごめんなさい。でも、なかなか眠れなくって。」
「では私が本を読み聞かせてあげます。さぁ、いらっしゃい。」
ラン様は図書室のドアを開けると、私の手を引いて沢山ある本棚の間を歩いていく。
どの本も年季が入っていて、色褪せていたり背表紙の文字がかすれている。
「そういえば、フィカート様が持っていた予言書ってここにあるんでしょうか??……たしか、フィカート様の死後はこの教会が所持しているんですよね。」
「それなら私もベネディッタに言って見せてもらいましたよ。たしかこの辺に……ああ、ありました。」
奥の方の本棚に行くと、ラン様が一冊の本を手に取った。
黒い表紙のそれは所々ページが破れたり、欠けたりしている……。
近くにあった出窓の所に私達は腰かけ、ラン様が膝の上に乗せた本をゆっくりめくった。
「ここが亡くなった聖女とクロア達の名前が書かれているページです。」
「……あの、本当にこれは”魔王を倒す勇者”ついて書かれているんでしょうか??」
「どうしてそう思うんです??」
「どちらかというと、”生贄”のような書き方に感じます。」
「リヴィ……まさかこの字が読めるんですか??」
「え??ラン様も読めるんですよね??…ここに”女神復活の儀式”と書いてあります。」
本の中の文字は読みにくい……けど、なんとなく意味が分かる。
てっきり今の言語と似たような部分があると思い理解していたのだが、ラン様は驚いたように私に言った。
「リヴィ、この文字は古代文字を熟知している者にしか解読はできないはずです。私も複雑すぎて解読できないものもあるんですよ。」
「え??私、古代文字なんて読めないはずなのにどうして……。」
「……他にはなんて書いてあるかわかりますか??」
「えっと……”一番最初に生まれた女神の寿命が燃え尽きる。よって新しい器を用意するように”って書いてあります。」
「今すぐベネディッタを叩き起こしに行きますよ。」
「え??ええ??」
私はラン様に強く手を引かれて図書室からでると、お城の最上階のベネディッタ様のお部屋へとやってきた。
強くドアを叩いてしばらくすると、眠そうに目をこすっているベネディッタ様が顔を覗かせる。
「もう……こんな時間にどうしたの……。」
「ベネディッタ、大変です。リヴィが古代文字を読めるみたいなんです。」
「うん……??詳しく聞かせて……。」
ベネディッタ様は私達をお部屋に入れてくれた。
ソファに座り、ラン様が先ほどのことをベネディッタ様に話す……だが、余り驚いた様子はない。
むしろ、私が古代文字を読めることを納得しているようだった。
「もしかしてだけど……リヴィちゃんは女神様の現身なんじゃないかな……。だから、女神様が使ってた古代文字が読めるようになってる……。」
「どうしてそれを早く教えてくれなかったんです??」
「言ったら……ランちゃんがまた怒りそうだなぁ……って思って……。」
「どういう意味ですか。」
「リヴィちゃんの背中にあったんだ……。創造神の女神の刻印……。」
「背中??どうして貴方が知って……ああ、あの時の大浴場で一緒に入った時ですか……。」
ベネディッタ様に背中に印があることを指摘されたのを思い出す。
それはどうやら創造神の女神様の表す刻印だったらしい……。
「でも、どうしてリヴィに刻印が??」
「そこまではわからないけど……。リヴィちゃんもいつからその刻印があったのか……わからないみたいだし……。今は何とも言えないよ……。」
「私が女神様の現身……??そんなまさか……。」
お二人が嘘を言っているとは思えないが、私はなかなかその事実を受け入れることができなかった。
すると、隣に座っていたベネディッタ様が甘えるようにしなだれてくる。
「女神様の現身……いいなぁ、リヴィちゃんのこと欲しくなっちゃった……。」
「えっ!?」
「何言ってるんです、誰がベネディッタなんかに渡すもんですか。」
「やだ、欲しい……。リヴィちゃんの事大切にするのに……毎日可愛くして、美味しいお菓子も沢山用意してあげる……。でも、神聖な存在だから……僕以外の誰にも見せないようにお部屋に閉じ込めちゃおう……。」
「監禁しようとしないでください。リヴィは私とステラエーンで暮らすんですよ、ねぇ??」
「え、ええ??」
対抗するようにラン様も私に抱き着いてくる。
どうしていいかわからずにいると、2人は私を挟んで火花を散らすように睨み合い始めた……。
そろそろ死者の国もおわりですね




