第八十五話 大切な指輪
ファンタスマゴリアのお祭りもあと2日で終わってしまう。
明日と、明後日は街で屋台や出し物が沢山用意されるらしい……楽しみだ。
「もうお祭りも終わりかぁ……。」
私は客室に備え付けられている浴室のバスタブに浸かっていた。
ふと、左手を見ると相変わらずクロアから貰った指輪には亀裂が入っている。
「これ、直せるのかな??できれば直してずっと着けてたいんだけど。」
この指輪はクロアから貰った何よりも大切なものだ……。
指先で優しく撫でるように指輪に触る……すると、いきなり指を少し締め付ける感覚が無くなった。
「……えっ??ええええええーーーーーー!!!!」
指輪の亀裂はあっという間に広がっていき、乾いた音をさせて私の指から落ちていった。
思わず大声で叫んでしまい、数分後ラン様とマーレが慌ててやってきて部屋のドアを叩く音が響き渡った……。
「指輪が完全に壊れてしまったのですね??」
「すみません、思わず大声を出してしまって……。」
「クロアにおねだりして新しいの買ってもらえばいいじゃねぇか。お嬢がおねだりすれば指輪でもなんでもプレゼントするだろ。」
「マーレはロマンがありませんね。それじゃあ駄目なんですよ、ねぇ??」
「はい……。」
私はハンカチの上に置いてある、5つの欠片になった指輪だったものを見ながら頷く。
大人しく亀裂が入っているのがわかってる時点で取り外せばよかった、と今物凄く後悔している。
「ですが、これほど細かく壊れてしまっていると直せるかどうか……。」
「ですよね……。」
「リヴィ、元気を出してください。今日は折角のお祭りですし楽しみましょう??」
「そうだぜ。さっき街を見てきたがいろんな屋台があって楽しそうだったぞ。」
「はい……。2人ともありがとうございます。」
私は指輪の欠片を無くさない様にハンカチで包むと大事にいつも身に付けている鞄の中にしまった。
外からは徐々に賑やかな音楽や人々の声が聞こえてくる――お祭りがそろそろ始まるようだ。
街はいつもより不気味な雰囲気がしていた。
配られている飲み物は血のように赤い……だが、飲んでみると爽やかな柑橘のジュースで美味しかった。
毒々しい色のキノコがたっぷり使われた料理や、美味しそうなパイの香りが漂う店先にはお化けの顔にくり抜かれたかぼちゃが格子状の檻の中で暴れている……。
「流石死者の国ですね。全てが不気味です。」
「でもちょっと面白いよな。こんなの他の国では見れねぇし。……な、お嬢??」
「……え??ああ、そうだね……。」
「リヴィの元気は取り戻せませんか。困りましたねぇ……。」
気になるものは沢山あるのに、指輪の事がショックすぎて立ち直れない。
2人にもこんなに気を使わせてしまって申し訳ないし、折角のお祭りなのにクヨクヨしすぎている自分が嫌になる……。
思わずため息をついた瞬間、後ろから伸びてきた両手が私の頬を潰した。
「みんなどう……??楽しんでる……??」
「……御覧の通り、お葬式のような状態ですよ。」
「ええー……なんでぇ……」
「ベネディッタがリヴィに思いっきり攻撃したせいで、彼女の大事な指輪が壊れてしまったんです。」
「そういえば……なんかすごい力で僕の攻撃が跳ね返された……それのせいだったんだ……。」
「ええ、そうです。……だからいつももう少し力をセーブしなさいと言っているでしょう。」
「あの時は久々に本気……だしちゃったから……。」
後ろから伸びてきた手の正体はベネディッタ様だった。
そうだ……この指輪のお陰で私は無傷で済んだのよね。
「私が魔力切れを起こしていないでちゃんと防御魔法を発動できたなら……私の力不足で……。」
「お嬢の気持ちがどんどん奈落に落ちていってるぞ。どうする??」
「ごめん……。新しいの買ってあげる……。」
「……いいえ、お気持ちだけ受け取っておきます。私がすぐに取り外せばよかったんです。もう、諦めます。」
ベネディッタ様が私の両手を握って申し訳なさそうに謝ってくれた。
これ以上楽しいお祭りの邪魔をしてはいけないと思い、私は無理矢理笑ってみせる。
「リヴィちゃん……タバリエルダにいる職人なら……直せるかもしれない。」
「え……本当ですか!?」
「うん……。だから、タバリエルダに行ったら訪ねてみて……。」
「タバリエルダですか。リヴィも行くことになるでしょうし、ついでに尋ねてみては??」
「そっか、タバリエルダにも巡礼地がありますよね。それに、彼の事も……。」
「ええ、最後に仲間になったロロクスがいた国ですからね。」
タバリエルダは砂漠地帯に囲まれた国で、金や宝石が名産で装飾品の加工技術も世界一と言われているのでもしかしたらこの指輪を直してくれるかもしれない。
そして最後の選ばれた勇者――ロロクスと出会った場所でもある……。
旅の最後に仲間になるパターンです。




