第七十九話 運命の分かれ道
私は気が動転した頭で血を流す聖女と、その聖女と特徴が一緒の少女を交互に見た。
だが、少女はようやく我に返って震えた声で私に声を掛けてくれた。
「だ、大丈夫ですか……!?今、村の大人達を連れてきます……!!」
私はその少女の後姿に手を伸ばしたが、意識が途絶えて倒れてしまった……。
次に目を覚ますとそこは、シンプルな部屋のベッドで寝かされていたようで、こちらに気づいた修道女の服を着たシスターが近づいてきた。
「よかった、目が覚めたんですね。村の方達がこの教会に連れてきてくれたんですよ。私の微々たる力ではありますが、傷は全て治しました。」
「そうか……ありがとうございます。」
「大変でしたね。今、この村の周辺で魔物が多くなってきているんですよ。」
シスターが私にゆっくりと話してくれた。
私以外の兵士や、馬車の下敷きになった彼女は村の大人達が来た頃には絶命していて、簡単な葬儀を行い弔ってくれたらしい。
そして、私を教会に運んでくれたようだ……そこで気になっていたことについて聞いてみる。
「お聞きしたいのだが、私を見つけた少女はどちらに??」
「それでしたらリヴィリカですわね。この孤児院にいますよ。村の大人達の手伝いをしていた彼女がすぐにあなたを見つけてくれたのです。」
「そうでしたか……。」
すると、部屋のドアがノックされてシスターがドアを開ける。
そこには先ほどの金髪の長い髪に青い瞳をした少女がいて、シスターに何か話している。
「彼女があなた様とお話したいと言っているのですがよろしいですか??」
「え、ええ。構いませんよ。」
「リヴィリカ、まだ目覚めて間もないのであまり話し込まないようにね。……私はお水を持ってくるから。」
シスターと少女が入れ違いで部屋に入ってくる。
あの凄まじい現場を見たからか、少女の顔色はまだ良くない……恐る恐る私のベッド横にあった椅子に座った。
「先程は助けてくれてありがとう。だが、あんな惨い現場を見せてしまってすまなかったね。」
「い、いえ。大丈夫です。さっきよりは大分落ち着きました。」
「そうか……。」
「あの、さっき私、見つけたんです。多分馬車の下敷きになってしまっていた女性の持ち物だと思うんですけど……。」
少女――リヴィリカはおずおずと、彼女がずっと身に付けていた革製のバッグだった。
それを受け取り、バッグの中を見るとそこには一冊の日記帳が入っていた。
私はそれをめくっていく……どうやら、自分が聖女に選ばれた日から毎日日記を書いていたようだ。
そこには、教会で共に生活していた友人や神父との別れの悲しさ、少しでも自分の聖魔法を上達させるために夜遅くまで鍛錬をしていた事……そして、自分が聖女に選ばれた事を誇らしく思い前向きに魔王退治の旅を成功させようという意志が書かれていた。
「あんなに若いのに……さぞ、無念でしょう。それに……。」
「それをお渡ししたかっただけなので、私はこれで失礼します。お大事にしてください。」
「ありがとう。」
そう言ってリヴィリカは部屋から出て行った。
私は日記帳を眺めながら、自分でも恐ろしい事を考えていた。
「聖都の国王は聖女が亡くなったと知れば大層お怒りになるだろう。……他の聖女の特徴のあるものを探すにも時間が無い。」
私はあの血の気の多い国王の事を思い浮かべる。
予言書の事をお伝えした時、国王はようやく魔王を倒せるものが集まるのか、と喜んでいた。
魔王退治に大事な役目を持つ聖女が居なくなったと知れば私は処罰されてしまうかもしれない……。
「あの少女を、リヴィリカを聖女ということにしよう……。聖魔法はこれから私が覚えさせていけばいい……。それしか、今はそうするしかないんだ……。」
私は震える両手を押さえるように握りしめた。
すると、私の意識は徐々に闇へと落ちていった……。
次の日、体調はすっかり良くなった。
私は早速シスターにリヴィリカが聖女に選ばれたという事を話す。
だが、シスターは首を振ってリヴィリカが聖女という事を否定した。
「あの子は、今まで聖魔法を使った事はありません!!それに魔物との戦闘経験だって……あの子には荷が重すぎます!!」
「いいえ、これは決定事項なのです。もしも、これを拒否すれば聖都の国王が黙っていませんよ。……かの国王は冷酷で有名です。この穏やかな村がどうなってしまうか。」
「そんな……。」
シスターも聖都の国王の噂は聞いているだろう。
血の気の多い国王の怒りを買えば、無抵抗なこの村も攻撃されてしまうかもしれない。
シスターはリヴィリカを私の元へと連れてきてくれた。
なぜ自分が呼ばれたのか理解していないリヴィリカに聖女に選ばれたのだと聞かせる。
「でも、私では無理です。聖魔法だって全く使えません。」
「いいえ、これが貴女の運命なのです。この運命からは逃れられないのですよ。」
「そんな……。だって本当の聖女様はあの馬車の下敷きになってしまった女性ですよね??あの人の代わりなんて私には勤まりません!!」
「……貴女は彼女の日記帳を見てしまったのですね。秘密を知ってしまったからには私と聖都へ着いてきてもらいます。」
私はリヴィリカの両肩を掴み言い聞かせるように言った。
少女の怯えたような瞳に映った私の顔は、自分でも驚くほど冷たい表情だった……。
たまたま容姿が同じだっただけ、それだけだったのに




