第七十三話 死者の国へ
死者の国ニブルヘイムは、ティト大陸のフランジェ王国を南西に行かなければならない。
だがそれは昔の話。今ではそれ以外にも行き方がある。
聖都から北西に向かうと大きな川があってそこの大きな橋を渡ればいいようだ。
フランジェ国との平和条約が結ばれた記念にその付近の街の地主達が行き来しやすいように協力して大きな橋を作成したらしい。
そのお陰で、両国の商人や旅人などに重宝される大事な橋になったようだ。
出発の日、用意してもらった馬車で死者の国の近くの村まで送ってもらう事になった。
リデルやカミールさんなどの人達が見送りに来てくれた。
「では、そろそろ出発しましょうか。」
「どうかお気をつけて。リヴィリカも十分気を付けるんだよ??ラン様とマーレのいう事をちゃんと聞くようにね。」
「わかってるよ。2人が一緒だから安心して。」
リデルが何度も心配そうに声を掛けてくるので安心させるように手を握って言う。
しばらくして、騎士団の勤務から戻ってきたクロアが走って来てくれた。
「すまない、来るのがギリギリになってしまった……。リヴィ、決して無茶はしないように。」
「うん。クロアも騎士団のお仕事頑張って。身体に気を付けてね。」
「ああ。リヴィ、一つ頼みがあるんだが聞いてくれるか??……リヴィが身に付けている何かを俺に貸して欲しい。」
「身に付けている物??いいけど……何がいいかな??」
私は頭の上から身に付けているものを触っていく……リボン??ピアス??
どれにしようか迷っていると、ポケットに入っている教皇様からの招待状に入っていた十字架のネックレスの事を思い出した。
「じゃあ、私がいつも着けてる十字架のネックレスでいい??死者の国では教皇様から頂いた物を身に付けるようにと言われているの。」
「ああ、構わない。リヴィ、俺の首に掛けてくれるか??」
「わかった。はい、どうぞ。」
私は自分の着けていた十字架のネックレスを外し、少し屈んだクロアに首に掛けた。
姿勢を戻したクロアは、そのネックレスに手を添えて笑った。
「ありがとう。これがあれば常にリヴィの加護を受けているような気がする。」
「その十字架に大した効果はないんだけど……でも、よかったらそれだけでもクロアの傍にいさせて。」
「ああ、もちろんだ。常に身に付けるようにしよう。」
私は左手を自身の胸に当ててクロアを見上げる……その左手の薬指にはクロアから貰った指輪が輝いている。
私達はしばらく見つめ合っていたが、先に馬車に乗っていた2人から声を掛けられる。
「おーおー、お二人とも見せつけてくれるねぇ。」
「おやおや、妬けてしまいますねぇ。」
「っ!!クロア、いってきます!!」
2人の声で我に返り、馬車の方を見ると、にやにやと笑っているマーレと拗ねるように頬っぺたを膨らませるラン様がこちらを見ていた。
私は慌てて馬車のほうへと走る。
「リデル……クロアの事ちょっと心配だから気に掛けてあげて。喧嘩はしちゃだめだよ。」
「またリヴィリカが眠っていた時みたいに拗らせないといいんだが……。気に掛けはするが、限度があるからなるべく真っすぐ帰ってくるように!!さぁ、いっておいで。」
「うん!!いってきます!!」
私はリデルに一瞬強く抱きしめられて離れる。
馬車が走り出しても、ずっとこちらを見送ってくれる2人を私も見えなくなるまで見守った。
しばらく進むと、ひたすら平原が広がっていた。
整備されたレンガの道が続いていて旅人や商人など多くの人とすれ違う。
「この辺りも大分平和になりましたね。昔は魔物が多くて大変だったのですが。」
「そうですね。聖都に農作物を運ぶのも危険で大変だって村の大人達が言ってました。」
「そういえば、リヴィはこの辺りの村の出身でしたね。」
「はい。もっと山の方にある村に孤児院があって、そこでお世話になりました。」
山がある方を見ると、小さく孤児院がある村と孤児院があった丘が見えた。
孤児院が老朽化で取り壊されたと聞いたが、実際に何もない状態の丘を見ると少し寂しい気持ちになった。
「お嬢とクロアは同じ孤児院出身なんだよな??」
「うん、私が3歳の時に孤児院に来てクロアに出会ったの。それから、ずっと一緒だよ。」
「ふふふ、リヴィとクロアはずっと仲良しさんですね。ところでずっと気になっていたのですが……。」
隣に座っていたラン様が私の左手を取ると薬指に付けている指輪を指で撫でた。
「この指輪は誰かから貰ったのですか??」
「あ、はい。クロアがくれたんです……守りのまじないがされている指輪みたいで。」
「リヴィはクロアに告白されたんです??」
「こ、告白!?いいえ!!されてませんよ!!守りのまじないはこの指に付けた方が効果があるって言ってて……!!」
私は指輪をはめてくれた時のクロアの言葉を思い出す……あれは告白とかそういう意味ではない、はずだ。
ただ、まじないが効きやすいからこの指にはめたたけだ。
すると、ラン様は私の薬指から指輪を外すと人差し指に移動させた。
「全く、クロアは困った子ですね。まじないはその指ではないと駄目、と言うことはありませんよ。紛らわしいのでこちらの指にしておきましょうね??」
「え、そうなんですか??」
「流石、ランフェル様。恐れ知らずだな。クロアが知ったらキレるぞ??」
「知りません。いっそ潔く言ってしまえばいいものを……変なところで男気が足りないんですよ、クロアは。」
「違いねぇ。」
「??」
面白そうに笑うマーレと、口元に手を当てて笑うラン様……訳が分からずにいると、ラン様が可愛らしく微笑んで私の頭を撫でてくる。
私は違う指に付けられた指輪を少し眺めてから、外の景色に視線を移した。
気づけば、大きな川の上の橋を渡っているようだ……死者の国に着くまであともう少し。
いい雰囲気になりつつあったリヴィとクロアですが、しばらく離れ離れです!!
指輪の事、リデルは流してもラン様は流しません。
見た目12歳の美少年のラン様に男気がどうのこうの言われるクロアって一体・・・でも、おじいちゃんと若造??だからしょうがないよ、うん・・・




